40話
ちょっとご都合のように平川くんが出て来ました。
イイノガレはあとがきにて。
「「襲われた!?」」
美術室にて放課後、昨日別れた後の出来事をカヨ先輩へ簡単に報告した。
いつも彼女の左脇に座っているダイヤ先輩も聞いていて、そして一緒に驚いた。
「はい。不良達に女の子と間違えられて」
僕となつきは、2人にその辺りをあらまし伝えた。
裏通りで絡まれた事。
不良のひとりが同級生だった事。
不良達が僕らに襲いかかった事。
なつきが奇襲し、同級生が躊躇していた事。
僕が助けを呼びに走って捕まり、偶然通りかかった幼馴染みに救出された事。
もちろん、松田君とミッキーの事は詳しく話さなかった。
僕達のちょっとデリケートな所なので……
「じゃあ、その平川くん? とやらが来なかったら詰んでたじゃないか」
「その前の手も、全部行き当たりばったりじゃないの」
先輩方に言われるまでもなく、何ともお粗末な行動だったと思う。
不良が集まるゲーセンの近くなのだと、もっと警戒すべきだったのだ。
暗い道に平気で入るし、不審者を発見してもノコノコ近づくし。
身をもって知ったが、若い女性にとって、世に危険はすぐ隣り合わせなのだ。
「まあ無事で良かったが。
それでその後は?」
「はい、そのあと……」
僕はなつきがカメラを買って来てからの事を手短に話した。
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なつきと松田君が撮りっきりカメラを買って戻って来た。
僕とミッキーでそれまでに、不良3人をすぐそばのビルに運び込んでいた。
途中、金髪の金太君が目を覚ましかけたので、ミッキーがもう一度殴って寝かしつけた。
運んだのは不良共が僕らを連れ込もうとしたビルで、人の気配無く、一階は空き部屋になっている。
そこで4人がかり、不良3人を全裸に剥いた。
うら若き少年3人の、あられもない姿の撮影会が始まった。
抱き合ったり、キスさせたり、調子に乗ってイヤラシイ重なり方したり。
最後に彼らのシャツを使って後ろ手に縛り、動けない状態にしてから目を覚まさせた。
「君達は僕らを裸に剥いて、乱暴しようとしてたんだよね。
じゃあもちろん、自身がやられる覚悟もあったんだよね」
「なんだ! てめえ!」「はなせコラッ!」「…………」
ダメだ、全然聞いてない。
まあ、今は何言っても無駄か。
「このカメラにどんな格好で写っているか、後で松田君に聞いて下さい」
「あ! 松田てめえ!」「マーボー何で」「…………」
まるで松田君が裏切り者みたいだ。
まあ、最後に少し裏切ったみたいだけど。
「だ、だから俺は待てって言ったろぅ」
これで松田君はこの連中とは、おそらく離れる事になるだろう。
きっとその方がいい。
結構嫌な目をみるかもだが、それは自業自得だろう。
「だから言ったろ無駄だってよ!」
ミッキーが怒鳴り声をあげる。
「もう、待ってよミッキー」
「こんな奴等は口で言ったって分かんねえんだ。
さっさと指の骨2、3本へし折っときゃあ、しばらくは悪さ出来ねえよ」
「「「ひいいいいいっ」」」
「ごめんなさいっ、平川さん!
俺、ほんとはこんな事したくなかったんです」
さっきまで黙って下を向いていた金髪くんが叫んだ。
「「き、金太てめえ」」
「俺、やっとこの前、彼女が出来たッス。
もし彼女に、こんな姿見られたら……」
あ、金太君だけはちゃんと聞いてたんだ。
「き、金太、それならヤバイぞ」
「松田さん」
あ、金太、1年か?
「こいつら、お前らをすげえ格好にさせて……
たぶん彼氏は出来ても、二度と彼女は出来ねえ」
「俺、何でもやります! だから許して下さい!」
「「…………」」
やっと他の2人にも話が通じそうだ。
こうして、今後僕らを襲って人質に……
何て考えた時には、写真は稲高中にばら蒔くと脅しておいた。
ミッキーの暴力で抑え込んでも、性格のヒネた奴には効果が薄いと思ったのだ。
縛った3人は松田君に任せて、僕、なつき、ミッキーは帰路につく。
ミッキーがなつきと僕を家まで送る事になった。
「お前たち、そういう趣味なのか?」
「「違う! 違う!」」
女装に至る経緯を詳しくミッキーに説明した。
長い帰り道、話の種には丁度良かった。
なつきを送ったあと、また二人きりになった。
先程は、もう買い物から2人が戻って来るから、と作業を始めた。
だが今は、別に時間の制約は無い。
だけど、何を話しかけていいのか分からない。
謝るのはさっき済んだし、不良になった事聞く?
き、聞きづらい。
理由、何となく想像つくし。
「なあ、ミチ」
ミッキーから話しかけてきた。
「ん? なあに?」
「お前と江藤、どういう関係なんだ?」
ええ!?
「そ、それって、どういう意味?」
「いや、関係じゃないな。
お前は、江藤の事、どう思ってる?」
「そっ、それは、親友だし、その……」
な、何でなつきの事……
でも、なんだろう、この罪悪感。
なつきに?
男どうしで付き合ってる訳じゃないけど、でも、すごく大事な人になっている。
ミッキーが現れたら、お払い箱?
数時間前までの気持ちは嘘だったの?
いや、そんなんじゃない。
それともミッキーに?
ずっとずっと好きだった彼が、愛してると言ってくれた。
だのに、応えてあげられなかった。
瞬間、なつきの顔が浮かんできたから。
やっぱり彼への気持ちを無視できない。
いや、そうではない。たぶん……
たぶん、2人に対しての罪悪感なんだ。
「好き……なつきの事」
正直に今の気持ちを伝える。
流れ落ちる涙が止まらない。
「…………そうか」
「でも!
ミッキーの事も、好き、とても……」
酷い事言ってんの分かってる。
でも、でも本当に2人のことが好き。
どうしようもない程に。
張り詰めすぎた心が痛い。
このまま2つに引き裂かれそう。
ミッキーの胸に飛び込めたら幸せになれる。
本気でそう思う。
でも僕の半分が全力でそれを阻止する。
なつきの笑顔で、僕をこのまま踏みとどまらせる。
僕はいったい、どうしたら……
「ミチ、お前と江藤は、付き合ってる、のか?」
ミッキーが恐る恐る聞いてきた。
「ううん、きちんと、話してない」
何度かキスはしたけど、ちゃんとした告白はどちらもしていない。
「そうか。
それなら俺は引かないぞ」
「え!?」
「俺はお前を愛してる。
今までも、これからも。
結婚なんか出来なくても、一生側に居る事は出来る」
「うん」
頬を流れてたつめたい涙が温かくなっていく。
「俺の事、江藤の事、真剣に考えてくれ。
だが、俺は待ってるよ、ずっと。
今までも、これからも」
そういうとギュッと力強くミッキーは僕を抱き締めた。
奇しくもそこは昔、2人で空に向かって叫んだ場所。
うちに帰り着く手前の、人通りのほとんど無い山道。
やはり涙していた僕を、あの時は肩を抱かれて、ミッキーに恋をした地。
「ミッキー」
「ん?」
「これは、その、助けてくれたお礼だから」
僕は少し上を向き、軽く目を閉じた。
ミッキーは僕をやさしく抱き締め直す。
まあ、これは、お礼だから、ノーカンだよ。
1年ぶりの唇に、思わず強く背中を掴んでしまう。
うす暗くカーブミラーに映った僕らの影は、重なってひとつになっていた……
では、言い逃れです。
ミッキーは稲高ヤンキーのトップではありますが、基本真面目ないいやつです。
悪ぶって遊んでるフリしながら、溜まり場を巡回なんかしております。
ゲーセン大和は特に念入りにです。
愛する人の声が微かにでも聞こえたら、そりゃあ反応するでしょう。
あのタイミングだったのは?
そ、そりゃあ、運命っちゅーか、愛の力っちゅーか……
ま、助かって、良かったじゃん!
読んでいただいて、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




