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17話

皆さん、お忘れでしょうか。

なつき君があまりに美しいという影響で、

ミチヨ君だって、負けず劣らず可愛いという事実を……


「あら? 早かったのね」


 うちに入ると、居間から母がやって来た。

 今日は父とイイヅカで待ち合わせ、夫婦で週末デートの予定のはずだが。


「あなた部活じゃなかったの?」


「お母さんこそ、デートなんじゃないの?」


「うん、そろそろ着替えて出かけるわよ」

 

「そっか。

 ひとまず、ただいま」

「……お邪魔します」


「え? ええっ! 女の子!?」


「ちがうよ!

 よく見なよ、江藤君だろ!」


 なつき君とは中学で同じクラスだったから、見た事あるだろうに。


「あら! ほんとだ! あはは、いらっしゃい」


「さあ、上がって」


「し、失礼します」


 やはりというか、人見知りな感じのなつき君。

 僕も逆の立場だったら、同じ雰囲気なんだろうな。


「江藤君ありがとうね。

 ゆっくりしていってね」


「はい、ありがとうございます」


「どうぞ、なつき君。

 僕の部屋、二階だから」


 急かすように、なつき君を連れていく。


 僕の部屋は6畳で、向かって右奥に勉強机。左壁際にベッド。

 真ん中にこたつ台。

 今はこたつ布団は敷いておらず、台の上には紙と画材が出しっぱだ。


 なつき君が来るって分かってたら片付けたのに。


 取りあえず、こたつの左側のクッションを勧めて座ってもらう。

 ベッドが背もたれになって楽なのだ。


「ちょっと待ってね、今用意するから」


 僕はワサワサっと画材やらを掴んで、勉強机の上に移動する。

 それから右壁の上の押し入れをガラガラっと空け、こたつの上に乗る。

 下の押し入れには予備の布団や夏物の服等が入れてある。

 上の方には、漫画、小説がビッシリ敷き詰めてある。

 本棚とかじゃ場所を取るのでこうなった。


「天馬」はよく読むので手前にまとめてある。


「はい、なつき君」


 先ずはと、1~10巻を僕の足元、こたつに下ろす。


「おー! ありがとう」


「何か飲み物持ってくるよ」


「ああ、お気遣いなく」


「もう、そんな風に言わないでよ」


「え? あははは。

 ごめ……ありがとう」


「よろしい」


 僕は、ちょっと待っててね、と、キッチンに駆けてった。



 キッチンでは母がお湯を沸かしていて、ティーカップにコーヒーの粉を入れていた。


「ああ、ミッチョン、もう沸くからね」


「ありがとう、丁度良かったあ」


 僕は戸棚の脇にあるお盆を手にする。

 お茶の仕度をしながら、母がフフフと微笑む。


「最近ミッキーと喧嘩してから元気なかったんで、心配してたのよ」


「………」


「あんたと江藤君とミッキーじゃ仲良くなれんじゃないの?」


「そんな事……」


「何があったか知らないけどね。

 ミャコちゃんづてにミッキー、あんたの事気にしてるってよ」


「!!」


「何そんな恋する乙女みたいな顔してんの!

 ほら用意出来た。持ってって」


 ど、どんな顔だよっ。


「もう、何だよう、それ……」


 そっか。

 気にしてくれてんだ。

 最近ちっとも来なくなったんで、嫌われたのかと思ってた。


「はいはい、ちゃんと持って。

 なつきちゃんとも仲良くねえ~」

 にしししし、と笑う。


「だから何だよう、もう!」


 お盆を持って階段を上がる。


 そういえば、ミッキー以外の友達を部屋に入れた事がない。

 なつき君は自分にとって、かつてのミッキーの様な存在になって来ているのだろうか。

 別に比べるわけじゃないけど、どんどん胸のスペースになつき君の姿が増えていく。

 恋愛とは別だよ。

 大事な友達。

 そう、部屋に呼べるような友達は僕には居なかっただろ。

 いや、ひとり居た。

 ……ともかちゃんだ。


 ちょっと胸がモヤっとする。


「うわっ!」


 ガツッと、階段の最後の一段でつんのめる。

 ととっと数歩踏ん張ろうとしたが、手荷物の重さが邪魔をする。

 荷物を落とさない様に!

 でも、踏ん張って体制を戻さないと!

 開けっ放しの僕の部屋に倒れ込む。

 二兎を追う者一兎をも得ず。

 僕は豪快に荷物を放り出す形で、顔からこけた。


「うわあああっ!」


 なつき君の叫び声。


「熱つつつつつつっ!」


「なつき君!」


 僕は飛び起きてなつき君を見る。


 熱いコーヒーが思いきり、彼の太股(ふともも)にかかっていた。


「いやあああ! なつき君!」


 僕は半狂乱になって、彼の学生ズボンを脱がした。

 白い透き通るような肌があらわになる。

 透明感のある肌なんてCMで言うが、実に的を射た表現だ。

 うっすら血管が透けて見える柔肌に、くっきりピンクが浮かび上がる。

 この美しい桃色が今は痛々しく見える。


「お母さーん! 氷取ってえ!」


 母は既に氷を包んだタオルを持って、階段を上がって来ていた。

 なつき君の熱がる声で察した様だ。

 

「ごめん、ごめんね、なつき君……」


 僕は祈る様な気持ちでタオルを当てた。

 これが火傷になって、この美しい肌に傷を残したら……

 それだけは、堪えられない。


「もう大丈夫だよ。このくらい」


「ダメ!

 お願いだから、手当てさせて……」


 何か辛くて涙が出てくる。


「ミチヨ君……ありがとう。

 お願いします」


「じゃあ、染みにならないうちに洗っとこうかね」


 母はテキパキ汚れを片し、ズボンを持って下りていった。


 僕はタオルを当てたまま考える。

 軟膏を塗ろうか、いや、水ぶくれまで酷くない。

 アロエがいいだろう。


 うちの庭の畑に大きなアロエを植えてあるのだ。


「ちょっと押さえてて」


 僕は急ぎ庭へ出て、一番肉厚な所をむしり取る。

 プリプリの葉肉から液が溢れてくる。

 部屋に取って返し、早く患部に塗ろうとした。


「自分でやるよ」


 なつき君は言うが、


「もう僕の手に一杯ついてるから」


 と、遠慮はさせない。


 葉肉で塗れば痛くないのだが、うっかり葉が当たると凄く痛い。

 だから指でそっと塗ろう。


 なつき君は氷を台に置き、タオルをブリーフの上に掛け、足を開く。

 僕は先ず念の為、ピンク色の外の白い肌から液を塗る。


 つつつつつ……


 優しく指を滑らせる。


「んんっ……」


 なつき君が吐息を漏らす。


「ごめんね、痛かった?」


 白い肌の所だから油断した。


「いや、違うんだ、痛くないよ」


「またそうやって我慢する」


 液が溢れそうなので体を起こさず、目だけ上を見てなつきくんと話す。


「うっ! うん……ありがとう」


 ほんとは顔を赤くするほど我慢してるくせに。


 僕はもっと慎重に、触れるか触れないかの感じで液を塗る。


 つつつつつつつ……


「ぅふっ……」


「ごめんね、少しだけ我慢して」


 申し訳ないけど、これ以上の加減は無理。

 目だけ上を向いて謝る。


「ううう……うん……」


 つつつつつつつ……


 なつき君の、タオルを持つ手に力が入っている気がする。

 もうちょっとだけ我慢してね。


 つつつつつつつ、つつつつつつつ、つつつつつつつ

 

「はあ、はあ、はあ」


「もうすぐだからね」


「ミチヨ君……僕、もう」


「もうちょっとだけ我慢して」


「う、うん……ああっ」


「はい、終わり!」


 くたあっと上からなつき君がもたれ掛かってくる。


「よく我慢出来たね」


 起こした2人の顔は鼻が触れ合おうかという距離だった。

 トロンとしたなつき君の目と見詰め合う。


「「………」」


 え?


 何か、そんな……


 少しずつ顔が近づく。


 ああ……


 うそ……


 ほんとに……


 でも……


 嫌じゃないかも……


「どう? なつき君の様子は」


 ガチャッ!


 扉を開けて母が入って来た。


 一瞬で我に返る2人。


「なあに、お邪魔しちゃった?」


「ば、バカじゃないの?

 アロエ塗ってあげてたんだよ!」


「うふふふ、そうよね~

 じゃあ、お母さん、出掛けるからね。

 ズボンは居間に掛けてるからね」


 ごゆっくり~、と、母はデートに行ってしまった。


 微妙な空気で、2人きりになってしまった。

 

  

ネコちゃんは娘がほしかったのです。

が、産まれた男の子はすくすくと育ち、

男の娘になりました。とさ。


読んで頂いて、ありがとうございました。

次話もよろしくお願いいたします。


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