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63話

また舞台は美術室に。

コスプレ部の活動もいいかげん開始しないと。

いやいや、油絵描きなさいよ。

と、神野先生は呆れ顔。


「ミチ、帰るぞ」


「え!?

 な、なつきは?」


「いいから!」


 なかば強引に僕、国立満世は、平川美紀男ミッキー中山田加代子カヨ先輩に両腕組みされて、台矢明美ダイヤ先輩宅を後にした。

 トイレからまだ帰ってない江藤なつき(なつき)を残して、挨拶もせずに。




「ねえ、分かる様に説明してよ!」


 駅までに中ほどの道で、僕はミッキーを睨み付けてわめいた。

 ミッキーだけでなく、カヨ先輩も一緒になって僕を連れ出したのだ。

 先程のダイヤ先輩との会話が関係あるのは明白だ。



 十数分前、帰りの準備も終わってひと息ついた時、なつきがトイレに座敷を出た。

 するとダイヤ先輩が師弟の問題だ何だのと、ミッキーとカヨ先輩に言い出した。

 僕はやっとこさ着替えが終わって、お茶を一口飲んだとこだったので詳しくは分からない。

 3人が真面目な話をしていたのは、ちらと横目で見ながら分かっていたけど。

 そしたら「先輩にお任せします」とミッキーが答えて今に至る。



列車きしゃに乗ったら教えるよ」


「なんで今じゃダメなのさ!」


 なんか嫌な感じだ。

 たぶん、いや、間違いなく、なつき絡みだと思う。

 しかも悪い事で。


「ああん? なんで今じゃなきゃいけねぇんだよっ」


「あっ不良! 不良は嫌いだって言ったよね!」


「うっ……

 わ、わかったよ、汚ねえなあ」 


「ミチヨ君、ダイヤちゃんが師弟で話したいって言ってるの。

 部長を信じてあげましょう」


「ううっ」


 信じるって何を?

 キレモノ2人には分かる話も、僕ではついて行けません。


 セーラー服脱いで畳むのに手間かかったんだぞ。

 会話に参加する余裕なんてなかったんだもん。

 ううう、ホントは僕だけ意味わかんなかった……


「とにかくだ。

 道っぱたで話すより、座ってちゃんと教えるつってんだよ」


「……わかった」


 僕は渋々了承し、列車に乗ってから2人の話を聞いた。


 

「これはあくまで推測だが」

 と前置きからのミッキー。


「今回のゴタゴタ、おそらく江藤も絡んでる」


「も?」


「ああ。

 江藤はあいつらとグルだ」


「ええーーっ!」


 そんな、何を言って……と僕が反論しようとすると、


「残念だけど、そう考えると辻褄が合うのよ」


 カヨ先輩までも同意見らしい。

 いや、あの時の口振りからすると、ダイヤ先輩もそうなのだろう。

 

 レストラン「ロイヤル」での食事の際、やはり話題は高橋センパイの事だった。

 僕は疑問に思った事をカヨ先輩に相談し、必然的に周りの仲間もその事を考えた。


 高橋センパイがミッキーを狙っていた事。

 そういう割には全然本気ではなかった事。

 僕を人質にしたが、僕がいなければどうしたのか。

 ダイヤ先輩に誤解だとさけんでいたが、どういう意味か。

 などだ。


 カヨ先輩は話を全部聞いた上で、難しい顔をして考えていた。

 あの時から、すでになつきを疑っていたのだろうか。

 さとじ君が少し意見を言っていたが、あまり的を得ず、スッキリしなかったのは憶えている。

 確かに、なつきが高橋センパイと繋がっていれば、スッキリとはしてしまう。

 でも、それだと……


「なつき君が仕組んで平川君とミチヨ君をペアにしたと考えれば全部解消。

 実際、なつき君が組合せの言い出しっぺだったしね」


「それは……そうですけど」


「ただ、なつき君の動機が分からない」


 そこなんだ!

 なつきは松田君と仲直りしたらしい。

 だから松田君の手助けをして、稲高を守るのは分かる。

 だけど僕が高橋センパイに人質にされる意味が分からない。


「「たぶん……」」


 カヨ先輩とミッキーの声が重なった。


「どうぞ、先輩」


「いいえ、あなたの方がいいと思う」


「そうですか。では」


 ミッキーが言うには……

 松田と江藤は俺を不良から抜けさせたいのだろう。

 松田ら数人が隠れてコソコソ、俺の巡回をサポートしているのは知っていた。

 高橋は俺が居なくなれば不良のリーダーになれる。

 高橋にミチを襲わせ、今後も同じような事が起こりうると俺に思わせる。

 とはいえ、江藤が親友のミチをそこまで危険に遭わせるだろうか。

 ナイフは江藤も知らなかったとは思うが。


「私もそんなとこ。

 ああ見えて、高橋君は根が優しいから手伝いそうだしね。

 でもやっぱり……」


「はい。

 江藤の動機が弱い」 


「そうよね。

 わざわざ恋敵に塩を贈るみたいな……ねえ」


「その通りだと思います」


「「!!」」


 こらっ!

 否定しろよ。


 うっ、いや、もう気持ちを隠す気ないんだな……

 そういうのも、嬉しいっちゃ、嬉しいかもしんない。


「まあ、連休明けにダイヤちゃんが解答出してくれるでしょ」


 思いっきりニマニマと僕の顔を見ながら、そうカヨ先輩は話を締めくくった。



 ーーーーーーーーーーーー



 2日後、授業が終わると急ぎ美術室へ。


 今朝、顔を合わせてからなつきがおかしい。

 顔を合わせて、とは言っても、目を合わせようとしない。

 話し掛ければ返ってくるが、どうにも他人行儀。

 心配であれこれ聞いていたら、


「ごめん、放課後ちゃんと話すから」


 ててて……と逃げてった。

 

 ダイヤ先輩に何されたんだろう。

 あの人には、なつきの顔面を血まみれにした前科がある。

 心配と不安で、授業なんか頭に入って来なかった。


 僕が部室に入った時にはカヨ先輩と植野先輩が既にいて、2人の脇には当たり前な顔をしてミッキーも椅子に座っている。

 今日から毎日、放課後やって来るらしい。


 その隣で雑談に加わっている生徒会長さとじ君。

 まあ、彼が文句を言わないのだから、稲高生が遊びに来るのは悪くないのかな。


 教室をぐるり見回してみる。

 なつきとダイヤ先輩の姿はない。

「おはようございます」と皆の元へと歩いてく。

 するとガラガラっと引き戸を開けて、その2人が現れた。


「みんな揃っているな」とダイヤ先輩。

 みんなに大事な話があると言い、なつきと並んで僕らから距離をとった。

 僕らは固唾を飲んで見守った。

  


「私、台矢明美と江藤なつきは、婚約しました」


「「「ええええええーーーーっ!!」」」

 

 

 

平川君が汽車って言っているのは、当時はまだ電車じゃなくディーゼルだからです。

列車って言うより、みんな汽車って言ってましたねえ。

今はもう電車になりましたよ。

トンネルの排ガスがないだけでもすごく快適です。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

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