19話
まだまだまだミチヨ君の家でございます。
もうちょっと、お付き合い下さいませ。
「まず普通は、玉ねぎを半分に切って皮を剥くんだけど、うちではこうします」
僕は玉のまんまの玉ねぎを手に持ち、頭の少し下に包丁を入れた。
玉ねぎの先っぽを完全に切り取らず、途中で尻の方にむしり取る。
パリパリパリっと表面の皮が、白い身1枚と一緒に剥がれる。
茶色い玉ねぎの上から下へ、幅2cm位の真白い道が出来る。
「おおーー!」
なつき君が感心している。
上手く下まで剥がれて良かった。
玉ねぎをひっくり返して尻に刃を入れ、反対側も同じにする。
包丁を置いて、白い道から手で皮をむしる。
つるりと結構楽に取れる。
身1枚無駄にするけど、どうせ固くて美味しくない。
キレイに皮の剥けた玉ねぎを2つに割って、手際よく芯を切り取る。
「さあ、なつき君の出番だよ」
「え? うん、頑張る」
「繊維に沿って1cmしない位に切って。
指はニャンコでね」
僕はまな板の前を譲り、玉ねぎ半分で掴み方をやって見せた。
「な、なるほど。
ニャンコだね」
「指を丸めて、指に包丁を沿わせてニャーンって」
「う、うん。
にゃああ~~ん」
わざわざ鳴き声を出しながら、恐る恐る包丁に力を入れる。
先程着た、一見すると水玉のワンピースの様なエプロン。
折角の格好が、へっぴり腰で台無しだ。
突き出したお尻は横から見ると、裏股の付け根辺りが、
(チラリ、チラリ)
とエプロンの隙間から見え隠れしている。
本人は至って真剣。
だからこそ滑稽な仕草と相まって、身悶えする程可愛らしい。
エプロンを取りに行った時、最初は一番のお気に入りを渡そうかと思った。
去年の暮れに母が買ってきた、白の、肩までフリルのついた奴だ。
赤毛のアンのダイアナが着けてた様な奴。
「え~、こんなの恥ずかしくて着れないよう」
と口では言っておいたが、内心ルンルンだったのだ。
着けてみるとやっぱり可愛い。
ぼ、僕は女装趣味がある訳じゃない。
母の少女趣味に長く付き合わされた結果、その良し悪しが分かる様になっただけだ。
可愛い物は可愛い。
ただそれだけだ。
んで、可愛いのは、大好きだけど……
だが、なつき君は素直に着けるだろうか。
僕のを貸すって言ったから、エプロン見て軽蔑するかも。
それに、白だと、ちょっとなあ。
醤油付いちゃうとシミになっちゃうなあ。
本末転倒だけど……
やっぱり、可愛さは一段落ちるけど、前に使ってた水玉にしよう。
あれならまだ、なつき君に軽蔑される事もないだろう。
たぶん。
「うわあっ!
こ、これは、恥ずかしいよ」
「ごめん、母の好みで、これでもマシな方なんだ」
「これで?
ミチヨ君、いつも着てるの」
「いつもは着けないよ!
でも年末の餅を丸める時は着けないと」
「ああ、粉凄いもんね」
「でしょう?
で、お母さんはそこで僕に着けさせるのが生き甲斐だって」
「ぷふっ、生き甲斐って」
「自分でいってんだもん!」
「じゃあさ、その、マシじゃない方をミチヨ君着けてよ」
「えーーーーーっ!」
という様な事があり、今2人は可愛いエプロンコンビです。
「もう、なんか切れないよ」
なつき君は玉ねぎを切るのに苦戦中だった。
腰が引け過ぎてるからかと思ったら、切れた数切れを見ると理由が分かった。
「なつき君、押し付けないで引くんだよ」
「え? 引く?」
「ちょっと待って」
僕は後ろから、なつき君の右手に手を添えて、左手は腰の横から回して手に添えた。
なつき君の右頬と僕の左頬が触れ合う。
一瞬彼の髪の薫りが鼻腔をくすぐったが、直ぐに玉ねぎの刺激臭がかき消した。
「こうやって、軽くひけば、切れるでしょ」
「う、うん」
「じゃあ、玉ねぎは任せるよ」
「うん、大丈夫。だと思う」
「ぷふっ、任せたぞっ」
僕は玉ねぎの細切りをなつき君がやっている間に、肉の下ごしらえをやる。
ボールに肉、醤油、砂糖を入れる。
次に生姜を冷蔵庫から出して、皮を剥いて、ボールの上で3分の1程すり下ろす。
残りをスライスして、包丁の側面で押し潰す。
グジュっと広がるので、それを千切りにして、ボールに入れる。
「なつき君、どう?」
「うん、もう出来るよ」
う~ん、見るからにデカイ玉ねぎスライスだ。
でも食べごたえあっていいんじゃない?
「じゃあ、このボールに入れて」
「うん!」
「これ、もみもみやる?」
「やるーーっ」
肉を揉んでもらってる間にフライパンを熱する。
後は肉を焼くのだが、つけ汁も多めに投入。
最後にみりんを一回し。
ちょっと甘めに仕上げた生姜焼きの完成だ。
「わあああ、出来たあ。
美味しそう」
「うふふ、出来たねえ。
お手伝い、ありがとう」
「ええーっ、そんなあ。
……ありがとね」
「じゃあ、遅いお昼ごはん、食べよっか」
「おーう」
しかしここで気付いてしまうのだ。
ご飯を装おうとして、米を仕込み忘れた事に……
前に親友のテイク・イトイジの奴に手料理を振る舞ったのがコレでした。
「うわあっ! 定食屋さんみたい!」
と喜んでくれてたのを思い出します。
「あの時こうしとけば……」のイラスト描いてる奴です。
まったく、描くの遅いったらありゃしない。……ゴメン。
読んで頂いて、ありがとうござます。
次話もよろしくお願いします。




