表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/80

38話

今回は37、38話がほぼ連続の更新で忙しないですね。

はい。イラスト描くのに失敗して、無駄に時間を使ったからです。

女装編は次話までの予定です。

とりあえず中盤をお楽しみ下さいませ。


 3人して、博多駅から普通に篠栗線に乗る。

 

 休日の夕方という事もあり、乗客はそれほどでもない。

 会社員の姿はなく、制服の格好は僕らを含めても数人しかいない。

 まして本物の学生はもっと少ない。

 何故なら僕らは、ニセ制服のエセ女子高生だからだ。


「ウフフフ、溶け込んどる、溶け込んどる」


 僕となつきは不安やら恥ずかしいやらで、席の隅で体を小さくしている。

 ところがカヨ先輩ときたら、このシチュエーションに興奮したらしく、少し離れて観察している。


 篠栗線の座席は2人掛けが左右窓脇に1列ずつならんでいる。

 進行方向に向いているが、背もたれを前にスライドさせると4人向き合った席にも出来る。

 僕らも本来そうした形にしてなつきと並んで座り、向かいに先輩と荷物だったはずなのだが。


「先輩、絶対この状況楽しんでるよね」

「絶対そうだよね」


 なつきと小声で愚痴を言う。

 会場のコスプレで「撮りっきりカメラ」を丁度使いきった。

 それをカヨ先輩はわざわざ駅の売店で追加にもう1個買ったのだ。

 先程から自然を装ったり、人の視界の隙を見つけてはパシャリパシャリやっている。



 博多からイイヅカまでは50分くらいかかる。

 さすがに途中から僕らも余裕が出てきた。

 コスプレ慣れしている事もあるが、他人の目に全く違和感の色を感じないからだろう。

 いや、むしろ好意的な印象を受ける。

 特に男性。

 特になつきへの視線が。


 分かる。

 すごく分かる。


 落ち着いて見てみると、なつきの女子高生姿はやはり美しい。

 品のある凛とした顔つきに、最近は表情の険が取れてか、どこか儚げ。

 可憐という言葉がぴったりと合う。

 男ならつい、女でも思わずその目を奪われてしまう。


 僕もうっかり見蕩れていると、なつきは顔を赤らめた。

 おっと、露骨に見詰め過ぎちゃったかな?

 と思っていたら、そっと耳元に唇を寄せてきた。


「ミチヨ、その……あのね……」


「ん?」


「……すごく綺麗だよ」


 2人して顔を真っ赤に、下を向いたままになってしまった。



 ーーーーーーーーーーーー



「じゃあ2人とも、寄り道せずに帰るのよ」


「「するわけないでしょ!」」


 イイヅカ駅の改札を出て、先輩は左手の線路脇を通る小道へと家路につく。

 僕らは駅から家まで少し距離があるので、まっすぐ進んで先の大通りからバスに乗る。

 僕も先輩の方向は少しだけ歩く距離が減るけれど、なつきと一緒に帰る事にした。

 やはりこの格好で帰るのは、ひとりだと不安だろうから。


「ごめんね、ミチヨ。遠回りさせちゃって」


「そんな大した距離じゃないよ」


「ううん、先ずミチヨの家まで行くからね」


「うん! ありがとう」 


 やった、今日は僕の服貸して、晩御飯食べてもらって、部屋でゆっくりして、父カーで送ってあげよう。

 何かここにきて、急に気持ちがウキウキしてきた。

 そう、終わりよければ全てよ~し。


「あ! ミチヨ、まずい」

「ん?」


 わ、ほんとに不味い。


 ゲームセンター大和。

 この辺りで一番大きな駅前のゲーセンで、地域の中高生男子の人気スポットだ。

 入り口前の歩道の欄干辺りに数人、うちの学生らしい、何となく見覚えある顔があった。


「仕方ない、ビルの裏を回ろう」


 なつきはギュッと僕の手を握りしめ、古い雑居ビルの路地に入って行った。

 細く暗い路地はかなり長く、抜けると用水路の様な小川に出る。

 たしか小さな橋を渡って右に折れ、もう2つ程ビル脇を抜ければバス通りに出られるはずだ。


 ゲーセンの雑居ビルを抜けて小川に出てきたとき、橋に腰かけた4、5人の若者と目が合った。

 彼らはタバコを吸ってはいるが、どうみてもハタチは過ぎてない。

 私服を着てはいるが、おそらく高校生。

 ボンタンなんて高校出てから履いてる人、見たことないから。


「おーっ、可愛い子はっけ~ん」


 ひとりがタバコを川に投げ捨て、ニヤつきながら通せんぼするように、道の中央にやって来た。


「あれあれえ、見ない制服だねえ」「道に迷っちゃったかな」

「お、じゃあ案内してやんべ」


 それに釣られる様にして、残り3人も僕らの方に寄ってきた。

 なつきは引き返そうとしたが、素早くひとりが退路を断つ。


「あの、すみません、私たち急いでるんで」


 僕は声のキーを少し上げて話す。

 前に好きだった人と、遠い街でデートした時の備え。

 一緒にいる事を少しでも負担にさせたくなくて、女性らしい声の練習もしていたのだ。


「うひょ~、可愛いなあ。アニメみてえな声じゃん」


 ダメだ、話になんない。

 なつきの手の力が強くなる。

 きっと何かを決心している。


(なつき、だめだよ、多すぎる)


(でも、せめてミチヨだけでも……)


「それはダメだよ!」

 

 しまった。

 大きな声を!


「ん?」


 一番離れてた男がこっちを見詰めた。


「あれ、お前、クニタチ?」


 な!?

 何で……

 あ、あれ?


「ま、松田くん?」


 そうだ、彼は松田君。

 中学3年の時のクラスメート。

 この1年で何があったのだろう、あの頃真面目そうだった彼がすっかりヤンキーに。

 おかげで全く気付かなかった。


「あはははははは、こりゃいいや!

 元々カマっぽい野郎だと思ってたら、まんまじゃねーか」


「え! カマ?」「オカマって、男!」「マジか?」


「ああ、こいつは中坊の時、平川のクソヤローの金魚のクソだ」


 え? ミッキー?


「あ、そうだ、こいつボッコボコにして、平川呼び出してやろうぜ。

 稲高の番張ってる奴をシメりゃあ、俺らの時代が来るんじゃね」


「おお、いいねえ人質かあ」「俺もあいつ気に入らねー」

「おれもー」「半殺し? 全殺し? にひひひ」


 え? 番? しめる? 何? どういう事?


「悪ぃなあクニタチ。しばらく付き合えや」


 僕は何が何やら分からない。

 混乱してて、彼らの言ってる事の半分も、いや、全然分からない。

 4人が僕を取り囲もうとする。


「やめてくれ! 

 ……松田くん」


 僕の前を、庇うようになつきが立つ。

 前の燐光寺の時みたいだが、何かが違う。

 声に覇気が無い。


「お、お前!

 ……え、江藤、か?」


「うおおおっ! なんだ、こいつ」

「かわいい! 可愛すぎる!」

「マジ気付かんかったー!」


 なつきは外野を無視して1歩前にでる。


「ご、ごめんね、松田君。

 僕、ずっと君に謝りたかったんだ……」


「な、何を今さら。ふ、ふざけん、なよ」


「なに、マーボー知り合い?」「マジか」「何この雰囲気」


 ひょ、ひょっとして!

 いや、そうだよ。

 M君だ!

 松田君がM君だったんだ!


「僕はあの時、君の話すら聞こうとしなかった。

 たった一度の謝罪だったのに。

 それまであんなに助けてもらってたのに……」


「う、うるせえよ。

 あれは、俺の気の迷いだよ」


「それでも、僕は君に謝りたかった。

 ちゃんと謝りたかったんだ、ごめんなさい」


「おいおい、僕僕って」「う、嘘だろ……」

「い、いやだ、嘘だと言ってくれ」


「ああ、こいつも男だよ」


「「「えーーーーーー!」」」


「俺はこいつに、男に告白したんだよ」


「お、おう」「いや、分かるぜ、俺もいいと思うぜ」

「俺も」「男だったら、捕まんねえんじゃね」

「おおっ、頭いいじゃんか」「とりあえず剥かね?」

「うひゃひゃ、剥いて無理ならボコろうぜ」


「お、お前ら、ちょっと待ってくれ」


 松田君以外のケダモノがとんでもない事を口にする。


「おい、そこのビルに連れ込もうぜ」「いいねえ」

「俺、こっちも行けるぜ」「お、平川のダチか」

「こいつはどの道ボコボコだろ」


「やめろ! ミチヨに触るな!」


 なつきがひとりの男の顔面を殴った。


「てめえ」「バカが!」


 他の2人が襲いかかる。


 なつきが、なつきが、殺されちゃう!

舞台となるイイヅカは、

筑豊というかつて炭鉱で栄えた地区の商業都市です。

福岡で筑豊といえば荒くれ者ってイメージです。

ですがこんな文中の若者ばかりではありませんよ。

たまに似たような事件で世間を騒がせてしまいますが。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ