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28話

去年の夏コミのお話です。

続きです。

よろしくどうぞです~。


「もとは4人、中学でサークルを作ってたのよ」


 カヨ先輩は話し始めた。


 ブースをちょっと見て回る、とダイヤ先輩が席を外したからだ。


「私たちね、キックオフ椿に当時ハマってたの」


「うわあ、懐かしい」

 なつきも知ってる位の国民的アニメだ。


「私たちはキクツバの同人誌描いて、コスプレに夢中だった」


「「キクツバ!?」」


「そう、キクツバ。

 今の天馬みたいにコミケの主役だったの」


 さすがに僕は天馬以前の同人誌までは知らない。

 まさか椿がそんな人気の取り方をしていたとは。


「私はね、椿、観月のゴールデンタッグよりも、日向(ひなた)と鹿島の東洋コンビだったなあ」


 ちょっと遠い目をするカヨ先輩。

 母がタイガースを思い出してる時と同じ顔をした。

 当時僕らが純粋な眼で観ていた作品を、不純極まりない目で見詰めていたのだろう。


「すごく4人仲良くてね。

 植ちゃんとダイヤちゃんの作ったユニフォームをみんなで着てさ。

 私と大野ちゃんがメインで描いた同人誌売って」


 楽しげな思い出を浮かべた瞳。


「同人誌作る時も、ダイヤちゃんなんてガサツだからさ……

 大野ちゃんと2人でペンの持ち方から教えてあげたっけ」


 徐々に寂しさを混ぜはじめた。


「先輩……」


 カヨ先輩はそこでひと呼吸おいて、少し目を閉じた。

 そして、ふうっとため息をつき、また話し始めた。


「ダイヤちゃんがね、天馬のコスプレもやってみようって言ってきたの」


 先輩は悲しそうだ。が、それだけじゃない気がする。


「キクツバはユニフォームだけでしょ、作り甲斐に欠けると言うの。

 植ちゃんも同じだったのね、やりたいって……」


「いいんじゃないですか?

 凝ったコスプレ楽しそうですけど」

「うんうん」


 カヨ先輩は首を振る。


「大野ちゃんは嫌がったの。

 私はキクツバを裏切りたくないって」


「そんなコスプレで大袈裟な……」

「だって、同人誌はキクツバ描くんでしょ?」


「そう言ったの、大袈裟なって。

 ダイヤちゃんもそこまでキクツバに執着しちゃいけないって」


「そうですよ。他人を縛りすぎるのは」

「別に先輩はキクツバを裏切った訳じゃなかったんでしょ?」


 するとカヨ先輩は顔を両手で覆うと、耐えていた感情を溢れさせた。


「私のせいなの! 私が引き裂いたの!」


 僕の一言は知らずにカヨ先輩の胸を(えぐ)ってしまったらしい。


「私はもう、天馬のほうに転んでいたの。

 本当は凄く描きたかったの」


「「ええ!?」」


「当時キクツバから天馬へ猛烈にコミケの勢力図は変わっていったの。

 大野ちゃんは必死にその波に抗っていた。

 とても私は言えなかった。

 でも、それをダイヤちゃんは気付いてくれていて……」


「なあに、私は既にキクツバに飽きてしまっていただけさ」


「「ダイヤ先輩!」」

「ダイヤちゃん……」


「流行り廃りは世の常だ。

 過去に執着してどうする。

 自分が好きであり続ければいいだけではないか。

 自分のエゴで友を傷付け、仲間を別けるなど本末転倒だ!」


「「先輩……」」


「他のサークルはどうか知らん。

 だが我々は作品ではなく、友情で繋がった仲間だったではないか」


「ごめんねダイヤちゃん。

 ありがとう、もう大丈夫」


「ああ、あいつもいつか分かってくれるさ」

「うん」


 2人の仲が異様にいい理由が、少し見えた様な気がした。


「あいつ、今日ユニフォーム着てないな。

 ちっとは分かってきたのかな?」


 離れた稲高のブースに立つ、植野先輩と話している大野さん。

 彼女は私服だが、おそらく部員なのだろう、天馬の聖衣(ローブ)を着ている人がいる。


「ミ、ミチヨ!」


 なつきが僕の袖をグッと引いた。


「うん」


 僕も気づいた。


 他のサークルを見て回っていたのか、それとも今着替えてきたのか。

 さっきまで居なかった人物が現れたのだ。

 稲月高校と聞いて、真っ先に確認した人物。

 居なくて思わずホッとした人物。

 そのひと、八重洲ともかが可愛い雑兵の格好をして、後ろに聖響皇様を連れて今登場した。


「なっ、誰だあの美しい聖響皇は」

「す、すごい美人ね。新入部員かしら」


 ともかちゃんの雑兵は実に可愛らしく、人々の目を集めるだろう。

 いつもなら!

 だが今この場では、引き立て役にしかなっていない。

 厳かな佇まいでなお、穏やかな笑みを浮かべた美しき聖人は、辺りの人間を一瞬で舞闘界に引きずり込んだ。


「「燐光寺休!」」


「彼女を知っているのか」


「は、はい」


「奴は彼女ではなく、男です」


「「なにいーーーー!!」」


 植野先輩がてけてけと戻って来た。

 それを追っていたのか、こちらを向いた燐光寺の目とぶつかった。


 ニヤリ。


 先程までとは全く異質の微笑みを、一瞬だけ奴は浮かべたのだった。


燐光寺休は高い演劇センスを持っています。

理論型のともかより、本能型のヤスミは現時点ではかなり上の実力です。

ただ性格に難あり。ですね。

ううっヤスミン、悪役ビシッと決めてくれ~。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

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