第24話「奥様の従兄弟」
開けっ放しの窓から夜風が流れ込んでくる。額に氷嚢を当て寝台に横たわっていたチェルトは、赤く潤んだ目を開いた。
「あのチビ、よくもっ……見てろ僕が指輪を手に入れてヴァロア公爵になってやる、そうすれば……っヴァリエ、あのチビが指輪を持ってるんだよな!?」
「はい、間違いありません。あ奴の屋敷や会社も一応調べさせましたが、何も出てきませんでした。奴自身が指輪を持っている可能性が一番高いかと。自身が持っておらずとも、すぐ自分の手の届く場所にあるでしょう。でなければ怖くて眠ってもいられないでしょうしな。ここ二ヶ月、屋敷に寄りつかず転々としていたのがその証拠。居場所が掴めずにおりしたが、博覧祭は欠席できないしここに滞在せざるを得ない。就寝場所も簡単に分かります、アマレッティ様のお部屋です」
「んなっ」
もう一度ショックを受けたチェルトは、そのまま氷嚢を熱くなる目頭の上までずるりと落とす。
「そ、……そんな……」
「落ち込んでいる場合ではありません! これはチャンスです、坊ちゃましっかりなさって下さい!」
「そ、そうか。チャンスなんだな?」
「ええ、その通りで御座います」
ヴァリエが深く頷き、チェルトが氷嚢をどけた。
「じゃ……じゃあ僕は、明日、指輪を両方揃えるぞ!」
「おお! ではようやく私も指輪を拝めるのですね。感慨深いです」
「お前、六年前に見てるじゃないか」
「ええ。ですが私は、アマレッティ姫が輿入れされてチェルト坊ちゃまに教えて頂くまではあの指輪がヴァロア公爵の指輪だと知りませんでしたから。坊ちゃまに打ち明けて頂いた時は、チェルト坊ちゃまの先見性に私は感心しました……!」
「そうか、感心したのか!」
嬉しくてチェルトは氷嚢を持ち上げた。溶け出す水と混ざり合った湿りは、温くチェルトを癒してくれる。
「だったらヴァリエ、ちゃんと僕を守るんだぞ! あいつには怖い使用人達が付いてるんだろう?」
「その点についてはご安心下さい。指輪の奪い合いに使用人達は関わらないのがルール、坊ちゃまの指輪を奪いに使用人達が襲いかかってくることはありません。この点については既にオルレアンの叔父から直接情報を得ています。今のオルレアンはただの金に汚い子供、坊ちゃまが恐れる事はないのです。私もついております、負けはあり得ません」
「そ、そうか。ならいい、アマレッティにどっちが頭が良くて強くて格好いいか教えてやる」
がばりとチェルトは起き上がった。近衛らしく、チェルトの部屋の窓から外を警戒しているヴェリエに微笑む。
「有り難うな、ヴァリエ。一番賢いのはいつか使える指輪だと思ってヴァロア公爵の指輪を手に入れておいた僕だけど、アマレッティが輿入れした後は色々、よくやってくれた」
「そんな坊ちゃま、恐れ多い……! 私めを信頼して全て一任して下さったのです、当然のことをしたまで」
「僕がヴァロア公爵になったら怖い使用人達が僕の下僕になるけど、僕の一番の下僕はお前だからな!」
感涙したヴァリエがその場で跪き、頭を垂れる。すっかり調子を取り戻したチェルトは満足そうに仁王立ちして、明日を夢見るべくもう一度ベッドの中へと潜り込んだ。




