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20話 えとうなつきのおはなし

カヨコ「あら、ミチ君、何描いてるの?」


ミチヨ「ああ、先日なつき君が遊びに来た時の様子をですね」


ダイヤ「おおーそれは興味津々」


なつき「僕たちの恥ずかしいとこ、見ないで下さい」


カヨコ・ダイヤ「「よ、良いではないか、良いではないか」」


カヨコ・ダイヤ「「………」」


カヨコ・ダイヤ「「行くべきだったーーーーー!」」

挿絵(By みてみん)


「なつき君、ゴメン!」


 なんたる失態。

 僕は深々と、なつき君に頭を下げた。

 格好つけて自信満々、得意料理の豚の生姜焼きを作ってみれば、選りにも選ってご飯を炊き忘れ。

 生姜焼きにご飯が無いのはつらすぎる……


「どうする?

 今から炊くと、3、40分掛かるけど……」


「うん、炊こうよご飯。

 ご飯もやった事ないからさ」


「……ありがとう、なつき君」


 本当に優しいな、なつき君。


 2人で米を研いでジャーのスイッチを入れた。


「さあ、後は炊けるのを待つだけだよ。

 さてと……」


 どうしよう。

 40分ってのは中途半端な時間。

 まあ今なら「天馬」も頭に入るとは思うけど。

 1冊読めるかどうか。


「どうする?

 さっきの続きでも……する?」


 本読むのも、良いところで中断するんじゃないかなあ。


「そ、それって……」


 ん?

 なつき君の顔がみるみる赤くなる。


 ああっ!


「ひゃあああああああっ!」


 思わず変な声を出してしまった。

 言い方失敗したあああ……


 違うよう。

 違う違う違う違う違う、そっちじゃない。


「ち、違うよ、なつき君!

 き、キスの事じゃないよ」


「!!」


「あああなつき君、その、さっきの、あれは、その……」


 ひゃあああああ

 何をやってんだ僕は!

 今までオブラートに包んでたのを、思い切り剥がしちゃった……


「………」


 俯いて黙り込むなつき君。

 あんな優しい子を追い詰めてしまった。

 さっき僕が謝った時、軽く流してくれたのに。

 よく分からない罪悪感に(さいな)まれる。


「なつき……君」


「ミチヨ君! ごめんなさい!」


 なつき君は急に地面に頭を着ける勢いで謝った。


「え?」


「さっき、僕はミチヨ君にキスしようとしたんだ!」


 そ、それは知っている、かな。


「自分がされて、あんなに落ち込んだのに。

 それを自分がやるなんて……」


「え?」


「あ、ああ、ごめん、関係ないね」


「ううん、前に話してた、告白してきた友人の事?」


「うん。

 でもミチヨ君には関係ない事だから」


「そ、そうだよね、ごめんね。

 詮索するような言い方しちゃったね」

 そ、そっか、ちょっとショック。


「ああ!

 そういう意味じゃなくて。

 ……つまらない話だけど、聞いてくれる?」


「聞かせて。

 聞きたい」


 ううう良かったよう。

 嫌われたかと思った。


 それから少し間をとって、なつき君は話してくれた。



 ーーーーーーーーー


 僕は小学生の時、いじめられっ子だった。

 低学年の頃は軽い暴力なんかもあったけど、高学年になった頃からは爪弾きされた。

 僕は教室ではずっとひとりぼっちだった。

 そんな環境にも慣れ、それが当たり前だと思ってた。


 中学に上がり部活に入っても、それは変わる事はないと感じてた。

 だって楽一小が加わっても、半分は前と同じ平詰小学校の生徒なんだから。

 最初に出来るグループは、大体同じ小学校の面子で集まっていた。

 だからやっぱり、僕はひとりでいた。


 M君は同じバスケ部の同級生で元楽一小。

 明るくてムードメーカー。

 そのM君が、事あるだびに話し掛けて来た。

 部で僕が孤立しない様、人の輪に無理にでも引っ張り込んだ。

 余計な事をと思っていたが、だんだんその事にも慣れてきて、いつの間にか部に馴染んでいた。

 2年でレギュラーになれば、昔いじめられてた事なんて無かったかの扱いだ。

 それは間違いなく、きっかけはM君だった。


 だが2年の夏休みにM君は退部してしまう。

 皆は必死に引き留めた。

 だが彼の意思は強く、また理由も誰ひとり知る事は出来なかった。

 そう、僕を除いては。


 夏休みに入って、部活の帰りにM君の家に遊びに寄った。

 つい話に夢中になり、泊めてもらう事になった。

 お風呂をいただき、冷たい麦茶を1杯飲み干した後、急にM君が僕を抱き締めた。

 M君は戸惑う僕の耳元に、

「愛してる」

 と囁いてさらに手の力を強くした。


 僕はM君を嫌う訳がない。

 好きかと聞かれれば、それは好きだ。

 でも、愛しているかと聞かれたら……

 そんな事、考える訳がない。

 

 彼は体を一旦離し、肩を掴んだまま僕を見詰めた。

 僕は何も言えず黙ってしまっていた。

 そこできちんと断って、でも好意は嬉しいと言っておけば良かった。

 そうすれば彼はバスケを辞めなくて済んだかもしれない。

 だけど、おそらく真っ赤な顔をして見詰め返していたのだろう。

 彼は誤解し、顔を近付けて来た。

 あと数ミリで唇が重なるタイミングの時、やっと僕は自分の体を動かせた。


「いやだ!」


 僕は急いで服を着替え、M君の家を後にした。

 着替える間、彼は謝り続けた。

 僕の風呂上がりの姿に思わず告白したけど、想いはいい加減じゃない事。

 本当はキスなんてするつもりではなかった事。

 真剣に自分の事を考えてくれと。


「ごめん、どうしても無理」


 言い残して、僕はM君と別れた。

 こうして彼はバスケを、僕は友情を失った。

 その日から僕は、人に誤解を与えやすいという事を自覚し、感情を表に出さない様にした。

 昔とは違い、それでも他人の方から寄って来てくれる。

 だからそこまで寂しいなんて思わなかった。

 あの友情を失った寂しさに比べれば……


 それなのに。

 そんな思いをした僕なのに。

 まさかM君と同じ行動に出るなんて……

 自分で自分が信じられない。

 いや、分かったのかもしれない。

 同じだったんだ。

 理性を越えた本能の様な力で引き寄せられたんだ。

 人のせいにしてはいけないけれど、今日僕はミチヨ君の瞳に魅了された。

 ああ、あの時彼も同じ様な事、言ってたのにな。


 信じてあげられなかった。

 M君、ごめんね……



 ーーーーーーーーー 

 




小学生までは「あの時こうしとけば……」と同じ設定です。

ですからなつき君はボッチでした。

たったひとりの友人でも、きっかけがあれば改善されるんですけどね。

私の場合は「とんきち」と「コジロー」の2人でしたね。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうぞ、よろしくお願いいたします。

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