表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/80

18話

まだまだ、高1の話です。


 部屋で2人、黙々と本を読む。

 ただただ本を読む。


 こたつの上には漫画本の山。

 しかし2人共、手に持つ1冊が一向に読み終わらない。

 目には入れても、頭にはちっとも入ってこない。

 幾らかページをめくっては戻すの繰り返し……


 うううううっ、いったい何をやっているんだか。

 何か話し掛ければいいじゃないか。

 いつもやってる事だろう?

 でも、何か、どうも掛けづらい……


 さっきのやっぱり、キス……しようとしてた、よね?


 そうは聞けない。

 それは聞けない。

 いやいやいやいや、無理だよう。


 チラとなつき君の方を見る。

 なつき君もちょうど僕を見た。


 目が合うと、なつき君の顔が一瞬で赤く染まる。

 2人で恥ずかしがりながら、また本に目を戻す。


 ああああああっ、もう!

 何時間、同じ事を僕ら繰り返してんだ?

 ん?

 3時半……か。

 なんだ、まだ1時間ちょっとしか経っていないんだ。


 そうだ!


「なつき君」


「は、はいっ!」


「おなか減っちゃった。

 おひる食べようよ、遅いけど」


「あ! そうだね、そうしよう!」


 なつき君もこの空気を変えたかったのだろう、喜んで賛成した。


「なつき君は座って待ってて」


 立ち上がろうと膝を立てたなつき君を僕は止めた。

 アロエを塗ったあと、なつき君には僕の部屋着の短パンを履いてもらう。

 患部に生地を当てたくなかったからだ。


 思わず太股にある、ピンクのアザを見てしまう。


「ああ、もう大丈夫だよ。

 触らないと痛くないよ」


「本当?」


「うん。だから手伝わせてよ」


 スックと立ち上がる。


 スラリと伸びた真っ白な脚。

 とても男性の物とは……

 とてもバスケをやっていた者の物とは思えない、細く柔らかみのある美しい脚。

 僕は思わず見蕩れてしまう。

 僕の足も白くて細いけど、それはただの()()()だ。

 美しくなんてない。

 

 そういえば、あの時ミッキーの脚、(たくま)しかったな。

 急に僕が家に行ったから、トランクスだけだったんだよな。

 そっか、あの後、キスしたんだった……


「ミチヨ君、心配しすぎだよ。

 ほんとに大丈夫だから」


「え!? ああ、本当?」


 なつき君は、いい方向に勘違いしてくれた様だった。

 つい、ボーっと思考があさってに行っちゃった。

 お母さんのミッキー情報と、さっきのキス未遂のせいだろね。

 いつもはミッキーを思い出すと傷む胸が、今日は何だか温かく感じる。

 こんなの、久し振りだな……


「大丈夫だから手伝うからねっ!」


「はいはい、仕方ないですね~」


「もう」


「「あははははは」」


 やっと、普段の2人に戻れたかな。


「でも」


 なつき君は少し口調を改める。


「心配してくれて、ありがとう」


 後ろの窓から入ってくる光が神々しく、ニッコリ微笑む君を包む。

 ああ……息を呑むほど美しい。

 なつき君、不意にやるとキュンと来るからやめて下さい。





「じゃあ、なつき君は玉ねぎ切っといて」


 僕は冷蔵庫から、大きめの玉ねぎを1個、なつき君に手渡した。

 キッチンには既に調理道具を準備している。


「う、うん」


 そっちは任せて僕は、豚肉、醤油、砂糖、みりんを用意する。

 ふと、なつき君を見る。


 ギョッ!?


 なつき君は両手で包丁を握りしめ、まな板に乗せた玉ねぎの上でプルプルさせている。


「ちょ、ちょっと何やって」

「えいっ!」


 そんな切り方で包丁が入るはずもなく、玉ねぎは床に転げ、カーンと軽い音だけ響かせた。


「あぶないよ、なつき君!」


「うう、ごめん。

 僕、料理、やった事ないんだ」


「えーーーーーっ!」


「でも、手伝いたいし、やってみたかったんだ」


 意外だった。

 女性的な外見のせいで、勝手に家事が出来る様に見ていたのかも。

 でも、いくらなんでもあの切り方はないだろう。


「家庭科で実習やったじゃない」


「うん、何か班の子達が全部やってくれて。

 本当はやりたかったのに……」


 そうだった、中学ではアイドルだった。


「家ではやらないの?」


 僕なんか毎日の様に手伝わされてるけど。

 まあ、好きだけどね。


「僕も凄くやりたいんだけど、雪姉が」


「ゆきねえ? お姉さん?」


「そう。

 花嫁修行だ、向こう行け。

 とか言って邪魔者扱い」


「なるほどね」


「やっぱり、邪魔?」


「そんな事ないよ!

 料理は楽しいし、一緒にやればもっと楽しい!」


「ミチヨ君……」


「じゃあ、初心者のなつき君にはエプロンが必要だね」


「エプロン?」


「絶対に服汚しちゃう。

 ちょっと待っててね」


「ミチヨ君、ありがとう」


 僕は箪笥(たんす)に仕舞ってあるエプロンを取りに座敷に向かった。

 年に数度、餅つきの餅を丸める時や、そば打ちを手伝う時にしか使わない僕用エプロン。

 買ってきた母の、少女趣味丸出しの、僕に着せる為のエプロン。

 それをなつき君に貸してあげよう。


「んふふふふ~ん」


 お母さんの気持ち、分かっちゃった。



 


さてさて、ミチヨは何を作ろうとしているのでしょうか?

因みに、味の決め手は書いてません。

もう分かっちゃうね。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ