35話
新部設立の話はラストです。
ではではどうぞ。
「お、おはよう、さとじ君。
昨日はごめんね」
僕は朝一でクラスメートの生徒会長、山本さとじ君に謝った。
彼は毎朝クラスで一番、いや、学校で一番早く登校する。
教室の自分の席に教科書をしまい、直ぐにでも授業を受けられる状態にしておく。
それから生徒会室で腕章等の身支度を整え校門へ。
そこで予鈴までの1時間程、制服チェックも兼ねた生徒への声掛けをやる。
もちろん、去年の2学期から欠かさずやっているこの活動も彼の発案だ。
まあ実行しているのは当時から、彼とミヤミヤ先輩の2人だけではあるけれど。
だから僕は、今朝はかなり頑張って早起きして、
まだ生徒の少ない、校門の立ち始めにあわせて登校したのだ。
「おはようございます、国立くん。
君が謝る事なんて何もないのに」
ニッコリ爽やかスマイルのさとじ君。
「で、でも……」
彼はそう言ってくれるが、やはり申し訳ない。
現に、いつもは一緒に声掛けをしている副会長の姿がない。
「ああ、大丈夫、大丈夫。
昨日、ちゃんと説明して、誤解、ちゃんと解けたから」
僕の視線に気付いて、あわてて誤魔化している。
「ただ彼女曰く、理解はしたけど納得はしてませんだって」
「ダメじゃん!」
「ははは、大丈夫。誠心誠意話したから伝わっているよ」
伝わってるかなあ。
他は尊敬できるが、どうも女性関係は信用できない。
「第一、本当に台矢さんにはもう、特別な感情は持っていないんだから」
そこは真顔で訴えてくる。
「でもあの時、さとじ君、楽しそうだったよ」
ちょっと意地悪に聞いてみる。
「あれは男女関係なく、僕は覇気のある人間が大好きなんだよ」
じいいいいいいいい。
僕は彼の目の奥を覗き込む。
「もちろん、恋愛じゃないよ。
そういった意味では国立君、君も大いに気になるよ」
え? と予想外の言葉に一瞬戸惑った。
「君があれほど鋭いとは、失礼ながら驚いてしまったよ」
「そんな事はないよ。端から見ていたら勘づくよ。
それより……」
そうだ、あまりお喋りしすぎると生徒が登校して来るだろう。
本題に入らなければ。
「あの時、うちのダイヤが暴言を吐く直前、
無理難題は言ってないって断言したよね」
さとじ君は瞬間片眉をピクと反応させ、
「ああそうだよ」
と言った。
「それは部として無条件に認められないが、妥協点を話し合いたい。
結果、部ではなく同好会で落ち着かせたい」
さとじ君は、今度はあきらかに驚いた顔をしてこちらを見る。
「同好会は部費が与えられない。
だが部室は用意され、会誌等の発行は部同様に学校の機材を使える。
どう?」
「やはり君は鋭いじゃないか」
心底感心した声音で褒めてきた。
「いや、これはダイヤ部長のお目付け役、カヨコ副部長が言っていたんだ。
昨日あの後、美術部の面々で話し合って、校則調べたりしたんだよ」
「驚いたな。さすが台矢先輩率いる美術部だ。
そう。妥協してもらえる様に話を進めたかった。
学校側から頼まれているのだ。
なるだけ部費の予算拡大にならない様にと」
そんな事を話してくれるさとじ君だが、その目は何故か嬉しそうだ。
「それさ、昨日のお詫びと言ってはなんだけど。
僕らは同好会で構わないよ。ただ……」
「ただ?」
「僕らは同好会だが、今年結果を残したら部に昇格できる形にしてほしい」
「え? うーん」
「それと!」
「それと?」
「新1年生へのクラブ説明会や、体育祭のクラブの行進。
これらは文芸同好会と同じく、部同様に紹介させてほしい」
「うん、昇格の確約は今僕の口からは言えないけど、努力はしよう。
紹介の方は、もう片方の同好会と同じにするのは常識だろう」
さとじ生徒会長はニッコリ笑顔で答えた。
「ありがとう、さとじ君」
「礼を言わなきゃいけないのは此方だよ。
それに!」
ん?
さとじ君は僕の両肩をしっかり掴んで見詰めてきた。
「もうひとつありがとう。
僕は本当に君が気になって仕方ないよ!」
目を爛々とさせて、肩を掴んだ手が力を強める。
やはり嬉しいのだ。
やる気の無い生徒会に入り、新人ながら気を吐いた。
会長になり学校中を見渡してみても、誰ひとり気概を感じられない。
ただ、嬉しい例外がダイヤ先輩であり、我ら美術部なのだ。
ちょっと言い過ぎかな? あはは。
「僕は本当に、大好きなんだよ」
覇気のある人間だったっけ?
もう、そんな熱くならなくても。
「何?
そんなに可愛い男の子が大好きで気になって仕方がないの?」
校門の陰から女性の声が。
生徒会副会長がいつもより遅れて登校した。
冷徹な、冗談のまるで無い目をした三宮みやこ先輩だ。
「あ!?
ち、違、みやちゃん、これはそんな!」
「あら、何がどう違うのかしら?」
「だから、そら、あれだ、その……
国立君! たのむ! おねがい!」
男女の事に首を突っ込むのは感心できないだろうけど。
ここはひとつ、生徒会長に恩を売っておくのも手だろうな。
「ミヤミヤ先輩、早まらないで」
急いで僕は、男の首を締め上げる、嫉妬に狂った女性の背後に回り込むのだった。
終わってみればミステリー要素皆無でした。
またチャンスがあれば挑戦してみたいです。
読んでいただき、ありがとうございます。
次話もどうかよろしくお願いいたします。




