30話
夏コミからの帰り。
列車の中からスタートです。
まだ電車じゃなく、ディーゼルなので列車です。
どうでもいい?
失礼しました……
「今日はこれにて解散。
明日の正午より、私の家にて反省会をやる」
僕たちは博多駅からイイヅカ方面の篠栗線に乗っていた。
まるでお通夜かという様な雰囲気で、誰も口を開かず座っていたのだが、
篠栗駅を過ぎ長いトンネルを抜けて、ダイヤ先輩は険しい顔のままそう言った。
最近国鉄からJRだかになったらしいが、使ってる側には全く変わりはない。
ケイセン駅で植野先輩とダイヤ先輩本人が降りるので、ここで解散の宣言となった。
「折角の都会で、飯も食わずに帰らせてしまってスマン。
明日は食事の用意をしておくので、腹は減らせておくように」
「じゃあね、みんな。また明日ね」
「うん、おつかれさま」
「「お疲れ様でした」」
丁度列車は駅に着いたので、僕ら3人は普通の別れの挨拶をした。
普段ならニッコリ笑顔を送っただろう。
カヨ先輩なんかは外の2人に、見えなくなるまで手を振り続ける位はやっただろう。
とてもそんな空気ではないし、気分でもなかった。
列車はまた動き出す。
「あなた達はダイヤちゃん家知らないでしょ?」
いつもより口数少なく、紙を鞄から出して僕にスッと手渡す。
「コミケでブース取った時は、次の日ダイヤちゃん家で反省会って決まってんの」
僕は2つ折りの紙を広げた。
簡単な手描きの地図だった。
「特別な用事がなければ絶対出席しなさい」
静かだが強めな口調。
「「はい!」」
僕となつきは即、返事をした。
(ごめん……)
ポツリ先輩は呟いた。
「えっ?」
「2人とも、ごめんね」
カヨ先輩は両手で顔を覆って、涙声で謝ってきた。
「2人のお陰で個人誌売れたのに、私は2人に何もしてあげられなかった!」
「先輩……」
「そんな事ないです」
「ごめんね、駄目な先輩で……」
「そんな事……言わないで……」
僕も、ダメだ、涙が出てしまう。
「先輩、ミチヨ……」
なつきの苦しげな表情も辛い。
日曜の夕方、下り線。
車内がガラガラだったのは助かった。
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「いやあ、よく来てくれた! さあ、上がってくれ」
昨日とは打って変わって、上機嫌のダイヤ先輩。
僕らの背中をグイグイ押しながら廊下を進む。
僕となつきは正午10分前に着いたのだが、
「もうみんな、お待ちかねだぞ」
との事。
ダイヤ先輩の家は広い! 大きい!
僕は勝手に大きな洋館を想像していた。
おじいさんがアメリカ人だと聞いていたので。
だが、実際は純和風建築。
そりゃそうか。
日本大好きで帰化までしちゃう、そんなおじいさんが洋館建てる訳がない。
「ささ、好きなところに座ってくれ」
僕らは20畳はある、二間ぶち抜きの座敷に通された。
中央に2×3m位の黒い立派な座卓が2つ、縦に繋げて置かれている。
その上には、刺身、揚げ物、オードブルの乗った鉢盛りが2つ。
あとはサラダやがめ煮、漬け物など、家の人が作った料理が並べてあった。
「うわあ~、なんだか法事の時みたい」
僕は思わず、おバカな台詞を呟いた。
「あははははは」と、全員で笑った。
「ホントだねえ」
チョコリンと座った植野先輩も笑っている。
「あなた達、鉢盛りの前に座りなさい」
昨日一緒に目を腫らせて帰ったカヨ先輩も、微笑みながら皿を並べている。
「ミチヨ、すわろっ」
「うん!」
僕らも心が軽くなった。
上座にダイヤ先輩、先輩に向かって左側にカヨ先輩、植野先輩。
廊下から入ってまっすぐの、上座に向かって右側に僕となつきが座った。
「法事というよりは、今日は祝宴だ!」
丁度みんなが座した時スックと立ち、いつものダイヤ節が始まった。
「昨日は私が何の意味もない敗北感に苛まれ、皆には申し訳ない事をした」
バッ! と90度に腰を折って謝罪する。
「「そんな!」」
僕となつきは思わず声が出る。
「いや! 私が狼狽えなければ何の事はない話だったのだ」
「「………」」
「コスプレ云々の前に、我々のコミケでの活動は成功どころではない!
史上最高、空前絶後、画竜点睛、抱腹絶倒もんだ!」
画竜点睛を欠いたのが、コスプレだった様な気が……
「私が言いたいのは、戦術的一部の敗北、いや、それだって一定の評価を得ていた。
まあ、その一部の戦局に気を取られ過ぎ、危うく戦略的大勝利を過小評価するところだった」
それは分かる様な気がする。
「そしてそれは取りも直さず、今回の功労者を軽く扱うところであった」
「そうよねえ」
「ホントだ、危なかった」
カヨ、植野両先輩も頷く。
「ミチヨ君、なつき君、よく頑張った。頑張ってくれた。
今回の大勝利は全て、君たち2人のおかげだ。
ありがとう!」
「「ありがとう!」」
先輩達が深々と頭を下げた。
「先輩!」
「頭を上げてください!」
「よし!」
ガバッと先輩方は体を起こした。
「ちゃんと反省した。反省会終わり!」
「「イエーーイ!」」
「「えええーー!?」」
戸惑う僕となつきを尻目に、ダイヤ先輩は続ける。
「改めて、今からは祝勝会だ!
飲んで食べて、腹を割って語らおう」
「「イエーーイ!」」
「酒の席では、無礼講だからな!」
「「イエーーイ!!」」
「「えええええええええーーーっ!」」
いやいやいやいや、酒の席はダメでしょ!
「酒は酒でも甘酒だからな」
「「ひゃっほう!」」
「ダイヤちゃん素敵っ」「ダイヤちゃん最高」
「あ、あまざけ……」「よ、良かったあ……」
「2人とも、ダイヤちゃん家の甘酒は美味しいのよ」
「独特なクセがあるんだけど、それこそクセになるの」
そうだよね、常識ある先輩2人がいて、ホントの酒盛りなんてあるわけない。
「ははは、今日は家の者もいないし、心置きなく楽しもうではないか!」
「「「イエーーイ!!」」」
昨日の落ち込んだ気分なんか、もう微塵も残っていなかった。
となりを見ると、丁度なつきもこっちを向いた。
2人ニッコリ笑顔で応える。
うん!
なつきの顔に翳りはもう消えていた。
料理にあった「がめ煮」は、全国的には「筑前煮」と言われます。
福岡の人間としては上京しても、がめ煮ん事は筑前煮とは言えんですもんね。
失礼しました……
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