54、5話 高橋センパイの回想
今回は高橋センパイ目線です。
こんな男に1話割くのはもったいないので、半分です。
冗談、短いからです。
ごめん、タカヤン。
今日はまったく、酷い目に遭った。
何が、隙さえつければ上手くいきます、だよ。
「逃げろ!」とか叫んじまったよ。
みっともねえったら、ありゃしねえ。
ん~、だが、奴が言うには結果はどうでもいいらしい。
俺の頭じゃ分からんが、要は平川の女を人質に取りゃあ成功だっていう話だ。
それじゃあ、取り敢えずはあれで良かったのか。
これで平川が不良をやめりゃ、俺が稲月のトップって訳だな。
ホントか~?
本当ならめっけモンだが……
ってか、本来順当なら俺にすんなり来ていた地位だっつ~の!
しかしあのキザったらしい平川の野郎、最初はどうボテクリコカソウかと思っていたが。
仕方ねえよな。
魅了ちまったからな。
テルミくんとのタイマンを……
テルミくんとは明美ちゃんとこの道場通う前からの付き合いだ。
あのテルミくんと引き分けちまうんだもんなあ。
あいつらバケモンかってんだ。
シャレになんねえっつ~のよ。
くそ~、あんな楽しそうなテルミくん見たのも小学生ぶりか。
平川の強さは本物だ。
だが俺にも分かる。
あいつはこんな事してていい人間じゃねえ。
俺ら不良の行き着くとこは決まってる。
頭の無ぇやつは体で稼ぐしかねえ。
トラック乗るか、土方か大工か鳶か。
運良く建具職人になれた先輩もいたっけか。
ほぼほぼ全員、社会の歯車の最下層さ。
だから今なんだ!
俺達が輝けるのは。
うぜえ~よ、かったりぃ~よ、やってられっかよ。
イキがって、教室でふんぞり返っていられんのは、そこにいられる卒業までだ。
精一杯社会に反発して、大人に楯突いていられるのは。
平川、お前はずっと後だ。
俺らみたいなチンケな光じゃねえ。
もっともっと磨いてその時が来たら、真夏の太陽くらいに俺らを照らしてみせろってんだ。
……お前なら出来るよ。
あ! 松田の奴め。
あそこで明美ちゃ……
ダイヤが来るなんて聞いてないぞ!
ったく、あの女、相変わらず人の話を聞きゃあしねえ。
前回もそうだもんな。
テルミくんに頼まれたんじゃなきゃ、誰がやるかっつーの!
だいたい、俺が犯人にいる時点で察しろってんだよ。
ホンットあいつはバカなんだからっ!
……いや。
あいつは俺らと違ってバカじゃねえ。
そっか、あれが明美ちゃんなりの答えだったんだな。
お前のせいだとマジギレして、テルミくんもボコられた。
カッコ良く助け出して好かれようだなんて間抜けに考えて、
「貴様の彼女と思われるなんぞ、虫酸が走る!」
告白する前に、ナチュラルに振られたらしい。
見舞いに来て話すテルミくんは涙目だった。
病室の俺に謝って、それからどうにも疎遠となった。
俺のあばらを折り、その場所辺りを何度も蹴飛ばしながら……
今日みたいに美しい顔を歪ませていた。
そういえばお前は、何故かあの時泣いていたなあ。
俺は親友を止める事も出来ず、自分の気持ちを伝える事も出来ず……
お前にはそれを見透かされていたのかもしれん。
くそ~、松田のせいで今日は酷い目に遭った。
ダイヤに睨まれるし、苦い過去を思い出すしな。
あ、そうだ!
あいつにナイフ返さないかんかった。
それにしても、良くできてんなあ~。
さすがは演劇部の小道具だけある。
こんなの誰に借りて来たんだか。
ボテクリコカスは、大変たくさん大いに殴るという意味です。
どうでもいい?
失礼しました。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




