44話 えとうなつきのおはなしⅡ- 3
今回もまた、なつき視点です。
あ、そうでないところも。
まあ、お楽しみ下さいませ。
「よーし!
俺も思いきってバスケ、再始動すっか?」
イイヅカ駅で撮りっきりカメラを買った帰り、松田君は晴れやかな笑顔でそう言った。
2人して改札横の休憩室にある売店へと「おつかい」に行ったあとだった。
もちろん僕は女子高生、松田君は私服のヤンキー姿。
椅子に腰かけてるオバチャン達数人が、おしゃべりしながらこっちを見ていた。
僕が尻込みしていると、彼がさっさと代金を支払ってしまった。
「心配すんな。
俺はカツアゲなんか、やらねーから」
と言っていたが、想像もしていなかったので一瞬どういう意味だか分からなかった。
駅を後にしてから、お金を出してもらった上に気まで使わせた事に気が付いた。
使ったお金はクリーンだと言っているのだろう。
僕の為に嘘をついてるのかもしれないけど……
いつも相手の事を考えてくれる。
そんな彼がカツアゲをやってるわけがない。
僕は信じるよ、松田君。
「バレーじゃなくてもいいの?」
松田君がバスケ一択だったので聞いてみた。
僕との一件でバスケ部を去ったあと、しばらくして彼はバレー部に入った。
バスケ部とバレー部は、体育館をネットで半分に仕切り共有していた。
理由も言わずに辞めて、それほどの間を空けずに今度はバレー部として現れた。
バスケ部の元の仲間達からは、裏切り者としてネット越しに睨まれる。
僕は原因が自分にあるものの、それを口にする訳にもいかず、ただ様子を見るだけだった。
最初の頃は皆、部活あとの部室で文句ばかり言っていた。
だがひと月もしないうちに、誰もそんな口を叩かなくなった。
松田君は真面目に、熱心に、一途に、バレーに取り組んでいたからだ。
3年ではもう、君が元バスケ部だった事なんて憶えていないかの様だった。
すっかりバレー部の顔のひとりだった。
だからさっきの言葉が、ちょっとだけ気になったのだ。
「ん? ああ。
バレー部には迷惑かけちまってな。戻り辛いんだ」
「迷惑?」
「まあ、元はといえば、俺も迷惑を被った側なんだけどな。
平川のヤローにさ」
「え?」
松田君は去年稲高で起きた事を話してくれたーー
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あいつ、平川美紀男が失恋して自暴自棄になってんのは、傍から見りゃあすぐにわかる。
元々が人から誤解を受けやすい奴なのに、その頃だと誤解じゃなくなっちまってた。
ガンくれてるとかで絡まれちゃ、その都度相手を寝かしつける。
こりゃ相当だな……
とても見てらんなかった。
俺は入学早々にバレー部に籍を置いた。
中学の時同様、また平川と一緒にバレーをやれるものだと勝手に思っていた。
それをあいつは、演劇部に入るという。
直ぐに理由は分かった。
八重洲ともかだ。
中学の部活の時、まずは校舎のまわりを10周する。
校舎とプールの間を走り抜ける時、決まって奴の視線の先にいた女。
最初は美人の渡邉の方を見ているのかと思った。
だが違う。
彼女とよく連んでいる八重洲の方だった。
だから好きなんだと気付いたんだ。
相手の名前は知っていた。
以前調べた事があったからだ。
調べたとはいっても、顔と名前くらい。
誰かさんが幼馴染みが好きだなんて言うから気になったんだよ。
そう、奴も八重洲に恋をしていた。
頭のいい平川が稲高なんかに来た理由もこれだったんだ。
そして、奴が演劇部に入るよりも早く、燐光寺が彼女を掻っ攫っちまった。
お前や平川には悪いが、あの女もそんなもんだよ。
燐光寺はルックスはいいが、中身は、ありゃあクズだ。
ひと目見りゃすぐに分かる。
外面いいのは、ひねくれた性格も一緒の様だな。
平川が荒れ出したのは、奴に八重洲と燐光寺がデキちまったと教えてからだ。
次の日、顔中腫らして登校してきたんで直ぐに分かった。
俺は嫌な予感がした。
中学から側にいた俺には、奴をそんな顔に出来る人間がいるとは信じられなかった。
プロ相手か、少なくとも他校。
一番あり得るのは、うちと昔から犬猿のヤマコー、山口高校だ。
あそこのトップ、大田テルミは相当ヤバイらしい。
2、3カ月後、俺の不安は的中した。
ヤマコーのテルミに呼びつけられたみたいだ。
場所は山口町の工業団地。
あの辺りは旧炭鉱関係の廃屋がまだ残っていて、不良の巣になっているらしい。
俺は必死になって稲高の人間を掻き集めた。
奴と揉めた先輩にも頭下げて、ヤマコーの好きにさせるなと頼み込んだ。
そうこうして、30人近い勢力で奴の元へと駆けつけた。
ヤマコーの連中はパッと見てうちより多い。40人位か。
使われていない溶接工場みたいな所で、屋根とトタンみたいな横壁だけの、吹き抜けの建物だった。
奥の方に平川と、番長みたいな大男が向かい合っている。
おそらくあいつが大田テルミだろう。
どうやら誰もこちらには気付いていないようだ。
奇襲をかけるには今しかない!
「平川! 助けに来たぞ!」
俺達稲高勢は一気に建物内になだれ込んだ。
奇襲は成功したようで、相手は完全に面喰らった様だった。
このまま平川の所まで攻め入って、奴を救出し番長を取り押さえる。
そこまで行けば、うちの先輩とテルミとで手打ちして終わりだ。
最初の勢いは思ったよりも早く弱まった。
ヤマコーの連中が対応しだしたからだ。
だがもうすぐで、平川に辿り着く。
最悪、奴を救出したら撤退だ。
「違う! 違う! 違う!」
平川が必死に両手を振りながら叫んでいた。
「あははははは、面白れえ! もっとやれえ!」
大田テルミは笑っていた。
俺達とヤマコーの連中は車座になって、ぐるり、2人を取り囲んでいた。
ヤマコー番長、大田テルミと、稲高最強平川美紀男だ。
ひとしきり全員が争ったあと、大田テルミが大声でその場を制した。
そして俺達の勘違い、平川とテルミがマブダチだと教えてくれた。
だがここまでやった、オトシマエは着けねばならない。
それでマブダチ同士のタイマン勝負である。
「言っとくけど、俺は手加減できないぜ」
「ったく、ほんとにてめえはキザったらしいな!」
軽口から始まった2人の勝負。
おそらく筑豊の不良どもの間で永く語り継がれる事になる。
そんな伝説の闘いだった。
ただただ凄まじい。
だが男に生まれて来た者なら、感動せずにはいられない光景だった。
詳細は省くが、とにかく俺らその場の全員が魅了された。
それでこの騒ぎは丸く収まった。
決着? 2人力尽きて、大の字になって笑ってたよ。
この事は少しずつ、学校の耳に届いて行く。
口伝てだから確かな情報ではない。
だが原因の平川と、言い出しっぺの俺の名前はチラホラ出てくる。
罰する事はないが、やんわりと俺はバレー部から追い出される。
まあ、俺もチームの足手まといにはなりたくないんでな。
これで良かったんだよ……
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知らなかった……
僕らからそう離れていない所で、そんな事件が起きていたなんて。
その中心人物が、こんなに身近な人なんて。
「国立には本当に悪いと思ってる。
だが俺は本気であいつを数発殴ろうと思っていた」
「え!」
どういう事?
さっきもそんな風に冗談って言っていたけど。
ミチヨと合流する前にちゃんと聞いておこう。
途中松田君視点もありました。
大丈夫でした?
わかりました?
最近ミッキーご無沙汰だったので何やってるのかと思えば、
なんかメチャクチャやってました。
これから活躍する(?)予定です。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうぞよろしくお願いいたします。




