9話 ひらかわみきおのおはなし
今回から数話、視点がミッキーになります。
よろしくどうぞ~。
俺の心は、ずっとひとりのものだった……
もうずいぶん前から、彼女の事が好きだった。
いつから好きになったのか、いや、出会ったのがいつかも分からない。
気が付けば、彼女は俺の側にいた。
気が付けば、彼女は俺に微笑んでくれていた。
気が付けば、俺は彼女を好きになっていた。
彼女はいつも、俺の左手を握っていた。
いつも、手を繋いで笑っていた。
彼女の笑顔を見る事が幸せだと感じていた。
俺の空いた右手は、彼女の笑顔を守る為の物だと信じていた……
「ミチ! 誤解だ!」
「嫌だ! 来ないでーっ!!」
どうしてこうなった?
ほんの数分前の甘い記憶は、すべて幻想だったのか?
あの時確かに、2人の気持ちは融け合ってひとつになった。
彼女は俺の気持ちを受けとめてくれた!
俺は彼女の、ミチの事を、ずっと大切に想っていたはずだ。
いや違う!
俺は身勝手だ。
自分の欲望を優先させた。
あの日誓ったはずなのに、目先の愛欲に飲まれてしまった。
小1の時母親から、ミチは男の子だから結婚できないと諭された。
登校中に手を繋いでいたのを理由に、俺のいない所でミチに絡んで泣かせた奴がいた。
教室に入ってその光景を見た俺は、そいつの顔面に右こぶしをめり込ませてから我に返った。
夜、担任からの注意の電話を切った後で母は、
「殴った行為は悪いがミチを助けようとした事は良い」
と、褒めた。
そして、半分冗談まじりに言ったのだ。
「ほんと、あんた達は勿体無いわねえ。
見た目も性格もベストカップルなのに」
「じゃあいいじゃん」
「バカねえ、ミチちゃん男の子じゃないの」
「別に男だっていいよ、俺は!」
「何言ってんの、男同士は結婚できないのよ」
そして……
「法律でそう決まってんの!」
その言葉は半ばトラウマになった。
母はそう深く考えて言った訳ではないだろう。
俺もその一言を聞かなければ、聞いても深く受け止めなければ、違った生き方が出来たのかもしれない。
幼い日の淡い思い出として、胸の底の方にそっと仕舞い込んでいた事だろう。
俺の想いが叶うと、2人は犯罪者になってしまう。
思い悩んで、知恵熱を出すほど悩み抜いて、次の日病床で俺は決心する。
やはり俺の心はミチのものだ。
もう左手は、繋いで歩く為のものじゃなくなった。
でも右手は、ミチを守る為に使いたい。
これからも側で守っていたい。
たとえ友情としてでも、側にいられるならそれでいい。
でも……
もしも叶うなら、いつかは心で結ばれたい。
そう胸の奥底で願っていた。
だがそれは、けして表に出してはいけない。
ミチの隣に立ち続ける為に。
君の笑顔を守り続ける為に。
俺は友情を貫こう。
あの日そう心に誓ったのだった。
今回は平川視点で話が進みますので、初サブタイトルでした。
え~っと、「ひらかわみきおのいいのがれ」でしたっけ?
読んでいただいて、ありがとうございました。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




