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26話

高1の話はこの26話でおしまいでーす。

な、長かった。

正直、この話だけでも良かったような……

そんな事ないんですう。

ど、どうぞお楽しみ下さいませ。


「ほら、あそこの交差点を曲がったら、後はひたすら真っ直ぐだよ」


 なつきは自宅へと続く道を指差しながら、僕にほほ笑んで来た。

 僕は笑顔を返しながら、内心そう穏やかではなかった。

 

 僕はこの道を知っている。


 特長は無い。

 いや、無さすぎるのが特長か。


「ほら、この交差点から先、な~んにもないんだよ」


 知ってる。だから覚えてた。


 ここで民家が途切れ、これから先は右側を山、左手を田んぼが延々と続く。

 小学生の足で15分位歩いた先に、また集落が見えてくるはずだ。

 その辺りは苗字は違っても、ほぼ皆親戚もしくは家人だった血筋との事。

 集落に入ってすぐにある石垣の上に建つ、今では普通の百姓家。

 かつては大農家の本家として、風格ある結構なお屋敷が建っていたそうだ。

 今では落ちぶれた八重洲本家の長女、八重洲ともかちゃんから聞いた話だった。






 朝、いつもより早く起きて、いそいそと座敷へ向かう。

 昨夜遅くまで、うちの両親からの失礼な質問を、なつきは嫌な顔ひとつせずに答えていた。

 とにかく朝一で謝らなきゃ。

 そう心に決めて、ろくに眠りもしなかった。


 本当は……

 下になつきが寝ていると思ったら、あの時の事や、こうなりそうだった事が頭の中でグルグルグル。

 ドキドキ悶々として睡魔が近寄って来なかっただけである。


 ズスーーーッ


 座敷の障子をそっと開ける。

 すー、すー、と寝息が聞こえる。

 なつきはまだ夢の中。

 そうっと布団の脇に寄ってみる。

 

 なつきが寝てる。

 横向きで、顔のちょっと前に両手を置いて。


 耳の辺りまで掛かった布団をそっとめくる。

 縁側のカーテンの隙間から入った光が頬を反射して、白くぼうっとまわりを照らす。

 神々しい……

 見る事が畏れ多い美しさ。

 でも僕の目は、そこから離れることを許してくれない。

 いや、目じゃないな。

 心が惹き寄せられ、顔が惹き寄せられ、唇が……


「すごく綺麗だね」

 ビクッッッ!!


「お母さん!」


 母の顔が僕の頬すぐ横にあった。


「シーーッ! 起きちゃうでしょ」


「ん? わああっ、どうしたの?」


「ほらあ、起きちゃったじゃないの。

 なつきちゃん、おはよう」


「もう、お母さん、おはようじゃないよ! 何してんだよ!」


「あら、あんたと同じよ。

 可愛い寝顔見て、あわよくばホッペにチュッ」


「ぼ、僕はそ、そんな事してないもん」


「まだ、でしょ。惜しかったね」


「………」


「お、おはよう、ございます……」


「さ、2人とも、ごはん用意出来てんだから。

 さっさと食べに来なきゃ冷めちゃうわよ」 


 あくまでマイペースに掻き回して、母はリビングに去っていった。


「ごめんね。

 あの、そっと起こしてあげようかと」


「ホッペにキスして?」


「んぐっ」


「あはは、ごめんごめん」


「んもう」


 なつきは座ったまま「ぐううーっ」と背筋を伸ばした。

 その流れかというように、すっと寄ってきて、僕のホッペにチュッってした。


「お、おはよ」


「んもう」


 そんなに顔を真っ赤にするなら、やんなきゃいいのに。

 嬉しかったけど。


「ところでさ、今日時間ある?」


 布団の形を綺麗に直しながら、なつきが聞いてきた。


「あ、僕もそれ聞こうと思ってた」


「ホント? 良かった」


「どこか行きたい所でも?」


「うん! 僕んち!」


 




 僕の記憶が正しければ、この納骨堂のある山のカーブを過ぎたら集落が見えてくる。

 そして離れた所からでも分かる、城跡を思わせる様な石垣の上。

 そこに小6の時の親友、になりそうだった友、八重洲ともかの家がある。


 ふと、なつきを見る。

 やっぱり!

 なつきの視線は、進行方向よりもちょっと右に向かっている。


「八重洲ともかちゃん」


「えっ!」


「幼馴染み、なんでしょ?」


「ど、どうしてそれを……」


「6年生の時、すごく仲が良かったんだよ。

 何度か此処にも遊びに来たんだ」


「そうなんだ……」


「この集落に向かってるって事は……て思ったの」


「僕はもう、ともちゃんにはそんな!」


「いいんだよ、僕は。

 なつきがともかちゃんをどう思っていても。

 僕がなつきをどう思っているかが大事なんだから」


「そんな、そういう訳には……」


「ちょっと待って!」


 僕はなつきを、もう近くまで来ていた石垣の脇に引っ張っていった。


「ともかちゃんが出てきた」

「え!」


 よく見ると、玄関脇に男が立っていた。

 僕らは息を飲んで2人を見詰める。


「「燐光寺休(りんこうじやすみ)!」」


 思わず声に出た。


「「!!」」


 燐光寺が坂をこちらへ降りて来る。

 その燐光寺へトトトと駆け寄って腕を巻き付けるともかちゃん。

 このままでは鉢合わせだ。

 でもなんだろう、この(はらわた)が煮えくり返る感情は!


 なつきを見た。

 なつきの色白の顔から、さらに血の気が引いていた。


「やあ、ともかちゃん、久し振り」


 向こうの視線を感じたので、先に声を掛けた。


「!! 

 み、ミチちゃん……」


 ともかちゃんはさすがにバツが悪そうだ。


「これからデート? いいなあ。

 そちらは確か燐光寺くん?」


「ああ、お前はいつも平川の横にいたカマ野郎か」


 なんだコイツ、失礼にも程がある。


「あれぇ、そこに居んのは江藤君じゃない? 久し振りだなあ」


 燐光寺の奴はなつきを見ると、ニタァと笑って挨拶した。


「やあ、燐光寺君、お久し振り……」


 なつきの顔は真っ青だ。


「中学では大活躍だったね。応援してたんだよ。

 今日は忙しいから、昔話は今度会った時にでも」


 この顔は、痛みを知らない顔だ。

 人の痛みを分かろうともしない顔だ。

 だから人の心を平気に土足で踏みにじる。

 ともかちゃん、こんな男なの?

 君はミッキーより、こんな男を選んだの?


 恥知らずの節操なしカップルが、僕らの脇を通りすぎる。

 僕は思わず、


「ともかちゃん、お幸せにね。

 僕では君の気持ちに答えてあげられなかったから。

 でも、すごく嬉しかったんだ。

 だから、燐光寺と幸せになってね!」


 去り行く後ろ姿に、大きな声でそう言ってやった。

 僕は酷い男だと思う。

 思うけど、このままでは腹の虫が治まらなかった。


「どういう意味だ、てめえ」


 くるっと振り返った燐光寺の顔は怒りで真っ赤に染まっていた。

 湯気でも出そうな勢いだ。

 住職の倅がこんな瞬間湯沸器でどうすんの?

 

「それはともかに聞けばいいじゃない」


「なあんだと~」


 はは、相当なお怒りで……ざまあみろ!

 たぶん僕は殴られるけど、ちょっとは胸がスッとした。


 ずんずん迫る燐光寺。


「やめろ!」

「やめて!」


 僕と燐光寺の間に入った2つの影。


「燐光寺!

 ミチヨは僕の親友だ。それ以上進んだら許さない」


 今まで聞いたことの無い冷徹な声質のなつきが、両手を広げて立ち塞がる。


「ミチちゃんは大事な友達よ! 喧嘩しないで!」


 ともかちゃんもあんな事言われたのに庇ってくれている。


 僕は自分の狭量を恥じた。


「ともかちゃん、ごめんね。

 ついカッとなって」


「ううん、いいのよ。

 ミチちゃんが怒るなんて珍しい。

 でももっと珍しいのは」


 そう言って、ともかちゃんはなつきを見た。

 なつきはまだ燐光寺を睨んでいる。いや、射竦めている。


「なつきちゃんのこんな顔初めて見た。

 ミチちゃんがそんなに大事なんだね。

 私より……」


「え?」


「ヤスミ! デートやめるの?」


「え! やだ! ごめん!」


 あははは、マジになんなよ江藤、と言いながらともかちゃんと一緒に、僕らの来た方向へ去っていった。



 辺りはさっきまでの田舎の静けさをまた取り戻した。


「なつき……ごめんね」


 なんだか色々申し訳なさ過ぎて、涙がポロポロ溢れてる。


「いいんだ!」


 なつきはガバッと僕を抱き締めて、


「ミチヨを守れて良かった」


 とだけ言ってくれた。 


「あの時こうしとけば……」と違って、あまりにヤスミンが嫌な奴です。

まあ、なつきを小学校時代にいじめてる所は共通ですから仕方ないですけど。

僕はヤスミン、好きだったんで、書いててちょっぴり辛かったよう。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

感想ありましたら、お気軽に。

返信倍にして送りますよ~。

ウザイからいらない?

それは残念。

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