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57話 なつきと師匠のおはなし2

なつきとダイヤ先輩だけのふたり舞台は続きます。

どうぞよろしくです。


 先輩は、まるで睨み付けるかの様に僕を見詰めている。

 じっと、真っ直ぐに動かない視線を受けていると、心すべてを見透かされている気分になる。

 私には正直に話してみろと、無言で語ってくれているのだ。

 こういう時の先輩の瞳には、鋭いくせに何故か温かさがある。


 僕は、先輩になら話してもいい。

 いや、先輩に話を聞いてほしい、相談にのってほしい。

 そう思うようになってしまった。


 ただ問題はどこまで……

 何処までこの胸を晒せるだろうか。

 正直、人前で話せる類いじゃない。

 普通の人なら気持ち悪がる、けど、そこは先輩だと喜ぶとは思う。

 でも……それも……違う。


「先輩」


「なんだ」


「好きな人って……いますか?」


 思わず、質問を返してしまった。

 だけど、何故か知りたかった。

 知ったからといって、僕と先輩とでは比べらんないと思うけど。

 でもすごく知りたかった。


「ああ、いたな。

 いる、じゃあないけどな」


 え?

 あっさり答えてくれて、ちょっと驚いた。

 いつもだと照れたりはぐらかす系統の話だから。


「そうだな。

 お前にだけ話せというのはフェアじゃないな」


「え?」


「私の恥ずかしい初恋話を聞いてくれるか」


 先輩はそこで少し照れた表情を見せて、微笑んでくれた。



 ーーーーーーーーーーーーー



 私の爺さんは、知っているだろうがアメリカ人だ。

 親日家で、いや、最近の流行りで言う、オタクってぐらいの日本好きだ。

 だが仕事の出来る人で、炭鉱の建前で日本に来たのに、主な事業を石炭よりセメントにシフトする。

 お陰で台矢家は炭鉱閉山後もこうして裕福でいられる。


 いやいやいや、自慢じゃないんだ。

 そういった金を屋敷や趣味以外にも使ったと言いたかったのだ。


 爺さんは私が生まれて喜んでな、ほら、目に入れてもってやつだ。

 それで庭にな、道場を建てたのだ。


 いやいやいや、心配だったのだ、女だったから。

 あ~れ~、ご無体なってのを本気で心配してたのだ。

 だが、やるからには優秀な人だから半端じゃなかった。


 何処を捜したのか爺さんは、旧佐賀藩の体術指南、斎藤家の者を連れてきた。

 鍋島藩からの血筋で、斎藤杢二(もくじ)先生と息子の杢目(もくめ)さんといった。

 鍋島藩士の葉隠(はがくれ)武士はな、死人(しびと)といって朝1回死んでおくんだ。


 ん? 死ぬんだよ、心の中で。

 何でって、死んだら死に直面しても躊躇しないだろう?

 もともと死んどるのだから。

 

 死人はな、手を落とされれば蹴り殺し、足をも斬られれば噛み殺す。

 そういう流れを汲む体術が斎藤流だ。

 その先生に道場を開かせ、私はもちろん、近所の子らにも通わせた。

 その中に、大田輝美と高橋辰巳がいた。

 テルミの奴なんぞ「斎藤の3み」とかゴロの悪い事言って流行らそうとしおって。

「一緒にするな!」と動けなくしてやったもんだ。


 むむっ、違うぞ!

 こんなお子ちゃま2人を好きになんぞならん。

 私が……

 私が生まれて初めて、好きになったのは……

 杢目さんだ。

 先生の息子で師範代だった方だ。


 杢目さんは大学を出て、小学校の先生になろうとしていた。

 卒業前だったので、爺さんがこっちの小学校にねじ込んだらしい。

 私は低学年だったが、一目惚れだった。

 

 新任のくせに私のクラスで担任なのだぞ。

 素敵な若い先生が来たと思ったら、斎藤先生の息子さんだぞ。

 そりゃあ、運命だと勘違いもするだろう。

 

 学校では一生徒として接し、道場では厳しく。

 でも稽古が終わり、皆が帰った後には、私だけの個人授業をしてくれた。

 杢目さんは、その時だけはすごく優しいのだ。


 ん?

 なに顔を赤くして……

 バカ! 個人授業というのは、武術と宿題だ!


 そんな幸せな時間を数年過ごし。

 私は中学に上がっていた。

 パトロンの爺さんは小6で他界したが、道場は変わらず続いていた。


 私は大人に近付くにつれ、杢目さんに対する想いが変化している事に気づいていた。

 けしてそれは表情(おもて)には出さない感情。

 学校では会えなくとも、朝晩の道場では一緒の時間を共有出来る。

 それはずっと続く事だと普通に思っていた。


 毎朝、彼は道場で一度死んでいる。

 普段他人と普通に接しているが、かれは死人(しびと)だった。

 私もそれを見て自然と真似をし、すでに死人だった。

 だから、感情が他の中学生ほど明るくはなかったのだろう。

 父は口に出さなかったが、道場など潰してしまえと思っていたようだ。


 私は毎朝死んでおきながら、だが、杢目さんの事は想い続けた。

 あの頃の私だったら目前の自分の死にも、眉ひとつ動かさなかっただろう。

 そういうのと、恋慕の情とは別なのか、未熟だったのか。

 おそらく、葉隠武士としては未熟だったのだろう。

 

 そう……

 その事が(いびつ)とも言える形になって、現れるのだから。

 


 

 


ダイヤ先輩の知られざる過去が!

って、そんな大それたもんでもないですね。

次もダイヤ先輩目線かなあ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

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