4話
挿絵は高校の美術部でミチの描いた自画像。
コミケや同人誌を覚えちゃった影響が……
もっと顔汚せないかなあ
と先生に、脇から見られて言われたそうな。
「燐光寺休って、覚えているか?」
このニブチンは、僕の気持ちなんて考えもせず、第一声は質問から入った。
しかも、そう悪びれた様子もなく。
何だよ、さっきは謝ってたクセにいっ!
大体どのツラ下げて、僕の部屋に来てんだようっ!
言い訳しに来たかと思ったら、そうでもなさそうなので余計に腹が立つ。
ミッキーのお母さん運転する軽自動車が、僕ん家の前に到着した。
すると僕らと一緒にミッキーも降りてきた。
ミチの勉強を毎日教える約束だ、との事。
折角だからミャコちゃん、お茶でも淹れるわよ、と母。
おばちゃんも愚痴りたいらしく、
「終わるまで下で待ってるからね!」
との事。
そそくさと2階の僕の部屋に上がり込んだかと思えば、出て来た台詞がこれだった。
「覚えてるだろう」
僕がぶすくれて黙っていると、もう一度聞いてきた。
「あのいじめっ子が、どうしたのさ」
燐光寺休君は、小4までミッキーとともかちゃんのクラスメートだった子だ。
僕は直接話した事がないけど、顔くらいは知っている。
見た感じ、明るくて人当たり良く、笑顔の似合うハンサムって感じ。
ま、ミッキーには負けるけどさ。
……フン! どっちもドッコイだ!
「ああそうだ。
小3まで、ヤエをいじめていた奴だ」
ミッキー曰く、人の良さそうなのは表向きで、燐光寺君は蛇のような男らしい。
なんでも、いじめグループのリーダーには別の奴を担いで、自分は裏でみんなを操っていたらしい。
「影の黒幕なんでしょ」
「ああ。
あれで住職の息子ってんだからな!」
燐光寺君の家はそのまんま「燐光寺」っていうお寺で、僕ん家もミッキーの家もその檀家だ。
お盆や法事では、最近親子でやって来る。
「俺は小3の時に気づいて、同じ班の連中と守ったんだ」
「それで解決したんでしょ?」
「表向きはな。
言わなかったけど、それからも奴は、ずっとヤエを見てやがったんだ」
「本当?」
「ああ。
何度かチョッカイ出しそうな時、ヤエは逃げて来て、俺が庇ってた」
「………」
「小学校の修学旅行で、ヤエが帽子を無くした事があっただろ」
「え! 盗んだの?」
「直接見てないし、他クラスなんで追求出来なかったが、近くでコソコソしてたんだ」
そんな事が、僕の知らない所で行われていたなんて……
ミッキーの憶測もあるけど、ともかちゃんが逃げたりしてるなら本当だろう。
でもそれがどうしたの?
「その燐光寺が稲月高校を受けるらしい」
「え!?」
「バレー部仲間に聞いたんだ」
そういえば引退後、頭のいいミッキーは何かと進路の相談をされるらしい。
その時話題にでも出たのだろう。
それに僕と話した、ともかちゃんの話が重なった。
確かにそれだと、ミッキーは見過ごす事が出来ないのか……
でもそれだけ?
ただの正義感だけなの?
「俺は絶対に許さない。
俺のいない所で、奴に好き勝手させてたまるか!」
そんな事ないよ……
そんな御立派な理由、単に建前だよ。
自分自身に言い訳してるんだよ。
本当の気持ちに気付かない様にしてるんだよ。
なんで?
なんで素直に認めてあげられないの?
好きなんでしょ、ともかちゃんの事。
自分の未来を放ってまで!
……でも、これがミッキーなんだ。
どうしようもなく不器用で。
どうしようもなく頑固者。
どうしようもなく人の事を気遣って。
どうしようもなく損をしちゃう。
ああ……
やっぱり僕はこのニブチンが好きみたい。
いいよ、僕だけは分かってあげる。
建前でも、本音に気付いてしまっても……
でも僕は、稲月にだけは、絶対に行かない!
この話には、ハンサムとかニブチンみたいな死語が出てきます。
それは時代設定が80年代だからです。
携帯もありませんし、Jリーグも存在しません。
JRは国鉄ですし、JAは農協です。
ごめんなさーい農協はありますようw
実家もお世話になってます。
読んでいただき、本当にありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。