53話
ミチとミッキーのランデブー?
なんかちっとも色っぽくないですね。
はてさて、どうなる事やら。
道幅は4メートルもあるだろうか、軽自動車がやっとすれ違う事が出来るくらい。
そんな細い間道ーーアーケード商店街と大通り(長崎街道)を繋ぐ脇道。
そこをヅカヅカと進むミッキーの左腕に僕は、ぶら下がる様にしがみつき歩いていた。
ただでさえ商店が少なく寂しげな通りになりそうだが、本来はもっと老若男女が歩いて然るべきなのだ。
けれど今、ざっと見渡しても3人のやさぐれた男以外には、ダサい服着たガリ勉君とセーラー服姿をしたその彼女しかいない。
まあ、僕達なんだけど。
要は僕らくらいしか普通の人……に見える人は歩いていないって事だ。
その原因はおそらく、いや間違いなく、今ミッキーが向かう遊戯施設にある。
ゲームセンター「チャンピオン」
このゲーセンが出来て、この通りから女子供の姿が消えた……
なんて言うと時代劇でゴロツキがうろうろしている宿場町みたいだけど。
だが実際は当たらずも遠からじ、ってところだろう。
それまでのゲームが出来る場所は、数軒ある大きめな駄菓子屋の中や外。
店内にはテーブルタイプのゲーム機が、店舗の規模によって2~10台くらい。
外には20円の、立って操作するゲーム機が1、2台置いてあった。
あとは駅前の「大和」に行くしかない。
どの場所もワイワイガヤガヤやかましく、クチャクチャクチャクチャ何か食ってる奴がいる。
そこに現れたのが「チャンピオン」だ。
明らかにターゲットは大人な男。
照明を抑えて、ゲームの邪魔にならない程度の音楽を流す。
直ぐに食いついたのがヤンキー連中だった。
彼らだって、ゲームがやりたかったんだ。
でもガキンチョに混ざってやるのはカッコが悪い。
賑わいのある場所に不良は不似合いだし、彼らにしても居心地のいい所ではないのだろう。
すぐにその店は、不良の巣窟となってしまった……
「おおっ、居やがった」
「!!」
急に足を止めたミッキーが呟いた。
見るとゲーセン入り口の脇、ビルの路地辺りに3人の学生らしき男子がいる。
何やら楽しげに話していて、10メートル程離れた僕らにはまだ気づいていない。
「稲高生?」
「ああ。
見た顔だ」
僕は確認を取る。
更に、
「やっぱり不良?」
決まりきった様な事を聞く。
「いや。
悪ぶってはいるが、それほどじゃないよ」
え? そうなんだ……
やっぱり、僕の目を通した印象では、ちょっと景色は変わるのかも。
「問題はそういう奴等が場を荒し、自滅しそうになっているって事だ」
そうだ。
そうだね。
却って不良の方がその辺りは心得ていたりするのかも。
あまりやり過ぎると自分の首を締める事になる。
特に普通の、真面目にしている他校の生徒になんて威圧し続けたら、問題にならない訳がない。
「あいつらは喧嘩のやり方も分からなければ、やる相手も分かっていない」
「うん」
「本当の不良はな、適当に生きてはいねえんだ。
あれはあれで無理して、いや、努力してるみたいに生きてるよ」
「努力!?」
以外な言葉だ。
不良に生きる努力?
「まあ、その話は後だ。行くぞ」
一瞬ミッキーの言った言葉に意識を奪われ、踏ん切りをつける前に引っ張っていかれた。
僕はあわててまた、ミッキーの左腕に絡み付く。
急に歩き出さないでよと、心で悪態をつきながらも、不安で腕に頬をよせて歩いた。
とととっと数歩ばかり進んだ所で、早くも3人の目がこちらに集まってくる。
途端に彼らの目に下卑た、人としての品位を数段落とす色が出てきて、そして染めていく。
思わず、こんな奴等退学にでもなればいいのにと思ってしまった。
いやいや、彼らの今を全てだと思っちゃいけない。
「おいおいおいおい」
「何? 何で嘉東がこんな所でイチャついてんの?」
「おい、ひょっとして、俺らナメられてる?」
そう思っちゃいけないけど……
これは酷い。
こんな事続けてたら、問題にならない方がおかしいだろう。
「おい! ガリ勉君よお、喧嘩売ってんの?」
男達のひとりが両手をズボンのポッケに入れて、わざとらしいガニ股で近寄ってきた。
他の2人がグヒヒだかキヒヒだか、変な声で笑っている。
世紀末なんちゃら伝説か!
「おいおい、なに無視してくれてんの?」
ガニ股は奇妙な歩き方で、ミッキーの1メートル手前まで近づいてくる。
僕の予想では、顔をミッキーの顔に触れる位までくっつけるつもりだろう。
メンチを切るってやつだ。
「おい、お前は何度目だ」
急にミッキーが低い声で呟くように言った。
「!?」
思わずガニ股の足が止まる。
ガシッ!
ミッキーの右腕が伸びて、ガニ股の首をむんずと掴んだ。
ガニ股は両手をポッケから出して、必死に首の手をほどこうとする。
ミッキーの手はギリギリと効果音が付きそうなほど、すごい握力で締め上げている。
「聞いてんだ!
てめえは何回、こんな事やったんだよ!」
「うううう、ぐ、ぐるじい……」
「おい! てめえら!」
「「はいいっ」」
ミッキーの気迫に圧されて、他の2人は神妙になる。
今襲いかかればチャンスかもしれないが、そうさせない力がミッキーの声にあった。
絶妙のタイミングで牽制になったのだろう。
どれだけ場数踏んでんだ、この男。
「お前ら、正直に言え。
何回やった。
怒らねえが、嘘だったら殺す」
「は、はいい、2回目ですっ」
「そ、それも、前は他の奴等のを脇で見てただけで」
「嘘じゃねえだろうな」
「はいいっ!」
「もう二度としません!」
ドサッ
ミッキーが手を離すとガニ股はその場に倒れ込み、首を押さえながらゲホゲホ咳き込んでいた。
もう。
話し合いだって言ってたくせに。
ん? う~ん、まあ、ギリギリ話し合いになるのかな?
ならないよっ!
まったく。
グイッ!
うぐっ、痛いっ。
急に引っ張られた。
なんだ?
ああっ、ナ、ナイフ!
ナイフが目の前にいっ!
「平川! 動くんじゃねえぞぅ。
動けばこの可愛い顔が傷物になっちゃうよ~」
「!!」
き、気が付けば、僕の背後から数人が参戦したらしい。
僕からじゃ、よく見えない。
ほっぺたにナイフを当てられて、う、う、それどころじゃない。
「高橋……てめえ……」
「「「ひ、平川!?」」」
「おめえら馬鹿だなあ。
喧嘩売る相手くらいよく見ろよ。
歩いてる足運びだけで、尋常じゃねえぜ」
なんかこの人、ヤバイ気がする。
ムダ口叩きながらも、僕が逃げ出す隙なんてない。
他の3人や先日襲ってきた金太達とは、纏っている空気が違う。
本当だ、全然違う。
これが本物の不良なんだ。
「高橋サンだろうがよ、後輩。
平川~、変装までしてご苦労なこったな」
「ひ、平川さんに、け、喧嘩を、う、売った?」
「おおっ、お前らサンキューな。
お前らが派手にやらかしてくれたんでよ、嘉東もセンコーが動き出してんだと。
おかげでプッ、丸く納めようとククッ、コイツがノコノコやって来たってのよ」
高橋はそう言うと、うひゃひゃひゃと高笑いした。
それでも僕を掴む腕の力を弛めてはくれない。
「「そ、そんな……」」
「平川さんっ」
どうしよう。
このままでは、ミッキーが酷い目に合わされてしまう。
僕を助ける為に。
僕が捕まったせいで……
昔クラスの不良が教師とやりあってるのを見て、何でそう面倒くさい事やんのかね、と思ってました。
僕らが傍から見てもそうなんだから、本人もきっと面倒だったに違いありません。
そう思ってよく見れば、不良の生き方って結構大変なんですよね。
何故反発しなきゃいけないのか。
今は立派になった弟に、昔の事、聞いてみようかな。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




