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15話

中山田先輩の絵です。

前回の下書きをペン入れしました。

1年前の入部した頃のおはなしです。

ではでは、どうぞ~。

挿絵(By みてみん)


「下書きと違ーーーう!」


 柄にもなく、思わず突っ込んでしまった。



 1年程前……

 美術部に入ってひと月位たった5月中旬のある日。

 活動として部員は全員、秋の県展に向けての作品を制作する。

 50号のキャンバス、大体120×90センチ位に油絵を描く。

 油彩は中学でも一応やったが、額縁サイズだけ。

 しかも前からあるやつに白を塗って、何回も何回も何回も使い回すのだ。

 ところが高校では、畳半分の大きさ。

 これが高校サイズか……と、少し不安で、凄くワクワクする。

 さらにキャンバスが真っっサラ! 新品! 

 うひょ~って感じ。


「どうした国立、ぽけ~っとして」 


 顧問、いや、師匠の神野先生がニヤニヤしながら声をかけて来た。


「あ、はい、綺麗だなあと……」


「フッ、いいだろう、初モノは。

 お前の色でどんどん汚しちまえ」


「はい!」


 先生はよく汚せと言う。

 まだよくは分からないけど、深い意味があるのかもしれない。

 

 ドン!


 そして僕の胸を少しだけ力を入れて叩いた。

 

「お前のここを、そのまんま表現する。みたいにな」


「はい!」

「なるほど……」


 気付けばなつき君も、うんうんと真面目に頷いている。


「おっ! お前ら2人は素直でいいな」


 先生はなつき君の方も向いて、僕らに対してニコッと微笑む。

 かっこいい……

 僕は男が好きって訳ではないが、一瞬ぽうってなる位の素敵な笑顔。


 先生は40過ぎの独身貴族。

 左前髪ひと束が白くなり、頬と目尻に少しシワが目立つ。

 けれどそこがイイッて言う人は絶対にいる。

 簡単に言っちゃえば、ダンディーなのです。



「ダイヤちゃーん! お気を確かにー!」


「カヨちゃん、いいの……眼、福」


 鼻血をキラリひと雫、ダイヤ先輩は机に突っ伏した。


「お前らは相も変わらずだな」

 はぁ、と溜め息。

「俺は人の嗜好(しこう)というか性癖について文句は言わん。

 だがせめて、制作に活かせよ」


「活かしてますっ!」


 得意満面にカヨ先輩は、原稿用紙を両手に掲げる。


「み、右に同じくっ!」


 鼻血ふきふきダイヤ先輩も、作りかけのコスプレ衣装を高く掲げた。

 先生はちょっとイラッと、キャンバスを叩く。


「こっちだよ!

 これに活かせつってんの、これに!」


 バン! バン! バキャ!


「「「あーーーーーー!!」」」


 勢い余った先生の手は、キャンバスをイーゼルからはたき落とした。

 地面に角から落ちたキャンバスは、

「メキャッ」という、してはいけない音を出した。


「あーーー! 僕のカンバスぅぅ~」


 慌てて先生は、破損のチェックをする。


「良かったなあ国立。

 角がちょこっと、ひしゃげただけだ」


 そして、各自モチーフ選んどけ、と言いながらソソクサと準備室に引っ込んだ。


「あ、逃げた」


「逃げた逃げた」


 してやったり、という顔の2人。



「汚すまえに、傷物にされちゃったよう……」



 ーーーーーーーーーーーー



 キャンバスを縦に使うか、横に使うかで構図も変わってくる。

 僕はオーソドックスにというか、縦に使ってスッキリ流れる構図にしよう。


 メインを石膏(せっこう)の天使みたいな子供の像。

 それと右上に牛骨を配し、流れを上方向に。

 後は果物を手前に配置する。

 この果物だけちょっと動かした。

 モチーフは授業にも使っているので、なるべく動かすなと言われている。

 ので、ほんの気持ちくらい。


 描く物が決まったら、木炭でデッサンする。

 先生が言うには、木炭画で出品する位に、しっかり描けとの事。

 その方が、色を乗せる時に楽だからだそうだ。

 さすが画家先生、と何となく感心して実行しようと思う。


 さてキャンバスだが、本当に角がちょこっと潰れただけみたい。

 表面に歪みとかも無さそう。

 カヨ先輩があの後すぐ、私のと替えてあげるよ、と言ってくれたが断った。

 最初貰った時の感動と愛着で、この子以外で描きたくなかったのだ。



「出来たーーーっ!」

「こっちもカンセーーーイ!」


 急に先輩方が喜びの声を上げる。

 真面目に部活動をしている後輩を尻目に、2人黙々と自分の作業に没頭していたのだ。


「ジャーン!

 見て見て2人とも、この作品」


「見よ2人とも、我が渾身の出来栄えを!」


 2人とも、何の悪びれた様子も無い。


「もう先輩、ちゃんと部活動しましょうよ」


 さすがにちょっと不真面目過ぎでは……


「何言ってるのだ後輩。

 これも立派な部活動だぞ」


「「えっ?」」


「補足しましょう」


 カヨ先輩がしたり顔で一歩前に出る。


「県展に作品を出品するのは公の活動。

 私達のは、個人目標達成のための活動。

 これは校則でも認められた権利」


「本当ですか?」


「ああ。

 じゃあ、何で5人集まれば部を作れる?」


「「えっ?」」


「ダイヤちゃん、今それ関係ないから。

 兎に角、ある程度自主的な活動もした方がいいの。特に文化部」


「そう、自主性だよ。

 体力バカの運動部には無理な話だろ」


「だから、そういう自己啓発的活動は、文化部でガンバんないと」


 そうか。

 高校生ともなれば、ただ言われた事をやるだけじゃないんだ。

 自己けいはつ、とか言うのか。


「だから2人には、もうひとつの部活動にも参加して貰います」


「「ええっ!?」」


「絵の得意そうな国立君は私」

 とカヨ先輩。


「コスプレは江藤君だ」

 とダイヤ先輩。


「まあ、コスプレも漫画づくりも両方やるんだが、一応担当な」


「「ええーーーっ!?」」


「取り敢えず、これ」


「2人の入部祝いに」


 ダイヤ先輩は手に持った衣装をハラリと見せた。


「フェイントだ天馬」に出て来る、アンドゥトロワ淳の聖衣(ロウブ)だ。


「す、すごい……

 漫画から出てきたみたい」


 僕は思わず呟いた。


「え、そうなの?

 確かに完成度の高い衣装だけど」


 漫画を知らないなつき君には、感心さが半分かな。


「これは……江藤君に」


「え?」

「いいなー」

「ええ?」


 つい羨ましいと思っちゃった。


「じゃあ、私ね」


 カヨ先輩は漫画原稿だろう。

 前に下書きを見せてもらった。

 なつき君と僕が、モデルとデッサンをやってた時の漫画だった。

 まだラフだったけど、少女漫画のラブコメっぽかった。別マみたく。

 

「気に入ってもらえたら、嬉しいんだけど」


 そっかぁ、僕に描いててくれてたんだあ。

 なんか、その事だけでもう嬉しい……


 先輩は手にした漫画原稿用紙を、僕に手渡した。


「下書きと違ーーーう!」


 僕は思わず突っ込んだ。


「同人誌だから、作品に寄せないと」


「だからって……

 先輩の個性っていうか、それでいいんですか?」


「ホントはね、下のコマに入れたかったのよ、ザシャアって」


「そこっ?」


「でもそれだと、イラストじゃなくなっちゃうでしょう?」


「すでにイラストじゃないですよ!」


「やだ、気に入らなかった?」


 わ! 

 しまった。

 驚いた余り、否定みたいになってしまった。


「いやいや、とんでもないです!

 嬉しいです、凄く。

 下書きと違いすぎて、ビックリしただけです」


「そうなの? それならいいけど……」


「本当に嬉しいですよ。ありがとうございます」


 僕は本気で感謝してますよ。



「よし!」


 パンと手をひとつ鳴らして、ダイヤ先輩が部長オーラを出す。


「ひと月経ったが、これで2人は真の美術部員だ」


「「!!」」


「最初は分からない事や、難しい事もあると思うわ」


「そういう時は、何の遠慮なく聞いてくれ」


「油絵の事だっていいのよ」


「その為の先輩だ」


「公私どちらの活動も」


「公私どちらの悩みでも。な」


 そしてビシッと両手を広げるポーズを決めた。


「「ようこそ、カヒガシ美術部へ! 君達を歓迎する!」」


 こんな下らない事に2人練習したんだろうな……

 なんか分かんない感動が胸の温度を上げていく。


 ズルいよ先輩、ズルいけど……カッコいいよ。  

お絵描きアプリは、指で絵を描かなきゃいけないので、

兎に角苦戦しました。

……言い訳です。


読んでいただいて、ありがとうございます。

次話もよろしくお願いいたします。

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