41話
ここ数話、なつきが目立ってません。
居るの?
てな具合に。
居ますよう。
大人しくしているだけです。
今回は活躍するのかな?
それでは、どうぞ~。
先輩方に事の顛末を話した。
撮りっきりカメラの使用法については、あまりいい顔はされなかった。
「やられそうだったから、やり返したというのはねえ」
「それ、ほとんど犯罪じゃないの?」
写真を取り返そうとして、問題が悪化するおそれもある。
心配するのは当然だ。
正直、あれはやり過ぎだったと思う。
だが、あの時話していた奴等の言葉が、どうしても許せなかったのだ。
なつきの美しさに不良共は獣と化した。
裸に剥き、抱く気が起きなければリンチにすると笑いながら言った。
男だから、犯しても捕まらないんじゃないかと、もう片方も言った。
後からそんな趣味はないと叫んでいたが、そうは見えなかった。
あいつらは人を笑いながら殺せる人種だ。
ミッキーが彼らを全員気絶させた時、僕は思ってしまった。
同じ目に遭わせたいと。
笑いながら想定した環境に、自らが置かれた時どう感じるのか。
たっぷり味わわせてやりたいと。
どうせ反省なんてしないだろうから、逆に脅迫に使ったのだ。
僕のなつきを汚い手で触ろうとしたんだ。
当たり前だろう?
そんな歪んだ感情が、あの瞬間たしかに胸で蠢いたのだ。
「それで」
ダイヤ先輩の声で、思索に耽っていた意識が戻ってきた。
「そのカメラはどうした?」
「写真部の田中くんの家が写真館なんで、彼に今日頼みました」
あんな写真、現像に出すのも一苦労だ。
「そ、そうか……
んで、ミチヨ君、その、確認の為、その、写真をその」
「ダイヤちゃん!」
「分かってる、分かってますよ、皆まで言うな」
「写真はあまり人目に触れない方がいいの。
そうしないと価値が無くなるよ」
「分かってるとも。
だが私はリーダーとしての責任上、絶対見るっ!!」
「ずるい!!」
まったく。
心配してくれてんだか、楽しんでんだか。
とりあえず、一郎君がうまく家で現像してくるのを待たなくては。
「お前ら、たまには油絵も描けよなぁ」
神野先生が奥の準備室から顔を出す。
「「「はーーい!」」」
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「悪いわね、付き合わせて」
カヨ先輩に飲み物の買い出しで荷物持ちを頼まれた。
校内の自販機より、近くのスーパーの方が安いし種類が豊富なのだ。
近くと言っても、そこそこ距離がある。
面倒だが高校生の所持金では、数十円のジュース代も無駄には出来ないのだ。
「ミチヨ君、ちょっといい?」
しばらく歩いた後、カヨ先輩は急に立ち止まり振り返る。
真面目な、少し険しい表情。
そうか、買い出しじゃない。
本当は2人で話したかったんだ。
そして内容は……もう分かっている。
「そこに掛けましょう」
「はい」
校舎を出るとスーパーとの中間に小さな川がある。
幅3、4メートル位。
大きな用水路の様なコンクリートだけの川で、端を落下防止に欄干が並んでいる。
その欄干に横並びで腰掛けた。
「私の言いたい事、分かるわね」
「はい」
僕は頷く。
「そう」
「思慮が足らず、不甲斐ないばかりです」
僕はただただ、頭を下げる。
師はじっと見詰めている。
「結果オーライって言葉あるわよね。
まるでいい事であるかの様に」
「はい」
「何も考えず、行き当たりばったり運任せ。
結果が良かったら、それでバンザイ、はいおしまい」
「はい」
「じゃあ次も結果を出せるの?
その次は? 別のケースは?」
先輩は膝に置いた僕の手を握りしめた。
「無理! 絶対に!
いつか失敗する、結果論だけでは。
だから考えるの、最善の手を」
ぎゅーっと力を強める。
「この1年、あなたは私の側で漫画を描きながら一緒の時間を多く持った。
良くも悪くも、私の影響を大きく受けた」
先輩は涙を流していた。
「考えて! もっと考えてほしいの。
中途半端な判断は、浅慮は、無為無策と同じ!
怒った時ほど頭はクールにって、コサックの氷川は言ってたでしょ」
僕がなつきの事で、不良共に憎悪を抱いたのを先輩は見抜いていたんだ。
「先輩、ごめんなさい。
僕は無能無策で、浅慮で、短慮でした」
先輩と接する様になって、視野が開けた。
今まで見えなかった遠方が見えるみたいに。
物事の1、2手先を読んで行動する癖がついた。
自惚れていた。
浅はかだった。
いざ事が起きれば結果オーライだった。
「でも、でも、良かった……
あなたが無事で……」
先輩が横から抱き締めてきた。
僕の左胸に顔を埋めて嗚咽を漏らす。
「ううっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
「先輩……」
「私は偉そうな事言えない。あなたを責める資格ない。
女装で帰る姿を見たかったの……
本当は打つ手はもっと有ったのよ。
誰かの家に電話したっていいし、警察や運営に相談したっていい。
私が見たかったのよ。
恥じらう花を愛でたかっただけなのよ。
もし、あなたに何かあってたら、私、生きてられない……」
先輩は力なく僕にもたれかかる。
「先輩、そんなに泣かないで。
僕達、無事だったんだし。
たまには、結果オーライの価値も認めてあげましょう?」
「うううっ、結果論ありがとぉ。
良かった、良かったよお……」
夕焼けに辺りが染められていく中、僕ら若い師弟は抱き合ったまま、いつまでも泣いていた。
あらら?
なつき君、居るの?
影薄いですねえ。
ぼ、僕がいじわるしてる訳じゃないですよ。
彼が喋らないんです。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話も、どうぞよろしくお願いいたします。
次はなつき視点のお話でーす。




