48話
2週間ぶりの更新になります。
実家に帰ってのんびりしたツケが溜まっていたようで。
リフレッシュしたんで、また頑張れそうかなあ。
ついに来週からゴールデンウィークに入ろうかという土曜日の放課後。
我が嘉望東美術部部室、まあ、美術室だが……
僕となつきのクラスメートである、ひとりの女好きがやって来ていた。
生徒会長、山本さとじ君だ。
コスプレ部……じゃなかった、漫画研究会発足の一件以来、さとじ君はうちにちょくちょく顔を見せる。
彼は女の子が好きだという以上に、情熱のある人、ヤル気を出す人が大好きなのだ。
たしかに今、ひとつの事にぶつかろう、新しい挑戦をしよう、という面で漫研は一番に当てはまる。
そういった空気を彼は感じ取っているのかもしれない。
「ミチヨ君、なつき君」
いつの間にか、ファーストネームで呼ばれてるし。
「なんですか? 会長さん」
「ちょ、ちょっとよそよそしいじゃないか、ミチヨ君」
ちょっと、馴れ馴れしいじゃないか、さとじ君。
いや、クラスメートだし、べつにいいんだけど……
「ごめん、さとじ君」
「ぷぷっ、それでなあに? さとじ君」
なつきがさりげなくサポートしてくれた。
最近、なつきの考えてる事が分かったり、また、僕の思ってる事を先に理解してくれてたりする。
先々週の暴漢事件の後、ちょっとぎこちない気がした2人だったけれど、もうすっかり本調子だ。
「ああそうだ、ミチヨ君、なつき君」
「「はい?」」
「先々週は大変だったそうだね」
「「!!」」
何でさとじ君がその事を?
まあ犯人はひとりしかいないのだけれど。
「この間ここで、台矢さんに聞いたんだ」
まあ、そうだよね。
「あ、先輩の名誉の為に言っておくけど、僕の相談に乗っての事だからねっ。
けっして先輩がお喋りでペラペラペラペラって訳ではないですからね」
「「ふ~~ん」」
「ほ、本当ですよ!
今からおふたりに話そうとしている内容にも関係しているんですからっ」
どうやら、かつて惚れてた女性を弁護しているだけではないらしい。
まあとにかく、さとじ君の話を聞いてみよう。
ひとつ咳払いをして、さとじ君は話し始めた。
「最近生徒会に、他校とのトラブルや被害の報告、相談が続出してるんだ」
んん? それって……
「そのほとんど、いや全て、稲月高校の生徒から我が校生徒に対してのトラブルで」
やっぱり。
「どうやら、わが嘉望東は稲高の、いいカモにされているようなのだ」
先日の一件の後、なつきから聞いた松田君の話の通りだ。
今稲高の一般生徒までもが暴走して、その火消しにミッキーや松田君達が必死になっていると。
やっている側が意識している位だから、やられている側が何も感じないはずはない。
もうずいぶん前から生徒会には、被害報告が押し寄せていたのだろう。
「インネン、カツアゲは当たり前。
最近は袋にされた生徒がいて、警察が声を掛けていなかったら危なかったらしい」
「「…………」」
「そこで先輩から君達の話が出てきたんだ」
ま、まあ、それなら仕方ないか。
「いやあ、びっくりしたよ。
とんだ災難だったよね」
「ええ、まあ」
「でも、それで、ちょっとお願いがあるんだ」
「「え?」」
「僕は一度この目で確認してみたいんだ。
うちの生徒の過剰な被害妄想の可能性だってある訳だし」
なんか、また……
「被害の内容を見ていると、カップルのインネン被害多くって。
ミヤちゃ……三宮さんと一緒に視察に行こうかとも思っていたんだ」
嫌な予感しかしないんだけど。
「でも先輩の話でピンと来たんだ」
来なくていいって。
「お願いだ! 女装して、一緒に街中を歩いてくれ!」
「「えーーーーーーっ!!」」
やっぱりぃーーーっ!!
「さとじ君、危険すぎる!」
なつきが即、正論を言う。
そう、僕らは綱渡りの状態でなんとか修羅場を切り抜けたのだ。
もう一度同じ状況になって、再び無事生還できる自信はない。
「そうだよ。
さとじ君の気持ちも分かるけど、直に目にする必要ある?」
「ある!」
一際大きくさとじ君は声をあげた。
その顔は、いや、その瞳は、覚悟を決めた決死の物だった。
「僕が被害に遭えば、大義名分ができる!」
たしかに生徒会長が直接稲校生に絡まれれば、一般の嘉東生の訴えにも信憑性がでる。
なにより、学校も穏便に済ますなんていかなくなるかもしれない。
学校で対策を取るよう強く稲高に、嘉望東から抗議する。
さとじ君は学校側の重い腰を上げさせるつもりなのだ。
「もしもの時は、僕が相手にしがみ付いてでも君達は逃がすから」
強い意思の力が僕らに伝わってくる。
反対していた気持ちが揺らいできそう。
どうしよう?
なつきをもう危険に晒したくはない。
でも、さとじ君の決意も無下にはしたくない。
「よし! その作戦乗った!」
美術室に、楽しいおもちゃを見つけた子供の様な響きの声。
入り口に美術部の部長、副部長が立っている。
植野先輩が試着に来いと、演劇部の部室に行っていたダイヤ、カヨコ両先輩が戻ってきたようだ。
「んもう。それならバックアップはしっかり付けなきゃね」
「もちろんだ。幼き日から鍛え上げし武道の真髄、見せてやろう」
なんかノリノリの先輩方。
なつきを見ると、丁度あちらも顔を向けてきた。
苦笑いを浮かべるなつき。
こういう時の表情も、僕とまったく同じなんだね。
1年ぶりに実家に帰ると、結構変わってるとこ多くて。
気になって久し振りに、なつきん家の裏山のモデルになった場所へ行ってみました。
赤土の採集はとっくにやらなくなっていて、削られていた山肌には草木が生い茂り、普通の山になっていました。
自然にとってはいいことでしょうが、僕の胸はしばらく重く締め付けられる様でした。
読んでいただいて、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




