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51話

ミッキーが出るとなつきが引っ込む。

なつきが好きな方、ちょっと我慢しててくださいね。

しばらくはミッキーですよー。


「ねえ、ちょっと見てもいい?」


 ファンシーショップ玉置の前に来たので、僕はミッキーにお願いした。

 昔は玉置文具店だったこの雑貨屋は、小学生の頃から大のお気に入り。

 おしゃれな文具が学生に、かわいい髪飾りや小物が若い女性に人気のあるお店なのだ。


「おう、いいぞ」


 僕らは店の表に飾ってある、ちょっと大人向けの装飾品コーナーを物色する。


「昔、紙作りの職人がいてな」


 ミッキーが楽しそうに話し掛けてくる。


「溶かした紙を乾かす間の暇潰しに吉原を回ったのが、冷やかすの語源らしいぞ」


 でた、蘊蓄(うんちく)

 物知りな男は、隙を見せれば語りたがる。

 こういう時は一緒に選んでくれたりした方が嬉しいのに。


「それなら、乾かすになったんじゃない? これどう?」


 僕はちょっと気になった、飴色の髪飾りを着けながら答えた。


「知らねえよ、当時の吉原の女達が言っ!

 ……き、綺麗だ、ミチ、すごく」


「あ、ありがとう……ございます」


 急にそんな反応するから、こっちの調子も狂っちゃうじゃないか。

 でも、でも、嬉しいいいっ。


「それ、買ってやるよ」


「え! いいよ、高いよ」

「いいから」

「ええええっ!?」


 ミッキーは髪飾りを僕から奪うと、足早にレジへと向かった。

 横から見ると5千円もしてた。

 そんなにするの!?


「俺はカツアゲなんてしないから、安心して使えよ」


「ありがとう。

 ミッキー、僕がそんな事疑うわけないだろう」


 僕は嬉しくってつい、ミッキーの左腕に抱きついた。


「カ、カヨちゃん、これどうかなあ」

「いいんじゃなくって、ダイヤちゃん」


 ビクッ!


 すぐ横を見ると、先輩方も店の表で物色していた。

 商品を手にしながら、目は店先でイチャつくカップルを凝視していた。

 まあ、僕らなんだけど……

 ダイヤ先輩はやはり鼻血を垂らし、カヨ先輩は商品が汚れないよう相手の鼻をハンカチで押さえる。

 間の抜けた光景だが、ふたりは気にならないくらい興奮していた。


「ほら、せっかくだから着けてやるよ」


「え? あ、うん」


 そ、そうだよね、イチャつく方が計画通りなんだもんね。

 ミッキーは包装紙を開いて、楕円の形をした上品なオレンジの飾りを、僕の髪に着けてくれた。


「そんなに似合う?」


「ああ。 世界で一番綺麗だよ」


 ミ、ミッキー……


「「いやあああああああんんん!!」」


 ちょ、ちょっと……

 やめてくんない。

 今、僕が、キュンって来るとこだったんですけど。


 先輩2人の興奮は絶頂に達し、手を取り合って悶絶している。

 お陰で僕らは、すっかりシラケてしまった。


「もういいよ。

 こんな変な人達ほっといて、向こう行きましょ」


「あ、ああ。 そうだな」


 僕らは足早に、店から離れていった。

「お客様困ります」という店員の声がうしろの方に聞こえた。


 

 ーーーーーーーーーーーーー



「まったく!

 あれじゃあ、作戦が台無しじゃないか」


 僕は憤懣ふんまんやる方なく、ブーブー言っていた。

 小さなテーブルの向かいに座っているミッキーに言うでもなく。

 ロイヤルから玉置を過ぎて、さらに数百メートル行った所右手にある、古い喫茶店に入っていた。


「まったく!

 何考えてんだかっ」


 ほんと、腹が立つ。


「まあ、どうやら、先輩方も本腰じゃあなかった様だな」


 んんっ?

 先輩方も?


「どういう事? ミッキー」


「お前、こんな大通りで本当に稲高生が絡んで来ると思ってんのか?」


 えっ!?


「だって、さとじ君は被害者から絡まれた場所を聞いてるんでしょ?

 だったらその場所を中心に回ってるんじゃないの?」


「聞いてても、作戦は中山田先輩が考えたんだろう?」


「うん、たぶん、さっきのロイヤルで」


 僕なり、さとじ君なりが立案すれば、先輩に負担の大きい今回の内容はまず無いだろう。

 申し訳ないが、即興でカヨ先輩以上のアイデアが出るわけもなく。

 そうか、先輩が考えたのなら、若干の場所の違いなんかは口出せないかも。


「生徒会長も分かってて、指示に従ったのかもな」


「え?」


「今回は警告ですよ。

 うちは警戒してますよ。

 次やったら承知しませんよ。

 だから先輩方もあからさまに尾行をしていた」


「んな、何でそんな事を?」


 それでは、さとじ君の依頼とはほど遠い。

 しかもミッキーの推測では、さとじ君もそれを承知で付き合ってると。


「お前は自分達の方しか見てないんだよ」


「え?」


「もし、全て計画通りに事が運んだとする。

 生徒会長が写真を学校に提出したとする。

 学校間の問題になる」


「そう。

 それで稲高は大人しくなって、被害は減るじゃない」


 その為に女装までして頑張ってんじゃん!


「ああ。減るだろうな。

 じゃあ、写真を撮られた稲高生はどうなるんだ?」


「あっ!」


 そうか、そういう事か。


「そうだ。

 良くて停学。

 学校間まで大きく問題になんだ、たぶん退学だろうな」


「そ、そんな……」


「自業自得って割り切れるか?

 お前達が退学に陥れる、と思わないでいられるか?」


 そうか……

 先輩方は嘉東かひがしも手を打ってるぞ、と一度は警告してやろうと。

 それでも手を出す馬鹿者ならば容赦はせんぞ、と。

 そういう事なのかな。


「俺としても、みすみすうちの生徒を退学に、って訳には行かせられないし」


「じゃあ、ミッキーはどうするの?」


「すまんがミチ、ちょっと付き合ってくれないか?」


 黒ぶち眼鏡を外したミッキーの瞳は真剣で。

 僕は、あまりいい予感はしなかった。



悪い事って、大勢でやると罪悪感が薄れますよね。

誰かひとり吊し上げられると、波が一気に引きますでしょ。

その人だけが悪いのかな?

他人事だと思っていると、気づかない内にあなたが同じ立場になっているかもしれませんよ。

今、悪いって思い至ってないのかもしれないから。


読んでいただいて、ありがとうございます。

次話もどうかよろしくお願いいたします。

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