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34話

謎解きとは、とても言えないおはなしです。

まあ、それはそれでという事で。

どうぞお楽しみ下さいませっ。


 生徒会長山本さとじ君は人格者だ。

 

 高校2年生を掴まえて人格者というのは、大人が聞けば鼻で笑うだろう。

 でもこれ以上に彼を表すピッタリな言葉を、僕は他に思い付かない。


 彼は心穏やかに人当たりよく、話す時はゆっくり理路整然。

 それでいて何か事を成す時は、実にスピーディー。


「いい事を行わないのに早すぎるからって理由はないし、

 わるい事を正さないのにもう遅いからって言っちゃだめだよ」


 どこかの宗教の方ですか?

 まあ、生徒会長を真面目にやる位だから、本当に出来た人なのだろう。

 去年の会長が不真面目だった訳ではない。

 大体進学校の生徒会長なんて、何処もただのお飾りだろう。

 例年通りにこなして、それなりの成績なら推薦で大学進学。

 なにも無理して活動する事はないんだと思う。


 僕らは彼を立派だと思うし誇りに感じる。

 じゃあ彼と共に歩こうか、というと話は別。

 今生徒会が2人だけの理由は、推して知るべしだ。

 

 だからあの時のーー

 ダイヤ先輩が声を荒らげた時の、彼の微笑みがーー

 僕が先輩の暴走を抑制した時の、彼の不満顔がーー

 どうにも心に引っ掛かって仕方がないのだ。


「会長、予算を振り分けられない事が、漫研を許可出来ない一番の理由でしょうか?」


 僕は質問する。

 カチャカチャカチャカチャ。

 相変わらず、ミヤミヤ先輩のワープロ音が生徒会室に響く。


「ん?

 はい、国立君。先程からそう言っています」


 カチャカチャカチャカチャ。


 今のさとじ君に、さっき僕に見せたムッとした表情は欠片もない。


「それは前回、台矢が新部設立の申請に来た時と状況は変わらない筈ですね?」


 カチャカチャカチャカチャ。


「それは!? その通りですね」


 カチャカチャカチャカチャ。


 明らかに一瞬彼は動揺した。

 やはりその辺りが彼の思惑に関わってくるのだろう。


「では何故、前回その事を台矢に告げず!

 あたかも申請を訂正すれば許可される様な事を仰った!」


 僕は探りを入れるつもりもあって、強い口調で非難した。


「それはあなた達が勝手にそう思い込んだだけでしょう!」


 驚いた!

 机をバンと叩いて立ち上がり、大きな声を上げたのはミヤミヤ先輩の方だった。


「いえ! あの物言いでは、普通の者なら再提出します!」


 もう1度あえて強く出てみる。


「だからそれが都合のいい思い込みでしょ!」


「ミチヨ君! なんだその言い方は!」


「え?」


「それでは私が普通じゃない人みたいではないか!

 いや、変な人扱いだったぞっ!」


「そ、そんな訳ないです、よ……」


 そうだ。

 普通なら再提出するはずだ。

 そしてまた却下になる。

 期待を持たせて何になる?

 燐光寺ならいざ知らず、さとじ君にその行動は違和感でしかない。

 だからずっと引っ掛かっているのだ。


 ふと脳裏に、さとじ君の喜ぶ顔が浮かんだ。

 台矢先輩の暴言直後のだ。


 ……来て欲しかったのか?

 台矢先輩に。


 僕はハッとして生徒会長の顔を凝視した。


「!!」

 さとじ君は思わず僕から目を逸らす。


 そうか、そうだったんだ。


 さとじ君はおそらく1年の時、意気揚々と生徒会に入ってきたはずだ。

 そして何もしようとしない先輩方に愛想を尽かす。

 ひとり気を張り、活動し、活躍し、2学期には裏で実権を握ってしまう。

 そんな時現れたのがダイヤ先輩だ。

 美術室で見せたあの演説を、あれ以上の熱量で彼に放ったのだろう。

 さとじ君は魅せられたんだ。

 一番輝いた瞬間のアケミ・ダイヤモンドに。


「さとじ君、君は……」

「違う! 勘違いするな。

 それに僕は公私混同も、無理難題を吹っ掛ける事もしない」


「無理難題じゃない?」


 それは予算云々の下りの事か。

 やはり解決策はあるんだ。


「いや、お前のは無理難題以外の何物でもない!」


「ちょっと待って先輩、今考えてるから……」

 もう、あと少しで丸く収まりそうなんだから!


「お前という男は……

 ミヤミヤというものがありながら!」


「え!? も、もう、ダイヤちゃん、やめて!」


「いいや、止めん!

 お前はミヤミヤの気持ちを受け入れたのだろうが!」


「ええええーーっ!」

 そ、そうなんだ、さとじ君、彼女? 年上の!


「やっ、やめてよう、ダイヤちゃん」

「先輩、ごめんなさい、反省します」


「いいや、止めん!

 こんなに彼氏想いな可愛い彼女がいるのに」


 先輩はさとじ君の胸ぐらを掴んで、一際大きく叫んだ。


「貴様はまだ、私に振られた事を根に持っているのか!」


「「え?」」


 さ、さとじ君、ダイヤ先輩に告白して、もう振られてたんだ。

 んで、ミヤミヤ先輩と付き合ってって……

 早くない?

 んで、ダイヤ先輩みてニヤついてって。

 さとじ君……


「どういう事?」

「昔の話だよ」

「何? ダイヤちゃんに振られたから私に乗り換えたの?」

「バカな事言うなよ、俺がそんな……」

「だって今さっきダイヤちゃん見て喜んでたし」

「ご、誤解だよ!」


 もう申請だの何だの言っても、どうにもなんないや。


「これでは話にならん。

 今日の所は引き揚げるか」


「はい。そうします」


 ホント、この人といるとドッと疲れる。


「ミチヨ君、切り札ってのは一番効果のある時に切るべきだよ」


 ミヤミヤ先輩って友達なんですよね。

 先輩、冗談でもそんな事言うもんじゃないですよ。

 人として。




 


 

完璧な人なんていません。

どこかにダメな所はきっとあります。

要は、もっとより良い自分になろうとする、

その心がけが大事なのだと僕は思います。

次の選挙では、私に1票を。ぷぷっ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。



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