50話
いよいよ作戦発動です。
う~む、里1号作戦とでも名付けましょうか?
……カッコ悪い。
ではではどうぞお楽しみに。
「手、繋ぐか?」
「う、うん」
ミッキーがぎこちなく出してきた左手を、僕はおそるおそる握りしめた。
ふたり横並びに、イイヅカのアーケード商店街を歩いて行く。
最初は握手の様な繋ぎ方だったものの、どちらからともなく互いの指を絡ませて握りあった。
コレが恋人繋ぎかあ。
かつて想い描いていた光景だった。
すごく幸せな気持ちになる……が、後ろからしっかり観られているはずだ。
チラとだけ、20メートル程後ろの女子カップルを見る。
背の高い方。
ジャケットにジーパンと、ラフな格好をしたロングヘアの美人は、しかし鼻血を垂れ流していた。
隣の背の低い、腰まである黒髪ストレートの女の子は、やはり鼻の穴大きく興奮してこっちを見詰めている。
仕方がない。
これは作戦なのだ。
1時間半なつきとさとじ君は頑張ったのだから、今度は僕らがしっかりやらないと!
そう、しっかりと……デ、デートを。
そう。デートして稲月高校の不届き者を、上手く釣り上げないと!
ダイヤ邸を出て、列車ではなくバスに乗る。
ケーセン駅からイイヅカ駅だと、そこからアーケード商店街まではかなりの距離がある。
イイヅカ、新イイヅカ、どちらの駅とも3、4キロは離れている。
バスでイイヅカバスセンターの場合だと、目的地までは目と鼻の先だ。
僕らはバスで商店街へと移動し、メインストリート真ん中地点にある「レストランロイヤル」に陣取った。
ロイヤルはレストランではあるが、ほぼ喫茶店という使われ方。
店はその事をちゃんと弁えているらしい。
照明は薄暗く、入ると挽いたコーヒー豆の薫りが客を迎えてくれる。
通り寄り、ガラスに面した席のひとつに6人詰めて腰かけた。
ここからだと、何かあったら逸早く行動できるから。
とりあえず人数分のコーヒーを注文して、これからの事を打ち合わせた。
まあ、打ち合わせというよりは最終確認。
最初になつき&さとじ君のペアが商店街をイチャコラしながら往復していく。
メインの通りは1キロあるかどうか。
ただ歩くのではなく、時折お店に入ったりした方がいいだろう。
とにかく、標的から絡まれなくては意味がない。
その後ろで、やおい大好きカップルが付かず離れずをキープする。
僕とミッキーペアはその間ここで待機。
なつき達が絡まれたら、カヨ先輩がカメラをパシャリ。
ただし、稲高生の人数が多くてダイヤ先輩ひとりじゃ荷が重い時は、即応援を呼びに戻る。
交替して、僕らが絡まれた場合は少し状況が変わる。
生徒会長さとじ君が写真に居ないと意味がない。
ので、その場合もカヨ先輩が急ぎ待機場所までダッシュする。
結構責任重大だ。
さとじ君が合流するまで、僕らは相手をその場に留まらせなきゃならない。
これも大変だ。
ミッキーがいるから大丈夫、って訳でもない。
絡んだ人間を血祭りにあげて、そこへノコノコさとじ君がやって来たらーー
屍の山に片足あげた生徒会長では、間違いなく稲月高校から訴えられる。
結果だけ目にした者には、そう見えてしまっても仕方がない。
日曜日の商店街だ。
どの様な人が、どの様なタイミングで僕らに出会すのか。
さとじ君が稲高生と相対している時は、常に人々の同情を買わなきゃいけない。
それは絶対条件だ。
「何はともあれ、まずはやってみよう!」
ダイヤ先輩の号令で、作戦は開始された。
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「このバカ者! いったい何しに来たのだ!」
激昂したダイヤ先輩は、バーンと両手でテーブルを叩いた。
3組程いる他の客が思わずこちらに顔を向ける。
カヨ先輩がとりなし、死神姫を座らせる。
「お前達、ヤル気あんのか?」
なつきとさとじ君は怒られる。
でもまあ、仕方がない。
2人は、いや、なつきは恥ずかしかったのだろう。
だから彼は街を歩いた。
手も繋がず、ただ歩いたのだ。
1時間半もの間、2人並んで、ニコリともせず、片道1キロ弱の道を、ただただ往復し続けるだけだった。
なつきなりには努力したんだと思う。
往復しながら、このままではダメだと、ずっと焦っていた事だろう。
分かるよ、僕も似たような性格だ。
そんな1時間半を思い浮かべるといたたまれない。
「なつき! 頑張ったのは分かる」
ダイヤ先輩はまだ睨んでいる。
「学校では、努力こそ尊い様な事をしたり顔で教え込む。
だが世の中では結果がすべてだ!
結果が出なければ、やってないのと同じだぞ!」
うう、そういう面もあるとは思うけど。
「ねっ。交替して、ちょっと休んだら今度は出来るわよ。
ダイヤちゃん、あんまり厳しく言わないで」
「んむむむ……すまん、熱くなりすぎた。
つい、うちの父の様な事を言ってしまった」
さ、さすが成果主義の国で名を成した一族。
こういう会話を日常でやっているのだろうか。
「よし。
ではミチヨ君、行けるかな?」
「は、はい。
……お手柔らかに」
「ミチヨ君、デートだからね」
「頼んだぞっ」
今度は僕とミッキーが商店街をデートする。
そう。
デ、デートだからね。
レストランロイヤルを出て、ミッキーは右にスタスタ歩いてく。
あわてて僕はその後をテテテと追っかける。
ううう、ミッキーも照れてんのかなあ。
ううう、怒られるのやだよう。
100メートル程進んだろうか、ホビーショップともやの手前で急にミッキーは足を止めた。
振り返り、ぎこちなく左手をつき出す。
「手、繋ぐか?」
眼鏡とマスクで隠れていたが……
隙間から覗くミッキーの顔は、りんごの様に真っ赤だった。
「う、うん」
僕はそっと、その手を握った。
ミッキーは左手を差し出してますね。
彼にはすごくそこに想いがあるんですが、ミチには届いてないだろうなあ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




