第八十章「大広間へ」
神矢と別れた時雨は大広間へ向かって走っていた。
一本道なので迷う事はない。
だが、時雨はふと扉の前で立ち止まる。
「・・・?」
その扉の奥から微かな信号を感じる。
意味が読み取れないほど微かな反応。
気になった時雨は扉を少し開けて中を覗いてみた。
「ここは、睡眠ガスが出ていないのか」
安全を確認して中へ入る。
資料やよく分からない機材が積まれている何もない部屋。
しかし、先ほどの信号は奥へ行くほど強くなる。
ある程度進むと、カーテンが奥のものを遮っていた。
そのカーテンを勢いよく開く。
「これは・・・、P2、か?」
カーテンの先にはホルマリン漬けにされているP2がいた。
信号を送っていたのはどうやらそのP2らしい。
「意識があるのか?」
時雨はP2に話しかける。
時雨のことを認識したP2は悲しそうに手を伸ばした。
だが、ガラスがあるので時雨に触れる事はできない。
「信号を送ってたのはお前なのか?」
時雨が聞くと、P2は口を開いた。
「・・・て・・・」
「え?」
「ころして・・・」
P2は何度もそう時雨に頼んむ。
「ころして・・・ころして・・・!」
時雨は辛そうなP2を放っておけず、銃を作り出した。
それを見たP2は黙って時雨を見る。
時雨はP2に銃口を向けた。
「・・・なんでだろうな、こんなに殺しずらいのは」
引き金に手をかけてから数秒時雨は悩んでいた。
だが、黙ってこちらを見るP2が可哀想になり悩むことをやめる。
「じゃあな」
「・・・ありがとう・・・」
銃を撃ち込むと、P2は嬉しそうに消えた。
割れたガラスから漏れるホルマリンを暫く眺めて時雨はその部屋を出る。
そのP2はひろとが作った最後の影であり、唯一の成功作であった。
部屋を出た時雨は大広間へと走る。
その部屋から大広間まで大した距離はなく、すぐに着いた。
時を同じくして弘崎も大広間へ着く。
「ここか?」
「彼奴、どこに行ったんだろう」
二人の目が合う。
数秒空白の時間が流れたが弘崎がすぐに時雨のことを思い出して駆け寄る。
「神矢さんは!?」
まだ弘崎の事を思い出せていない時雨は戸惑いながら状況を説明した。
それを聞いた弘崎も自分の状況を説明する。
「なんだ、逃げ出せてたのか」
「でも、大牙は何か企んでる。君は早く逃げるべきだ」
「ここまで来て逃げるわけないだろ、逃げるとしても先生と一緒に逃げる」
「その先生は君に来てほしくなかったみたいだけど」
弘崎の言葉に時雨は「だろうな」と言った。
あの人が自分から助けて欲しいなんて言わないことくらい分かっている。
時雨は自分が好きで助けに来ているのだ。
「そんな事より、その大牙とかいう奴は何処にいるんだ」
「いるとしたらここだと思うけど・・・」
話している弘崎の背後にどこからか湧いたP2がいた。
「危ない!」
気付いた時雨は銃を作り弘崎を突き飛ばした。
そしてP2を排除する。
「あ、ありがとう・・・」
「どうやらここで間違いないみたいだな」
二人の周りには大量のP2がいた。
弘崎は立ち上がって槍を構える。
「これは骨が折れそうだ」
「君、名前なんて言ったっけ」
「ああ?名前なんてどうでもいいだろ、どうせ今日限りの協力者だ」
「はは、君昔の友達に似てるよ」
そんな二人を見ていた大牙が二人に話しかける。
「随分と余裕そうじゃないか」
大牙の存在に気付いた二人はそちらを見る。
「彼奴が大牙か?」
「そうだよ」
「お前たちは必要ない、消えてしまえ」
大牙がそう言うと、P2が一斉に二人に襲いかかった




