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31話

今回ちょっと長めです。

こんな話2つに分けるまでもないと思い、長くしちゃいました。

くっだらない話になったので、飽きたら途中で止めてもいいですよう。


 僕がトイレから戻って来ると、さっきとは少し部屋の雰囲気が変わっていた。



 先輩のお宅に到着する前から僕はオシッ……トイレに行きたかった。

 ダイヤ先輩に貸してと頼む前に、背中をグイグイ押されて座敷部屋へ。

 入るなり真面目な話になり、お願いする切っ掛けを失ってしまう。

 甘酒がそそがれたグラスを持って、形だけの乾杯をした時にはもう限界寸前!

 先輩にトイレの場所を聞き、急ぎ部屋を出る。

 古い旅館の様な家の、長い廊下を小走りに進む。

 言われた突き当たりにはトイレらしい入り口はなく、左に折れた廊下の先をさらに進む。

 その先はキッチンと登り階段で廊下は終わっており、やはりトイレらしき扉は見当たらない。


「やっぱりあれか」


 さっきの廊下の曲がり角。

 座敷を出て真っ直ぐ行ってぶつかった壁に、ガムテープで封鎖されたドアがあったのだ。

 これかなあ? これなんじゃないかなあ?

 そう思ってはいたのだ。

 僕は階段を駆け登り、封鎖したトイレの真上であろう場所を目指した。

 ドンピシャ! バッチリ! 

 トイレを見つけられました。


 ーーーーーーーーーー


 遅くなっちゃった。

 なんか、勘違いとかされちゃ嫌だな……

 などと思いつつ座敷部屋へ。


「先輩、ありがとうございました」


 と、部屋に入る。

 んん? なんか違和感。

 ちょっと変な空気?

 

「スピード現像だから、ちょっと焼きが甘いかもよ」

「いやいや、パキッとしたやつより、これ位の方が」


 植野先輩が嬉々として見せている昨日のコスプレ写真の束を、

同じく頬を上気させ、食い入る様に見詰めているカヨ先輩。

 座卓の向こう側では2人の先輩の放つ、楽しそうだが何か異様なパワーを感じる。


 上座のダイヤ先輩とその側でうんうん頷くなつきの後ろ姿。

 こちらは体育会系の先輩後輩ってオーラを出しまくっている。


「たしかにコスプレで敗北を喫したのは反省すべき点だ」

「はい」

「だが役者相手に表現力で勝負を挑むのは、全く戦術的にバカげている」

「はい!」

「現に衣装の完成度では我が方は圧倒的有利であった」

「おおっ」

「そこに油断があり、奴には演技力があった。

 奇策に狼狽えたのが一番の反省点だ」

「はい!」

「分かっていれば打つ手はいくらでもある。

 基本うちは正攻法で行けばいいのだ」

「はい! 師匠(せんせい)!」


 ……先輩後輩を超えていた。


「おおミチヨ君、遅かったな! 大の方か」

 やっぱり勘違いされた。


「違いますよ! トイレ封鎖してましたよ」

 本っっっっ当にデリカシーの無い人だ。


「おおっ! そうだった。すまん、すまん」

 んで全然すまなそうじゃないの。


「まあ、飲め! そして食え!」


 グイグイ押し付けるグラス、先輩のなんだけど。

 もういいや。

 野良犬に噛まれたとでも思おう。


「はい。いただきます」


 んぐ、んぐ、んぐ…………ん?


「からい……」


「そう!

 我が家の甘酒は、甘さの中にキリッとくる辛味」


「そうそう、そこがいいのよね~」

 いつの間にかカヨ先輩達も寄って来てた。


「あははははは、師匠美味しいです」

 なつきが……陽気すぎる。

 やっぱり、何かおかしい。

 おそらく……


「因みに先輩。

 この甘酒、どれ位寝かせました?」


「おおっ、分かってるなあ。

 うちのは蔵で最低1年はしないと飲まないのだよ」


「「「スゴーイ!」」」


「どうりで美味しい訳だ」「あははは」「そうであろう、そうであろう」

「ダイヤちゃん素敵」「あははははは」「ダイヤちゃん最高」「照れるな」

「でも飲み過ぎちゃうと、明日頭痛くなるの」「あ、わたしも」


「「「あははははははは」」」


 ダメだ、この人達。

 それもう甘酒じゃないよ。

 甘酒みたいなお酒になってるよ。

 もう、それ、どぶろくだよ……


 僕の両親は実に筑豊人らしく、大の酒好き。

 僕もたまに父から飲ませられている。

 だから分かる。

 これは口当たりがいいけど、結構つよい酒だ。


 この部屋の異様な空気は、これだったのか。


「よーーーし!

 盛り上がった所で、恒例の罰ゲーム大会だー!」


「「えーーーーーー!」」


 ダイヤ先輩がゲームをやろうとしたのを、露骨に嫌がる2先輩。


「よいではないか、よいではないか」


「嫌あ! 絶対嫌あ!」

「まだ死にたくない!」


「じゃんけんに勝てばいいだけだろう?」


「ダイヤちゃん勝負事、負けないじゃない」

「もうシッペも嫌なの!」


「先輩、何ですか? 罰ゲームって」

 一応聞いてみよう。


「おお、これだ」


 先輩は最初からヤル気満々だったらしく、座卓の下から厚紙を数枚出して卓上に置いた。

 一番上の紙に大きく「デコピン」と書いてある。


「嫌あ! 絶対嫌あ!」

「まあ待て待て待て、ちゃんと考えてある」


 ペラッとめくると「シッペ」の文字。


「「ひいいっ」」

「今回は新人ふたりの為にビンタは外しておいた」

「当たり前でしょ!」

「前に大野ちゃん、本気で泣いちゃったし」


 先輩……。


「だ・か・ら、今回はこれに変えておいた」


 最後の1枚を厚紙の一番上に置いた。

「キス」赤マジックで、特に大きくはみ出んばかりに書いてあった。


「先輩! な、なんですかコレは!」


「なあ~にルールは簡単。

 じゃんけんに勝った奴がカードを引き、負けた奴に書かれた事を行使する。

 たったそれだけだ」


「えーーーーーー!」

「あははは、やろうよ、げええむうう」


「おおっ! ノリノリだな、なつき! 流石は我が弟子!」


「やる! やるわよ!」

「もちろん私もやるうーっ!

 ミチヨ君、全員参加だかんねえ」


「え!? 植野先輩? 何で……」


 さっきまでダイヤ先輩を拒絶していたカヨ、植野両先輩は鼻息荒く参加を表明した。

 は! そうか! 

 2人の目的は僕となつきだ。

 デコピン、シッペのリスクよりも、僕らのキスシーンを観たいんだ。

 顔を赤らめハアハア言って「キス」と書かれた紙と僕らを交互に見ている。


「よし! やるぞ!」

 ダイヤ先輩が気合いの入った声で罰ゲームじゃんけん大会を開始する


 こうなったら僕が勝って、さらにシッペかデコピンを引く!

 酔っぱらったなつきを守らなきゃ!


「ダイヤちゃん、分かってるよね」

「負けなきゃダメよ」

「皆まで言うな」

「僕が絶対勝ーーーーつ!」

「あははははははははは」


「「「じゃーーんけーーん、ぽーーん!」」」


 ダイヤ先輩がひとりグーを出し勝利。


「ふははははは! 見たかこの強さ!」


「ダイヤちゃんのバカぁーーーー!」

「バカ! おバカ! あんた本物のバカでしょ!」


「し、しまったーーーーーっ!」


 確かにじゃんけんの瞬間のダイヤ先輩の気迫は尋常じゃなかった。

 助かったかも。

 これはこれでキス以外出せば、性的被害は誰も受けない。


「むううううう、仕方あるまい。カードを引こう」


 むんっ、と引いたそのカード。

 全員注視の中で先輩はひっくり返した。


「キス」


 ぬおおおおおお、全員頭を抱えた。

 いや、なつきはよく分かっておらず笑っている。

 頼むよ、なつき、負けないでよ。


「さあ、仕方があるまい。

 観念して我が接吻を、う、受ける者をき、決めるが、よいさ」


「「「じゃーーんけーーん、ぽん! あいこでしょっ、しょっ、しょっ」」」


「嫌あーーーーーーっ!」

 

 人身御供(ひとみごくう)はカヨ先輩に決まった。

 まあ、終わってみれば、落ち着くところに落ち着いたって感じ。


「大丈夫カヨちゃん、女同士はノーカンだよ」


「う、うう……やだ」


「加代子、そんなに私とじゃ嫌かい?」


「え? そ、そんな……そんな言い方……ズルイ……」


「私は……嫌じゃないぞ」


 見詰め合う2人。

 固唾を呑む3人。


「みんなが……見てるよ……」


「見ようとする者は、見られる事を覚悟するべきだ」


「アラベスクにいさ……」


 カヨ先輩の言葉の途中を、ダイヤ先輩の重ねた唇が(さえぎ)った。


「「「やーーーーーーーーん」」」

「行ったよう」「行きましたねえ」「師匠……カッコイイです」


 僕らは悶えてしまった。


「ん、んんーーっ」


 カヨ先輩も悶えている。


「ダ、ダイヤちゃん、本気? 舌絡めてる」


「「ええーーーーっ!」」


 そこまでやらなくても……いや、あの人はそんな中途半端はやらないか。


「ん、んく……、あ、ああ、んん……」


 な、なんか、見てるこっちが恥ずかしい。


 クイクイ


 袖口をひっぱられる。

 見るとドキッとする程に艶っぽい表情をした、なつき。


「僕たちも、しよ……」

 ええええええええええ!


 ゆっくり、焦らすような心地よい早さで、なつきの顔が近づいてくる。

 いやいや、こんな状況でまずいでしょ!

 回りを見ると、2人はまだ夢中になって舌を絡め合っている。

 それを食い入る様に観ている植野先輩。

 あれ、これ、行けるかも?

 いやいやいやいや、ダメでしょ!

 僕も結構酒が回ったのか。


「ぼくいがい、みつめちゃイヤだじょ」


 グイッと両手でなつきが僕の頬を自分に向かせ、そのまま唇を重ねてきた。

 同時になつきの舌が、開いていた僕の口からすんなり奥まで入ってきた。

 大量に飲んだのだろう、甘酒まじりの唾液が甘い。

 なつきは舌を絡めようとする。

 が、ちょっとぎこちない。

 そっか、本当はこんなキスをしたかったんだろう。

 でも彼の性格上、とても舌なんて出せなかったんだ。

 先輩のキスを見て、酒の力を借りて、やっと出来たんだね。

 そう思うと、今一生懸命に僕の舌に絡めてるなつきが、堪らなく愛おしくなる。

 つい、そのなつきをチューっと吸い付いてあげた。


「んんんんーーーっ」


 なつきが切ない声を漏らす。

 僕は嬉しくて、優しく吸いながら、舌で舌の回りを擦ってあげる。


「んん、んんん……ん、ん」

 なつきの声が色っぽい。

「んく、んく、んく……」

 溢れてくる甘酒の蜜を飲んでいく。


 ああ、頭がぼうっとして、倒れそう……に、な、な、あ……

 み、み、見られてるーーーっ! 


 じーーーーーーーーーーーーーっ!!


 3人の先輩の熱い視線を一身に浴びる。

 

 慌ててなつきを離そうとしたら、くたああ、と(もた)れ掛かってきた。

 このタイミングで酔い潰れたらしい。


「も、もう! なつきったら、わ、悪ふざけが過ぎるなあ」


「ふーん、悪ふざけねえ」

「なつき君が攻められてたっぽいけど」


 カヨ先輩はニヤニヤしながら植野先輩と突っ込んでくる。


「いやあ、やっぱり本物はいい!

 良かった。

 本物のやおいは本当に良かったあ!!」


 鼻血垂れ流しでダイヤ先輩は変な言葉を叫ぶのだった。

 






 


 

 

うちの甘酒も長期熟成で超辛口になってましたね。

あくまで甘酒ですよ。

どぶろくだと違法ですからね。

ただ、アルコールあるか測った事ないですけどね。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

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