第八十四章「消失」
「離せって!」
「ふんっ、ここまで来たら道連れだ!」
手すりに掴まって落ちないように堪えているひろとの足に絡み付いている
ロープに掴まっている大牙。
なぜこのような状況になったのか。
それは少し前の出来事。
「僕としては、君がそこに落ちれば全てが解決するんだけど」
「ほう、お前が落ちた方が早いぞ?」
「そこからじゃ手も足も出ないのに偉そうだねえ」
二人の間の足場が崩れてしまったため、大牙はひろとの元へ行けない。
ひろとは靴があるので行けないことはないが、行く気はない。
二人が口喧嘩をしている時、時雨の悲鳴が響いた。
「時雨君!?」
ひろとが下を見た瞬間、足を取られる。
「うわっ」
足を引かれたひろとは穴に落ちかけたが、なんとかてすりに掴まり耐えた。
大牙はひろとを落とそうとロープを引く。
「落ちろ!」
「お前が落ちろ!」
ひろとは足に絡み付いたロープを思いっきり引っ張る。
すると、大牙はバランスを崩し落ちた。
それで今に至る。
てすりに掴まるひろとは限界が近付いていた。
ロープは特殊なものなのか切れない。
「いっそ撃ち殺してやろうか」
「ははは!死なないと言っただろう!」
「ことごとく面倒だな・・・」
なんとか登ろうと努力はするが、ひろとは力が強いわけではない。
ましてや、大人二人分の体重を持ち上げるのは無理があった。
その頃、下ではことが終わっていた。
その状況に気付いた時雨は急いで上へと向かう。
ひょいっと二階に乗ると、ひろとに手を伸ばす。
「先生!」
「・・・っ!」
あと少しという所でひろとの手がてすりを離れた。
時雨は身を乗り出してひろとの腕を掴む。
「先生・・・!」
「無理だ!君も落ちる!」
時雨は片腕で掴んでいたが、今にも落ちてしまいそうだった。
離しそうにない時雨をみてひろとはナイフを創り出す。
「ごめんね」
ナイフを時雨の腕に突き刺す。
だが、時雨は手を離さない。
「馬鹿じゃねえの!?痛えだろうが!」
「馬鹿は君でしょ!?離せって言ってるの分かんないかな!?」
「離せるわけないだろ・・・!」
時雨は片足を手すりに引っ掛けて堪える。
無理だと分かっていても諦められない。
そんな時雨の性格を分かっているひろとは息を吸い込む。
「ヒロト!!」
「りょうかーい」
影のヒロトはするりとひろとに入り込む。
「大丈夫、死なないから」
ひろとは時雨の手を無理やり振り払うと下へと落ちて行く。
「先生!!」
「また会おう!」
それだけ言い残すと二人は闇に消えていった。
「またって・・・」
残された時雨は呆然と穴を見下ろした。




