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3話

挿絵、中学の美術部でミチ画。

ミッキー♥

挿絵(By みてみん)


 僕が()()()に気付いたのは、三者面談からの帰りの車中だった。


 うちの中学は、期末テストで最後の指針が出揃うと、12月頭に三者面談をやる。

 ミッキーのお母さんの車で、うちの母も一緒にやって来た。

 進路指導室前の椅子に腰かけ待っていると、


「すみません、順番変わってもいいですか?

 松田さん、国立さん、平川さんの順ですが……」


 担任の亀谷先生が引き戸を半分開けて、すまなそうな顔を出してお願いする。


「あら国立君、平川君のお母さん、よろしいんですか?」


「ええ、ええ、お先にどうぞ」「どうぞ」 


「では、失礼いたしますね」 


 松田母子が先に教室に入っていった。


 何となく想像がつく。

 ミッキーを今日の最後の面談にしたのは、それだけ、先生が時間をかけたいと思っているからだ。

 僕とミッキーが2人して、嘉望東高校を受験しようとしているのは、先生も知っている。

 おそらく先生は説得したいのだ。

 地域でトップの進学校、嘉望高校に合格できる生徒をみすみす逃すのは惜しいのだ。

 僕なんかに付き合って、ランクを下げているんだもの……

 もったいないと思う方が普通なのだ。


 僕の面談はすぐに終わった。

 期末テストの点数もなかなかよかったので、


「このままの頑張りを維持すれば、必ず合格できますよ」


 と、言ってもらえた。

 最近はミッキーに家庭教師を毎日やってもらっているので、

恥をかかせないためにも、僕なりに必死だったのだ。


 ミッキーの面談になり、僕と母は先程の椅子にまた腰かける。

 帰りも車に乗せてもらう事になっていたので。

 

 僕はミッキーの面談の結果がどうなるのか、気が気でなかった……

 本当に彼の事を想っているのなら、嘉望高校に行かせた方がいい。

 でも僕はミッキーとの高校生活を胸に、今まで頑張ってこれた。

 その目標を、夢を、スッパリ諦めるほど人間は出来てはいない。

 ミッキー、考えを変えないで!

 心で何度も叫ぶのだった。


「何だって!」


 外まで亀谷先生の声が聞こえてきた。


 慌てて何か言っている女性の声、おばちゃんだろう。

 中がにわかにざわめき出した。

 何だろう、悪い予感しかしない

 2人が出て来た。

 おばちゃんは怒った表情。


「平川、お前の志望校は保留にしておくからな!」


 先生の言葉には反応せず、ミッキーはスタスタとその場を去る。

 

「待ちなさい! 美紀男!」


 ミッキーはまっすぐ駐車場に向かって歩いている。

 その後をおばちゃんが追いかけ、僕らも2人の後を追った。




 僕ら4人を乗せて、おばちゃんの軽自動車は学校を出た。

 進路指導室を去ってから一切、平川親子は口を開かなかった。

 僕ら親子は()(たま)れなくて、歩いて帰ろうかとも思ったが、

何でこんな事になっているのかを聞かなければと同乗した。

 エンジンを掛け、車を学校から出した途端に、


「ちょっと寧子(ねこ)ちゃん、聞いてくれる!」

 

 こちらから尋ねるまでもなく、おばちゃんが怒りを(あらわ)に発言した。


「いったい、何があったの? ミャコちゃん」


 因みにうちの母は寧子(ねいこ)、ミッキーのお母さんは都子(みやこ)である。


「もういいよ!」


「よくないわよ!

 あのね、最初先生はね、嘉望東じゃ勿体ないって仰るの」


 やっぱり!

 先生は嘉望高校を推してきたんだ。

 それをミッキーは突っぱねて……


「先生はね、嘉望高校でも楽に合格できるって。

 その先、九大も、東大とかも考えるなら、絶対受けるべきだって!」


「まあ! すごい!」


 そんな……

 そんなに凄い状況を僕の為に……


「それをこの子はっ!」


「うるさいな! いいんだよ!」


 でも、さすがに、将来を考えると、僕のせいで、僕が足を引っ張って……


「俺はもう決めたんだ!」


 ミ、ミッキー……


「俺は稲月高校に行く!」


 え?


「それはダメ! 絶対ダメよ!」

「でしょう? 駄目よ美紀男!」


「稲月高校……」


 一瞬思考停止だった僕は、その校名をやっと呟く。

 はにかみながら去っていった彼女の顔を思い出す。


 僕は気付いた。

 分かってしまった。

 ミッキーの決断の原因、理由。

 それは取りも直さず、僕が秤にかけられた事を意味する。

 かけられて負けた。

 負けて棄てられた。

 ミッキーにとっては友情と愛情とであるだろうが、僕には何も変わらない。

 ともかちゃんを彼は選んだ。

 僕ではなく……


 僕の胸を占めるのは悲しみや嫉妬ではなく、絶望だった。

 全てを失った喪失感だった。

 それでも何故かひと雫だけ、右の頬を涙が流れた。


「ミチ……

 ごめんな……」


 一番見られたくないものを、見られたくない人に見られた。


 謝らないでよ……


 この、ニブチン……


 




ネコちゃんとミャコちゃんは幼馴染みです。

そうじゃないと、こんな変なあだ名お断りだもんね。


読んでいただき、本当に、本当にありがとうございます。

これからも、見捨てないで下さいね。 

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