47話
ミチヨ視点に戻ります。
また美術部メインのおはなしになります。
「さ、あんまり待たせるのも悪いわね」
学校のすぐそばを流れる、用水路に毛が生えた様な小さい川。
その川縁の欄干に腰掛けてひとしきり泣いた後、カヨ先輩はそう言ってから尻を浮かせた。
「はい」
僕も立ち上がり、そそくさとスーパーに向かった先輩の後を追う。
カヨ先輩もそうだが、ダイヤ先輩にも心の負担を掛けてしまった。
カヨ先輩は自身に責任があると言っていたが、そんな事はない。
やはり僕の油断と慢心が原因だったのだ。
とまれ、その話は水ならぬ涙に流して一段落。
師弟抱き合って号泣したのは、そういう事なのだと思う。
この話はここでおしまい。
そうカヨ先輩のうしろ姿は言ってくれているようだ。
「師匠!
ダイヤ先輩がまんじゅうアイス忘れたら殺すって!」
「知ってるわよ。
50円の方を2つでしょ、いつもの事よっ」
普段より大きく声を掛け合う。
知らず2人は駆け足になり笑顔になって、スーパーの入り口へと飛び込んだ。
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スーパーで急ぎ飲み物とまんじゅうアイスを買って学校にもどる。
僕は両手にレジ袋を抱えて、美術室の前に立った。
「ちょっと待ってね、開けるから」
先輩が引き戸の取っ手に手を伸ばす。
「ん?」
と、先輩の手が止まった。
「ダイヤちゃん、帰ったのかしら?」
こちらに顔を向け、クエスチョンマーク。
「あ、そうですね。静か過ぎますね」
ダイヤ先輩が10秒と黙っていられる訳がない。
何か用事が出来て、教室を出ているのかもしれない。
「ダイヤちゃんに限って、黙って帰りはしないと思うけど」
言いながらガラガラと扉を開ける。
「ただいま帰ったわよ」
「ただいま帰りました」
入ると一瞬誰もいないのかと思えたが、すぐに奥の方で気配を感じる。
よく見ると、机の影にピッタリくっついた頭がふたつ。
いや、くっつくどころか、どう見ても抱き合っている!
「ダイヤ先輩!」
「何やってんの! ダイヤちゃん!」
僕らはあわてて2人の元に駆け寄った。
「おっ! 帰ってきたか」
ダイヤ先輩はゆっくりこちらを振り向く。
先輩にもたれかかっている人物も顔をあげる。
ゆっくりと……
「「!!」」
それを見ていた僕とカヨ先輩は驚いた。
ダイヤ先輩に抱かれていたのはやはり、なつきだった。
なつきがその美しい顔をゆっくり起こすと……
色白な顔面の向かって右半分が真っ赤になり、鼻血がひと筋流れていた。
あきらかにぶん殴られた顔なのだ。
「「嫌ああああああっっ!」」
駆け寄って、僕はなつきに、先輩はダイヤ先輩に飛びついた。
僕はなつきを抱き締めて引き離し、顔の傷を確認する。
カヨ先輩はダイヤ先輩の首を締め付け、ガクガク体を前後に揺らす。
「バカなの! ほんとのバカなの!」
「や、やべろ、ガヨちゃん、ぐるぢい……」
「何で美少年の、なんで顔を、何でっ?」
「ご、誤解でつ、やべて、ちんじゃう……」
苦しそうなダイヤ先輩をカヨ先輩は容赦なくシェイクする。
「先輩! 何か冷やすもの!」
見たところ、殴られた打ち身だけで怪我は無いようだ。
でも急いで冷やさないと、腫れ上がってしまう。
「そ、そうね」
カヨ先輩は手にしたモノを投げ捨て、今買ってきたレジ袋の元に駆けた。
「ジュースがまだ冷たいはず……あっ! こっちの方が」
先輩はジュースを取り出し床におき、袋を持って戻って来た。
「これで冷やしなさい」
袋には2つのまんじゅうアイスが入っていた。
そうか、これなら氷で冷やすのと全く変わらない。
僕はなつきの左目の下にビニール袋を押し当てて、ぎゅーっとそのまま抱き締めた。
「ミ、ミチヨ?」
「お願い! じっとしてて」
「……うん」
なつきは目を閉じて、僕の胸に右頬を押し付けてくれた。
「どういう事? 説明してちょうだい」
カヨ先輩は腕組みをして、ダイヤ先輩に迫っていた。
「はい……すみません」
ダイヤ先輩は気圧され小さくなって、僕らが教室を出てからの経緯を話し出した。
「という事があって、私はなつきの気持ちを汲んでやったのだ!」
「そうですよ。僕はダイヤ先……師匠に感謝しているんです」
僕の胸でなつきも弁護する。
「「…………」」
「な? 私は愛情を持って殴ったのだよっ。
な? カヨちゃん、だから、ね?」
そう言うと、ダイヤ先輩はソ~っとなつきに当てた袋を取ろうとする。
「ダイヤちゃん!」
「はいっ!」
キッ!
カヨ先輩に睨まれて、しかしその手を引っ込めた。
ダイヤ先輩が2人に頼んでいたまんじゅうアイスを渡されたのは、完全に溶けてしまってからだった。
自業自得だから仕方がない。
それでも先輩は空の弁当箱にそれらを開けて、
「まあ、クリームぜんざいみたいなもんだ」
と、美味しそうに食べてはいましたけれど。
当時50円と100円のまんじゅうアイスがありました。
アイス部分を50円はラクトアイス、100円はアイスクリームで作ってありました。
100円の方は高級感がありますが、50円は軽くサッパリした感じで、甘い餡との相性抜群でした。
まあ、個人の好みですけどね。
読んでいだだきまして、ありがとうございます。
次話もどうかよろしくお願いいたします。




