59話 なつきと師匠のおはなし4
なつき視点です。
今度はなつきのターンです。
よろしくどうぞ~。
「まさか、あの斎藤先生を……」
「おいおい、もうやめてくれ。
昔の話なのだから」
先輩の話はちょっと浮世離れしていて、マンガや小説の中身を聞かされているようだった。
それが小学校の頃、すぐそばにいた先生がその想い人だと分かると身近になった。
斎藤先生のクラスになった事はないが、学年主任の若くて厳しい真面目な先生。
だから先輩の好きだった杢目さんとイメージがしっかり重なった。
「たしかに、先輩の仰った杢目さんピッタリの先生でした」
「そうだろう? そうだとも」
「まだ若いのに学年主任でしたよ。
いつも壇上で凛としてて」
「うん、うん」
「静かにせんかって一喝したら、みんなピシッとなるんです」
「ああ、道場の時みたいだな」
「去年だか、2人が結婚したって聞いて僕もびっくり……あ!」
「……いや、いいんだ、過去の事だ」
「す、すみません」
「……その、なんだ。
……美人の他に、どんな人だ?」
「古賀先生ですか?」
こくり。と先輩。
「ミチヨのクラスの担任だったんですが。
明るくて、優しくて、厳しい方みたいです」
「お似合いじゃないか!」
先輩は座卓に両手のひらを叩きつけ、湯呑みを一瞬浮かせた。
全然心の整理、出来てないじゃないか。
まあ、そう簡単にはいかないよな。
「なつき! 私は語ったぞ!」
キッ! と先輩はこちらを睨む。
「これは恋愛トークってやつだ。
最近流行りの女子トークってやつだ」
ぼ、僕男子なんですけど。
「今度はお前の番だぞ!
私より濃いヤツじゃないと許さんからな!」
そんな無茶な……
でも、そうだな。
先輩の後だと、僕なんて大した事ない話かもしれない。
ほんと、先輩は変な優しさを見せるなあ。
いつも僕は甘えてばかりだ。
「先輩。
包み隠さず話します」
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僕はミチヨが好きです。
最初は友達としてでしたが、今は違うと思います。
小学校6年の時、幼馴染みに恋をして、その子をずっと好きでいました。
あ、女の子です。
そ、その、稲高演劇部の子です。
例の燐光寺休の彼女、八重洲ともかです。
ミチヨは今では、ともかに感じたのと同じような、好き、です。
でも、心の何処かから、ともかがチラチラ顔を見せてくる。
ミチヨはそんな僕を分かってて、それでもいいと言うんです。
大事なのはミチヨの、自分自身の気持ちなんだと。
そう言って僕に……キスしてくれるんです。
あ、どうぞ、さっきのハンカチで拭いて下さい。
僕は平川君が荒れた原因を知っています。
ミチヨから聞いてました。
ミチヨと平川君は想い合っていたんです。
おそらくボタンの掛け違いだったんです。
そして2人は今でも愛し合ってるんです。
ただ、そうなると、僕の存在が……
今はミチヨの方が、純粋に平川君と向き合えないでいるのかもしれません。
僕のせいで、2人の幸せを邪魔したくない。
それなら、僕自信で彼らを結ぶ事ができたらと……
…………そんな事思って。
いえ……
違うんです。
優しくなんてないんです。
ちっとも……
ほんとに。
そう、ほんとは違うんです。
全然違うんです!
僕も……
僕も平川君に恋してしまったんです。
ミチヨには、ともかを重ねてた。
男だって分かってても、ともかの代わりに見てたんです。
キスしながらも、きっとそうだったんです。
昔の先輩より、今の僕はもっと人でなしです。
それが……
平川君に助けられた時、気持ちが変わった。
感じた事のない感情だった……
抱かれたいんです。
力いっぱい抱きしめられたいんです。
そしてそのままずっと、ずっと2人でいたい。
先輩。
殴って下さい。
前にやってくれたように。
僕は卑怯者です。
平川君が抱きしめたいのは誰か分かってます。
僕は諦める理由を作っていたんです。
人の為とか言って、利用して、自分の失恋の言い訳を作っていたんです。
先輩、この偽善者を救って下さい。
先輩、僕を助けて……
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「そうか。わかった」
先輩はゆっくり頷き、腰を浮かす。
僕も立ちあがると、座卓の脇の方へ身を移す。
結局先輩に助けを乞う事に。
情けないな。
いつも甘えてばかり。
ゆっくり……
ゆっくりと、先輩は僕のそばに来てくれる。
もう、手の届く距離。
僕はそっと瞼を閉じる。
ありがとうございます……師匠。
心でそう呟いた。
男性は性別が決まるとき、一旦女性になっているようですね。
ですから、どんなにイカツイおっさんだって、女性還りする可能性があるそうです。
いえ、体じゃないですよ、精神がですよ。
体変わる話も嫌いじゃないですけど。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




