12話
新しい日々というのは、あっという間に過ぎ去るもので。
嘉望東高校の新生活は、早くもひと月ちょっとになります。
嘉東に入った当時はボッチ気味で心細かったけど、クラスになつき君がいて助かった。
たった1人でも仲の良い子が出来ると、目の前がぱあっと華やぐのだ。
江藤なつき君は中学3年の時、クラスメートだった子。
中学ではバスケ部のエースで運動神経抜群。
性格は物静かで、あまり感情を表に出さない。
でもたまに、ニコッと愛想笑いでも見せられたら、たぶん誰もが恋に墜ちる。
特に男っ!
女子より男子が惚れるだろうって位の超美形。
美少年というより、もう、美少女でいいじゃんって感じ。
とにかく、美人よりも美人!
中3で同じクラスだったけど、美術部の僕とはちょっと距離があって、挨拶程度しか記憶にない。
陰でアイドルみたいに言われてる彼には、こちらから近付きたくないってのもあった。
それにあの頃は他の男性に興味なんて……いや、何でもない。
そんな単なる知り合いでも、お互い心細い新天地で会った場合、関係が急展開してしまう。
元々引っ込み思案同士相性も良かったらしく、打ち解けるのも早かった。
うん、早かったんだと思う。
最近こそ、よく表情が変わるけど、前は無表情が多かった。
昔バスケ部の友達に告白されて、ちょっとショックだったらしい。
だから誤解されないようにしてるんだとか。
絶対相手は男友達だったな。
あははは。
何だよ、告白くらいで落ち込むなよ。
こっちなんてベロチューだぞ!
……だから、関係ないだろ、そんな事。
僕はなつき君と高校生活を謳歌している。
なつき君はバスケ部に凄く勧誘されていた、いや、いるけど、絶対に入らないらしい。
それよりは文化系に行ってみたいとの事。
「ねえミチヨ君、演劇部とか面白そうじゃない?」
「え! いや、僕は、演劇部は……」
「僕ひとりじゃ怖いな。
一緒に見学しに行かない?」
「ぼ、僕は、その、演劇部は……ちょっと、その……」
「えー、いいじゃない演劇部。
中学には無かったし、高校になったって感じがして」
「あ、あはは、そうだね……でも、やっぱり、やっぱり僕は、その……」
「どうしたの! ミチヨ君!」
「え?」
どうやら僕は泣いていたらしい。
みっともないなあと思いながらもポロポロ涙が止まらなかった。
「ゴメン、やめようね。そうだ、美術部の見学行きたいな」
なつき君は優しい子だ。
それから二度と演劇部の話題を出す事はない。
それどころか、一緒に美術部に入ってくれた。
そんなに絵は得意じゃないのに、僕が中学で美術部だったのを覚えてくれていたんだ。
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「僕はミチヨ君みたく、絵が上手くないからなあ」
なつき君はボヤキながらも、真剣な眼差しを僕に向ける。
たしかに、これはダメだろう。
並みの男子だったら即、墜されてる。
そしてその子は、なつき君のトラウマカウンターに1つ、追加されてしまうんだ。
あまりの美しさに、流石に僕も緊張する。
「ちょっと、お茶を……」
「はわわ! 動いちゃダメ!」
「あうっ!」
「もう、絶対同じ格好に戻ってよ」
「はい。ごめんなさい」
慣れないモデルに、僕の方が叱られてしまった。
あわてて姿勢を正す。
「うふふ、先ずは飲んでからでいいよ。お茶」
「え? あ、そうだね」
「プッ!」
「あはは、もう、笑わないでよ」
「「あはははははは」」
2人で思いきり笑った。
誰かと一緒に笑うなんて久し振りだった。
なつき君となら、吹っ切れそうな予感がした……
なつき君の登場です。
本編の「あの時こうしとけば……」の一応ヒロイン?でしたから、
きちんと出てきたからには相応の働きをしてもらわないと。
び、BL三角関係!?
さてどうなるのかは、作者の私も分かりません。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もよろしくお願いいたします。




