32話
また時間が戻って来ました。
ミチヨ君2年生春。
ダイヤ部長の所信表明の翌日です。
よろしくどうぞ~。
放課後、美術室。
なつきと僕が着いた時には、もう先輩2人は楽しげに雑談していた。
「「お疲れ様でーす」」
声を掛ける。
「おはよう、2人とも!」
「お疲れ様、早いわね」
ダイヤ先輩は最近、どの時間でも「おはよう」と挨拶する。
カヨ先輩の話では、芸能界の人達はみんなそう言っているのだそうだ。
ダイヤ先輩にしてはミーハーだな、と思ったら、当人は気づいて違うぞと言う。
芸能界は昼夜無く、不規則な時間で仕事をしているのだと。
それで、どの時間でも共通に失礼にならない挨拶が使われていると。
それが「おはようございます」なのだそうだ。
その気配りの精神に感銘を受けたらしい。
「「おはようございます!」」
慣れると結構しっくりくる。
うっかり他でも言いそうになるので要注意。
前に外で先輩に挨拶された時、近くにいた小学生が笑っていたし。
おっと!
今日は真面目な話をしなきゃだった。
「先輩、ちょっといいですか?」
「「?」」
「ダイヤ先輩が言っていた、体育祭のコスプレについてですが」
体育祭のクラブ対抗リレーの前にある、部活紹介を兼ねた行進。
そこで僕達は美術部なのに、コスプレをして歩くと部長が所信表明したのだ。
「おお、美術部運営の仕事だな」
今期から僕はそんな名前の役職を押し付けられた。
何だか大それた呼び名だが、要は先輩方の行動の帳尻合わせ係だ。
「うまく生徒会を丸め込む、いいアイデアでも思い付いたか?」
やろうとしてる事がおかしいって、自分でも分かっているらしい。
「はい、一応は……」
「あら、ミチヨ君、仕事が早いじゃない」
我が師匠カヨ先輩はちょっと嬉しそう。
「うむ。
だが問題は中身だ。
早過ぎて役立たずかもしれん」
ダイヤ先輩は言ってニヤリとする。
この人のこういうオヤジなとこ大嫌い。
「聞こうではないか、その愚申とやらを!」
絶対、意見具申の漢字変えて言ってるよ。
てか、普通聞く方が言わないから。
「……はい。
先輩、前に言いましたよね、5人集まれば部を立ち上げられると」
「ああそうだ。
申請して、生徒会と学校が判を押せばな」
「それは掛け持ちでもいいんですか?」
「あ! 植野先輩だね!
僕達と植野先輩で違う部活としてコスプレするんだね」
なつきが笑顔で説明してくれた。
「うん」
「掛け持ちでも大丈夫だ」
「「やった!」」
「でもダメだ」
「「え?」」
「どうしてですか?」
「この5人という数字。
私が待ち焦がれていたこの人数。
じっとしている訳があるまい」
「え!? じゃあ?」
「ああ、君たちには悪いが、署名して提出した」
「「ええ!?」」
「2人ともゴメンね。
実は去年、もう申請出してたの」
「通るかどうか微妙だし、2人とも夏コミで一緒に活動してたんでな。
でも一言聞くのが道理だった、申し訳ない」
「いえ、いいんです。そんな事より」
「そうです、何でダメなんですか?」
「うむ。
生徒会の奴等が言うにはだな……」
生徒会の返事はこうだ。
申請が受理されれば、学校から部費が出る。
だからそれに見合った活動が、部には必要になる。
そしてその活動だが、生徒の自己啓発が大前提。
自分自身の目標に向かって努力できる環境が他の部にない場合、
同じ目標を持つ者5人集まれば、学校がサポートしてくれる。
よって、その目標が認められなければ申請は通らない。
今回の申請は、生徒会が容認できるものではない。との事。
「そんな……」
なつきが肩を落とす。
「私は言ってやったんだ、生徒会の犬どもに!」
ダイヤ先輩は思い出して激昂する。
「それはお前らの主観だろうが!
お前らの物差しで、価値観だろうが!」
おそらくそうだと思う。
「自分にとって大事な事、大切な物、憧れる人、みんな違うはずだ!
ああしたい、ああなりたい、あの人に近づきたい、そう思うはずだ!」
そう。その通りだと思う。
「世の学生の多数目指す目標が甲子園や春高だろう。
他の奴も剣道やら、卓球やら、軽音やら、上手くなりたいんだろう。
だから、部活があるんだろう?」
うんうんと、みんな頷き合う。
「そういう多数の陰に埋もれてしまわない様に!
少数の青春や成長が埋まってしまわない様に!
その為のこの制度、生徒会ではないのか!」
「先輩……」
そうだよ。
全くその通りだよ。
普段はどうしようもない先輩だけど……
熱くなった先輩は見惚れる程に格好いい。
なんか涙出てきそう。
これが僕らの自慢の、台矢明美美術部部長だ!
「そう言ったら、あいつら何て言ったと思う」
「何て言ったの?」
ああ、カヨ先輩も初耳なんだ。
「台矢さんの言い分は分かりますし、ごもっともです」
「「「え?」」」
「ですがコスプレ部っていうのを認めてしまうのは。
だと言いやがる!」
「「「ええええええええええーーーーっ!!」」」
「ここで通しても学校が……って、どうした?」
「「「この、おバカーーーーーーッ!!」」」
「ええっ? なんで?」
前言撤回。
ほんと、何時もおバカな事言う、アケミ・ダイヤモンドさんです。
コスプレだって極めようとすれば、
部活で十分自己啓発になると思いますが。
30年前は、まだまだお堅い世の中だったのです。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。
タイトル変えようか考え中です。
コメディーっぽくないので。
ご意見ご感想もよろしくお願いいたします。




