表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/80

58話 なつきと師匠のおはなし3

ダイヤ先輩視点、後編です。

先輩ひとりで喋っております。

それではどうぞ。

 

 いつ頃からだろうか、私がその視線を感じる様になったのは……

 学校で、道場で、私は長くその視線を浴びていた。



 中学に上がる前、もう2年以上、毎朝私は自分自身を殺していた。

 心の中で、自分を本気で殺すのだ。

 時に斬られ、時に絞められ、時に高所から飛び降りる。

 最初は杢目さんに黙って自分の部屋で。

 バレてからは、彼と一緒に道場で。


 彼は私に説いてくれた。

 現代の死人(しびと)たるには、感情まで殺すべきではないと。

 死を覚悟し躊躇しないという事は、けして命を粗末にするものではないという事。

 また、自分が死ぬ覚悟が出来ているからといって、他の命を奪っていい理由になる訳がないという事。


 おそらく私が独学で死人になる方が危険であると判断されたのだ。

 が、私はその教えを話し半分で聞いていたのであろうな。

 彼の側にいられる事が幸せだった。

 恋慕の情は募るのに、それ以外の感情が実に希薄であったと思う。

 その分、武道に関する冴えは益々研ぎ澄まされていく。



 その視線を感じたのは、たしか中学に上がって間もない頃だった。

 当時私の感覚は良し悪し関わらず、わずかな気配をも察知した。

 しかしそれは、この死人くずれが唯一持っている人間らしい感情と同じものだというのに、その時の私はそれに全く気付いてはいなかった。

 私にはただ奴が……

 テルミの奴が何故、いつも私を見続けるのかただ不思議だった。


 テルミとタツミは不良になっていった。

 特にテルミの素行が日に日に悪くなっていく。

 タツミの奴はテルミに付き合って仕方なく、というのも見えていた。

 今思えば、自分の好きな女が他人にお熱を上げている。

 しかも2人とも自分が敵わぬ達人ときた。

 そりゃあ、荒れるだろうな。


 あ、当時だぞ、当時。

 今はそこまで私は強くは……あ、まあいい。


 ある日私は、父と斎藤杢二先生の会話を聞いてしまった。

 道場の門下生が付近の学生に暴力を振るっていると。

 間違いかもしらんが、今度問題が起これば看板は降ろすと。


 私は頭が真っ白になった。

 あまりの怒りに実際、髪の毛が逆立っていたらしい。

 私はあのバカを捜し、川土手で不良と対峙している2人を見つけた。

 私がテルミをぶん殴ろうと踏み込めば、それを邪魔しようとする他校の不良が4、5人いたのか。

 面倒なので、まずはそいつらを動けなくして、テルミの胸ぐらを掴んだ。

 そこで私は奴の告白で、奴の気持ちに気付いたのだ。


 女に()されては口外できず、この他校との私闘は表に出る事はなかった。

 私は杢目さんが好きだから、お前とは無理だとテルミをキッパリ断った。

 そしてお前がいると迷惑だから、二度と道場の敷居を跨ぐなと言い渡した。

 ああ、今なら分かるよ。

 私はひとでなしだった。


 事件が起こったのはそれから数日後。

 何かと私を気遣ってくれる学級委員のカヨちゃんと下校中ーー

 あ、カヨちゃんは高1で建て売りに越すんだ。


 私とカヨちゃんの前に10人程の不良が立ち並んだ。

 目的は私だろう事は間違いない。

 この間土手でやられた連中の仲間辺りだろう。

 揉め事は嫌だが、カヨちゃんを巻き込みたくはない。


「おい、場所を変えるぞ」


 私がそう言いかけた時、


「あなた達! 卑怯だと思わないの!」


 カヨちゃんが私と不良どもの間に入って叫んだ。


「うるせえ、引っ込んでな」


 どん、と軽く1人の男がカヨちゃんの肩を小突いた。


「きゃ!」


 と、しりもちをつく。


「中山田! きさ……ま」


 カヨちゃんに手をあげた男に見覚えがあった。

 うちの道場でよくテルミとつるんでいた奴だ。

 よく見るとチラホラ旧門下生が。

 

「お前!」


 そして一番端に、すまなそうな顔をしたタツミまで。

 それで全てが分かった。

 もう私は詰んでいるのだと。

 例えこの場の連中を全員倒そうが倒すまいが、もはや私の負けだった。

 だからといって、腹の虫は収まらん。


「てめえら! 死ぬ覚悟はできてんだろうなあ!」


 私は開口一番タツミの腹に蹴りを入れ、3メートル程後ろに跳ばした。

 そのまま前に進み、倒れたタツミの腹にもう一撃踏みつけて行動不能にする。


 一瞬遅れた近くの2人も足払いした後、顔面を素早く一発ずつ蹴飛ばし血だらけにしてやる。


「死にたい奴から前に出ろ!」


 言いながら、倒れた鼻血2人の腹を踏みつけ、蹴飛ばした。

 奴等は口からも血を吐き、ピクピク震えていた。


 3人を残して、臆病者どもは去って行った。


「あ、明美ちゃん……」


 振り向くと、よろよろと、タツミが立ち上がってきた。


「ご、めん……でも、俺も明美ちゃんが……」

「言うなー!!」


 私は奴の折れてるあばらにかまわず、そこに掌底を叩き込んだ。

 タツミは血を吐き倒れた。


 これはテルミの策謀だ。

 奴は全て分かってやっていた。

 力で敵わぬ杢目さんと私を引き離す。

 不良になり、騒ぎを起こし、問題を大きくして、道場を潰す。

 そうまでしても、私と杢目さんが一緒にいる光景を見たくなかった。

 苦痛だったのだ。


 私は自らの手で、大切な場所と人々にとどめを刺した。

 3人は病院送り。

 道場は閉鎖。

 斎藤親子に近づく事を固く禁じられた。


 杢目さんは、爺さんが居なくなった時に他校に移っていたので、そこにそのまま勤めている。

 平爪小だったかな。

 そこの同僚の先生と結婚されて、今は幸せらしいな。


 おお。なつき君の母校だったのか。

 古賀先生という方と……美人の……そうか。

 ……良かった。

 

ダイヤ先輩目線では高橋センパイは分かってて加勢したと思ってるようです。

でも、センパイはテルミ君のうわべの作戦を信じていましたねえ。

なんか、一番可哀想。

告白もさせてもらえなかったし……

もし再登場あれば、優しくしてあげるね。

今のとこ無いけど。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ