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プロローグ 第1章 第2章

プロローグ


「にゃー、にゃー。」

「どうしたの?お腹すいた?」


私は、買い物袋の中から、明日のお昼に食べようと思っていたツナ缶を取り出した。

最近毎日のように、仕事帰りの私を待ち伏せしている猫だ。

取り出したツナ缶を猫にあげた。

勢いよく食べ終わると、足もとに体を何度もすり寄せた。

私は抱き上げ、優しく撫でてあげた。

すると、猫は嬉しそうに、ゴロゴロとのどを鳴らした。

家へ、向かおうと歩き出すと、私の前を何度も横切り、邪魔をした。

いつもは途中で諦めるのに、今日はマンションのエントランスまで着いてきた。

流石に、エントランスの中までは入ってこなかったが、

エレベーターに乗り込む私の後ろ姿に向かって、ずっと泣いていた。

11月だというのに、とても冷える夜だった。



第1章  出会


 春の日差しが暖かく、気持のよい休日。

私の仕事はサービス業のため、お休みは平日だった。


一人で、ぶらっと出かけた。

藤沢から鎌倉までのローカル電車で、窓から見えるのどかな景色を眺めていた。

車内はすいていて、空席もあったが、私は扉に寄りかかるように立っていた。



藤沢から乗って、江の島を過ぎた頃、一人の男の子が乗ってきた。

私の寄りかかっている扉に、向かい合った状態で立っていた。


私は外の景色に気を取られていた。

ふと、視線を感じその方に顔を向けると、前に立っていた男の子からのものだった。

目が合ってからも、彼は目をそらさなかった。

吸い込まれそうな綺麗な瞳で、真っ直ぐに見つめられていた。

私もそんな綺麗な瞳から、目をそらすことが出来なかった。



由比ヶ浜の駅に着き、扉が閉まる瞬間だった.....。

彼は私の手首を掴み電車を降りた。少しびっくりした。

でも、もし、彼がしていなかったら、きっと私が同じ事をしていただろう。


「あの、突然すみません。」


彼は掴んでいた私の手首を放した。

少し鼻声の彼の声は、私の耳にとても心地よい声だった。


「ううん。」


私は首を横に振り、少しよそいきの声で答えた。

明らかに年下である彼に、少しでも若く見られたかったからだ。



その後、私たちは、どちらからともなく歩きだした。

どちらがリードするでもなく、声を掛け合うでもなく、

まるで前もって行く先を決めていたかのように...。



たどり着いたのは、海辺のホテル。

窓からは、湘南の海が見渡せた。



窓際に立っていた私を、後ろから優しく抱き寄せた。

180センチ近くある彼は、小柄な私を包み込むような感じだった。

そして少し震えていた。


私は胸がキュンっと苦しくなった。

何年ぶりだろう....こんなトキメキ感。


彼は、後ろ向きの私をそっと向き合わせ、少し震えながら唇を重ねた。

私たちは、お互いが求めあい、何度も愛し合った。




「お腹すいたよね?」

彼の声を聞くのは、これが二回目。


「そうだね...」

私もこの言葉が二回目。


「近くにコンビニあったから、何か買ってくるよ。」

そう言って、彼は買い物に出て行った。



私はバスルームに移動し、浴槽にお湯を溜める準備をしていた。

すごい勢いで部屋のドアが開く音がした。

何? 誰?

思った瞬間バスルームのドアが開いた。


そこには、慌てた彼の姿。


「どうしたの?」

私は驚いて聞いた。


「買い物に行ってる間に居なくなってたらどうしよう。って思って...

慌てて帰ってきた。そしたら、本当に部屋に居ないから。

凄い焦って...。」


そう言うと抱きついてきた。


超かわいい。もともと年下好きの私には、たまらなかった。

母性本能がくすぐられた。


「どこも行かないよ。勝手に消えたりしないから。

何買ってきてくれたの?

向こう行って早く食べよう。」

私は、まるで子供をあやすように、彼の頭を撫でながら言った。



私たちは、彼が買ってきてくれたサンドウィッチを食べながら、話をした。

そう、お互いのことを何も知らない。名前すらも。


「私は、柏木歩亜かしわぎ ふあ27歳。」

あっ、少しさば読めばよかったかな...。

年齢を聞いて驚かれると思った。

しかし、彼は特に驚いた様子もなかった。


「僕は、青山智久あおやま ともひさ17歳、高3.」


「えっ、じゅっ、17歳?高3?」


私は、動揺を隠せなかった。

いくら年下好きとはいえ、十歳も離れているうえ、まだ高校生だとは。


「年下は駄目?」

智は、膝枕を求めながら私に問いかけた。


「駄目じゃないけど.....犯罪に近くない?」

「良かったぁ、駄目じゃないんだ。

犯罪じゃないよ、だって合意のうえだもん。」


私の膝の上で無邪気に笑っている智を見ていると、

本当に何も問題のない事のような気がしてきた。




中性的な智のルックスは、私のど真ん中だった。

そしてまだ経験の浅いキスも、ぎこちない中に優しさがあり、幸せな気分になった。



日もすっかり暮れていた。


「そろそろ帰らないと。明日は、学校でしょう?

休んじゃ駄目だよ。」


「嫌だ。まだ一緒にいたいよ。歩亜と一緒に入れるなら、学校なんて休んでいいよ。」

智は、さっきまでとは違い強い力で、歩亜を押し倒した。

手首を強く掴み、押さえつけた。


「ガキ扱いすんなよ。」


ドキっとした。男の表情だった。


「わかった。じゃあ、明日早起きして帰ろう。今日はずっと一緒にいよう。」

智の生活を崩したくなかった。

一時の感情に流されることは、後に後悔するから。

でも、若い智には、まだ理解できないことだった。



窓から見える水平線から、朝日が昇りだしていた。


智は、うとうとしながらも、一晩中歩亜の寝顔を見つめていた。

智自身、何故こんなにも、会ったばかりの歩亜に魅かれているのか

わからなかった。


ルックスも良く、明るく楽しい性格の智は、いわゆるイケメン。

当然モテた。

しかし、付き合うまでの気持ちになる子は現れずにいた。

歩亜への気持ちは今までに感じたことがない感情だった。

愛おしく、どこか懐かしかった。



歩亜が目を覚ますと、やさしく見守るような智が傍にいた。


「おはよう。」


そう言って、頬にキスをした。




二人はチェックアウトし、駅までの道、

智は、ふと不安にかられ、


「必ず連絡するから、また、会ってくれるよね。

学校もちゃんと行くから、約束する。」


智は、昨日の夜、歩亜が何を言いたかったのか、

少しは理解していた。



智は鎌倉方面へ、歩亜は藤沢方面へ、別々の電車に乗って二人は別れた。


帰りの電車の中、智は歩亜にメールを送った。

すぐに、返信があった。

しかし、見るとエラーメッセージだった。

間違えてアドレスを入力してしまった.....

智は、歩亜に連絡を取る術を無くした。

あとは、歩亜から連絡を待つしかなかった。



一方帰りの電車の中で歩亜は、アドレス変更の設定を行っていた。

そして、智のアドレスを消去してしまった。

このまま何度か、連絡を取ったり、会ったりすると、

本気になってしまうのが分かったからだ。

智の、一番楽しく大切な高校生活を、

自分のような三十路手前の女に、費やしてほしくなかった。

自分は、智には不釣り合いだと感じていた。


歩亜は、この出来事を、封印した。





第2章  再会


「あー明日、由比ヶ浜行くの気が重い.....」


「そんなこと言わないでよ。

確かに乗換やら、この時期は、観光客で混んでるけどさぁ。

前はよく行ってたじゃん。

そう言えば、何で最近行かなくなったの?」


「実は......」



歩亜の友人、優奈に買い物を頼まれた。

私はあの出来事以来、湘南方面には行かなくなった。

優奈に、あの日の智との出来事を全て話した。


「えーっ、おかしくない?

何で、歩亜が決めるの?

彼が決めることじゃない?」


優奈は、いつもスパっと物事を指摘してくれる。


「その子が、自分の高校生活、三十路前の女に費やすのは嫌だ。

って言うのなら仕方ないけど.....

何も言われてないし、第一まだ何も始ってもいないじゃん。

歩亜と過ごすことが、彼にとってプラスかもしれないし。」



優奈の言葉が、胸に突き刺さった。

私は、智にひどい事をした。

改めて思った。

智のためと言いながら、実は自分がのめり込んでしまい、

別れが来るのが怖かったのだ.....

自分が傷つくのが怖かったのだ.....


「でも、もう今更だし.....半年も経っているから、智も忘れているよ。

どっちにしても連絡も取れないし.....」


そう、半年も前の事。実際自分も優奈に話さなければ、

忘れかけていた。


私は、気が重いながらも、次の日、由比ヶ浜へ向かった。




鎌倉駅で乗り換え、別のホームへ向かう途中だった。


「ねぇ、今の子超かっこ良くない?」

「やっぱり?私も思った!

何であんな所で働いているのかな。もったいなぁい。」


女子高生の黄色い声。本当に若い子の声は、コロコロ、転がるような声だ。

どんな内容でも、楽しげに聞こえる。

私は思わず、すれ違いざまにニコッとしてしまった。


売店に立ち寄りガムを買った。


「百五円です。」


聞き覚えのある声。


ふと顔を上げると、智の笑顔があった。


「......!」


心臓が止まるかと思った。

というのはこういう事か。

私は、お金を置きガムを奪い取るように立ち去った。


「歩亜!」


周りの人たちが振り返るぐらいの大きな声だった。

でも、聞こえないふりをした。


「待って....」


智は、売店から飛び出し、私の腕を掴んだ。


「人違いです。」


私は手を振り払おうとした。

その瞬間、後ろからしっかりと抱き寄せられた。

強くでも包み込むように優しく.....。

そして、少し震えていた。

初めて抱きしめられたあの時のように。


「やっと見つけた。ごめんね.....」


「えっ?」


謝らなければならないのは私。

何で智が謝るの?

聞くより先に、智が口を開いた。


「俺、間違えて歩亜のアドレス登録してたみたい。

絶対メールするって言ってて、しなかったから

歩亜怒ってると思って。」


ふと気付くと、周りの人からの視線が痛かった。


「ちょっ、恥ずかしいんだけど.....」


「あっ、そっ、そうだよね。」

智はようやく周りの反応に気付いた。


「こっち来て。」

智は、私の手をひっぱり、売店の裏の方へ連れて行った。


「もうすぐ交代の奴が来るから、そしたら上がりだから、ここで待ってて。」

ロッカーが並び、机と椅子が無造作に置かれた休憩室で、智を待った。



10分位だろうか、私には凄く長く感じた。


ドアが開く。

智かと思っていたら、男の子が入ってきた。

智が言っていた交代の子だ。和樹だ。


「あっ、あの.....わたし.....。」

戸惑っている私に、


「こんにちわ。」

和樹はニコッと笑って挨拶した。

智より少し年上かな?


「やっと見つかったんですね。」

着ていた上着を脱ぎながら、和樹は話し始めた。
















































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