表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
写ガール 〜神谷結衣の純愛恋写  作者: 瀬賀 王詞
16/32

第3章 2 ウチムラ・ショウヘイ

 灼熱の太陽が道路を照りつけ、車が通る度に反射して、光を踊らせた。冷房の効いた都内のホテルのロビーでは、大柄と小柄の外国人二人が握手を交わした。

「すみません、ボス。わざわざ……」小柄な外国人が言った。

「いいんだ、サイモン。マレーシアに所用があってな。そのついでだよ」

 サイモンはボスをラウンジに案内した。

「飲み物は何にします? ビール?」

「いや、今夜のゲイシャアソビを楽しみにしてるんでな。アイスコーヒーを頼むよ」

 サイモンは指を鳴らし、日本人ウエイターを呼んだ。

「考えてみたら日本は久ぶりだよ」ボスは言った。「ノモヒデオを見に来て以来だ」

「大分前ですね」サイモンは笑った。

「もう十年以上やってるからね、マイナーリーグのオーナー。スカウト時代、日本には一度来たっきりだ」

 ウエイターがアイスコーヒーを置いた。二人はシロップとミルクを注いだ。

「ところで、ボス」

「一流ホテルで『ボス』はやめてくれ、サイモン」

「オッケイ、ポール……」

 二人はストローを使わずにアイスコーヒーを一気に飲んだ。

「ノモヒデオを超える逸材がいたらしいな……」ポールは言った。

「イエス。ですが、右肘に打球を受けて再起不能の診断でした」

「再起不能なら、仕方ないだろう。また別を探せば。サイモンは敏腕スカウトじゃないか。俺に相談っていうのはなんだね?」

「3Aの専門医にレントゲン写真を見せたんです」

「だれの写真をだれに? サイモン、もう少しわかりやすく説明してくれ。俺はまだ昨日のドンペリが舌の上に残ってるんだぜ」

「ノモヒデオを超える逸材……この少年です」

 サイモンは一枚の写真をポールに手渡した。ポールはしげしげと写真を見る。

「なかなかのハンサムじゃないか。体もいい。名前は?」

「ウチムラ・ショウヘイ……」

「ウチムラ・ショウヘイ? 発音しづらいな」

「甲子園出場を決めるファイナルゲームで、相手チームの四番バッターにピッチャー返しを食らったんです。ボールはウチムラの利き腕、右肘を直撃。全治三ヶ月の複雑骨折でした」

「それをなぜ、3Aの医者なんかに見せたんだ?」

「ジョンっていう医者です。知り合いなんで、ちょっと、意見を聞きたいと思いまして」

「うちの専属医に見せればいいだろう」

「カールはDL入りしたロドリゲスにつきっきりで、手が空いてなかったんです」

「まあいいだろ。それで、その医者の見解は?」

「難しいが、可能性がないわけじゃ、ないと……」

 ポールは葉巻を取り出した。サイモンは、ジッポライターで火を付けた。

「サイモン……」ポールはゆっくり言った。「それで、お前の考えは……」

「ボス、この少年にかけてみたいんだ」

「治るかどうか、わからないのに? 治っても、投げられるかどうか……」

「わたしの勘では、六割……」

「自信、あるのか?」

 ポールは、サイモンの顔に煙を吐いた。

「ボスは、ウチムラのボールをまだ見てない」

「そうだな。見ないことには、なんとも言えないな……」

 サイモンは、アイフォンで撮したムービーを見せた。決勝戦、ウチムラが三連続奪三振を演じたシーン。

「ウチムラをアメリカで治療して、リハビリすれば、きっと復活する」サイモンは興奮気味に言った。「高校野球で活躍すれば、プロ野球に行かざるを得ない。その結果、メジャーに来るとしても歳をとってからだ。これはチャンスだよ、ボス……」

 ポールは葉巻も吸わずに画面を凝視した。葉巻の灰が床に落ちた。

「いいだろう、サイモン」ポールは言った。「お前に任せよう……」

「さすがだ、ボス!」サイモンは思わずパチンと手を打った。

「ウチムラ・ショウヘイか……会うのが楽しみだな」

 ポールは葉巻をくゆらせながら言った。

「ヘイ、サイモン。やっぱりビールを一杯もらおうか」

 サイモンは指を鳴らしてウエイターを呼ぶ。サイモンは、ビールを待つ間、ホテルの窓から空を見上げた。

「すごいサンダーヘッド(入道雲)だな。テネシーじゃあ、見られない……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ