55話
ミチヨ視点に戻ります。
久し振りになつきの登場です。
よろしくどうぞ~。
「ミチヨ! 怪我は無い?」
待機場所にしてあるレストラン「ロイヤル」に戻ると、なつきが心配で顔を青くして出迎えてくれた。
少し前、僕とミッキーはゲームセンター「チャンピオン」に向かうため、勝手に別行動をとった。
その事に気づいた先輩方が僕らを捜索している間、なつきはずっとここで気を揉んでいたようだ。
「なつきい~、怖かったよう」
据付け型のソファーから立ち上がり、テーブルにお腹をしたたか打って躓く彼を、僕はキャッチする様にして抱き締めた。
なつきはぎゅうっと強い抱擁を返すと、ちょっと体を離し僕の顔から体へと視線を移す。
そんなに真剣に見詰めてくれて……
心配されるのも悪くはないな。
「大丈夫。かすり傷ひとつないよ」
「そう……
良かったあぁぁぁぁぁぁ」
半分以上ため息の様な安堵の声。
ちょっといたずら心が出てきちゃう。
「でも怖かったんだよう。
ナイフ、顔に押し当てられて」
「ナイフ!!」
なつきは大きな瞳をさらに見開いて、声を上げて驚いた。
ゴメンね、せっかくホッとしたのに。
「でもほんと大丈夫。ダイヤ先輩も駆けつけてくれて」
僕は続いてぞろぞろ店内に入ってきた、仲間の先頭を歩く美人に顔を向けた。
「そうだ、危なかった。
既のところだったんだぞ」
「そんな……」
「奴等の命の灯火がな」
「「………………」」
ダイヤ先輩はテーブルに着きながら笑えない冗談を言ってアッハハハと笑う。
本人はそれが冗談になってないとは気づいていない。
まあそんな先輩のお陰で、場が一気に静まるのは助かったのだけれど……
そう、実はその事は大変ありがたかったのだ。
ここのレストラン「ロイヤル」は、喫茶店の様な使われ方をして愛されている。
物静かな落ち着いた雰囲気。
そこを僕達は再入店する度に、矢鱈といちいち騒がしい。
もういい加減追い出されそうな予感がする。
とはいえミッキーの推測が正しければ、今日の目的は概ね果たされたのではなかろうか。
出入り禁止になる前に、さっさと退散すべきだろう。
「みんな、今日はどうもありがとうございました」
依頼主である生徒会長の山本さとじくんも、〆の言葉を言おうと口を開いた。
「そうだな、みんな良くやった!
これで恐らく稲高生によるゴタゴタは沈静するだろう」
「…………」
ゴメンねさとじ君……
ダイヤ先輩は彼の気持ちなど気にもとめない。
スックと立ち上がって、いつもの様に話し出した。
「だが油断はできん。
しばらくは様子をみて、ダメならば今度こそ手痛いおしおきを受けてもらおう」
「…………そ、そうですね。その、仰るとおりで」
「今日のところは充分な結果だったと私は思う」
「はい……ありがとうございます……」
「まあ、今日はまだ昼飯も食ってないからな。
ここは私がご馳走しよう。
褒美だと思って、好きな物を注文するといい」
「「「おおーーーっ!」」」
「そんな、台矢さん、お願いしたのは私ですから……」
「私は金持ちだ。
さとじ君、遠慮したら承知せんぞ」
手にしたメニューを押し付けながら、ダイヤ先輩はニッコリ笑顔を見せた。
すっかり先輩に仕切られて、さとじ君はもう一度、
「はい……ありがとうございます……」
と言ったきり、受け取ったメニューに黙って目を移した。
下を向き料理を選ぶその姿が寂しそうに見えてしまう……
見えてっていうか、完全にショボくれてるよね。
ほんとゴメン、さとじ君。
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食事が終わると僕たちは一旦ダイヤ先輩の家に向かった。
集合場所だったダイヤ邸に着替え一式置いたままだったからだ。
ただ、さとじ君だけはひとり学校に向かった。
彼は最初から制服だったのと、DJに報告に行く約束があるからだとの事。
DJというのは生活指導の堂島丈二先生のニックネーム。
でも直接そのニックネームを、誰も本人には言えないのだけれど。
さとじ君は昨日の下校前、あらかじめDJには今日の事を伝えておいたらしい。
現場付近を軽く視察して、念のためダイヤ先輩や数人にも付き添ってもらうと。
DJは、台矢がいるなら絡まれても心配ないな、と言っていたらしい。
「おおっ堂島め、分かっとるではないか」
フフンと先輩は鼻を鳴らす。
「何かおっ始めたら、原因は台矢だろうから、そんときゃ放っぽって帰っていいぞ。
とも言っていましたが」
「なんだと!
あの槍投げダルマめ」
僕らみんな腹の中では、DJ分かってるね、と思っているだろう。
持ち上げられて落とされた先輩を見て、ちょっと気を良くして生徒会長は学校へと去っていった。
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ダイヤ先輩の家で着替え、出されたお茶を一服すると、もう外は薄く闇が覆い始めてきた。
もうそろそろお開きかという時、なつきがトイレにと腰を浮かす。
「悪いなつき。
一階のは閉鎖中だ」
「はい、知ってます。
二階上がらせてもらいます」
てけてけてけてけ……
なつきは座敷を後にした。
「ダイヤちゃん、ちょっと……」
「台矢さん、すみません……」
うっ!
と2人ーー
ミッキーとカヨ先輩という珍しい二人組が、示し合わせたかというタイミングで声を出した。
思わず顔を見合わせ、でも何かしらをお互いに感じたようだ。
「すまない、カヨちゃん、平川君。
なつきの事は私ひとりに任せてもらえないか」
「「!!」」
「今日もうちは私だけだろう。
師弟でじっくり語り合いたいんだ」
「ダイヤちゃん……」
「台矢さん……」
どどど、どういう事?
僕だけ何か、訳分かんないんですけど!?
分かんないけど……
あまりいい話ではないって事ぐらいは、雰囲気で感じ取れた。
さとじ君と別れたとこで、生徒会からの依頼編はおしまいです。
次からは、なつき&ダイヤの師弟2人のおはなしです。
さっき帰り際にカヨちゃんから、
「絶対に顔は殴んなよ!」
と釘を刺されておりました。
腹ならいいのか?
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうぞ、よろしくお願いいたします。




