第七章「教え子」
お昼が過ぎ、客足も減ってきた。
カウンターに寝ているヒロトを撫でながら、うとうとしていると店の扉が開いた。
俺は眠さに耐えて立ち上がり、扉の方を見た。
そこには、気弱そうな青年が立っていた。
「いらっしゃいませ」
「店主は、いるかな」
男の人は店内を見回しながらそう言った。
今、先生は紅茶が切れたと言って買いに行ってしまったため、ここには俺とヒロトしかいない。
先生と知り合いなのだろうか。
「今は席を外してます」
「そっか、少し待っててもいいかな」
「良いですよ」
男の人がカウンターに腰掛けたので、俺は残っていた少しの紅茶をだした。
「ありがとう」
「せ・・・、マスターの知り合いですか」
紅茶を飲みながら、男の人はヒロトを撫でた。
「知り合い、といえば知り合いかな」
少し寂しそうにそう言った。
仲良しって事ではないみたいだ。
そんな気まづい雰囲気が数十分流れたところで、先生が帰ってきた。
「時雨君店番ありがとう、あれ?お客さん?」
先生は袋を置いて、エプロンを着けた。
いつもと同じように笑顔で振る舞っている。
知り合いという感じではないみたいだが。
「ヒロトさん、お久しぶりです」
男の人が言うと、先生は首を傾げた。
「君なんて知らないけど?」
「覚えてませんか?俺ですよ、神矢です」
「知らないね」
先生は思い出そうとする素振りさえ見せずに冷たく言い放った。
「君のことなんて知らない。人違いじゃないかな」
「そんな事ありません!俺は貴方のおかげで・・・」
男の人が何か言いかけた所で、先生が勢いよく机を叩いた。
それに驚いたヒロトは店の端の方まで走り、毛を逆立てていた。
「・・・分かりました」
男の人は立ち上がり、店を出た。
「先生、今の人は?」
「聞きたい?」
「聞きたい」
明らかに話したくない顔をしていたので余計に聞きたくなった。
先程の男性の口ぶりからすると先生は良い事をしたみたいだったが
何が気に入らなかったのだろうか。
「彼は、特殊部隊に所属しているんだ。
まぁ、彼に非があるわけじゃないんだけどね」
「なら、どうしてあんなに怒ってたんだ」
「彼の両親は部隊の幹部。エリートだ。
でも、彼には才能が無くて、親にずいぶん疎まれてたらしくてね。
それで、僕が特訓してあげたって訳」
成る程、親からしたら目の上のたんこぶみたいな存在だったんだな。
親が凄いと子供の期待もでかいって言うからな。
「それで?」
「まぁ、なんとか彼は部隊に入れた訳なんだけど、少し問題があってね。
彼が親に僕の事を話してしまったんだ」
何が問題なのだろうか。
「考えてもみてよ、自分達や凄腕の先生が教えても全く成長できなかったのに、
身元も分からないような人間に教わって出来るようになってるだなんて、
君ならどう思う?」
「俺なら・・・、仲間にするかな」
「まぁ、そうなんだけど、前にも言ったように僕は彼らと仲が悪くてね。
少し厄介な事になっているんだ」
嫌いな奴に手柄を取られたような気分だろうか。
という事は、彼は本当にとばっちりで先生に嫌われているだけなのか。
可哀想に。
「それにしても、どんな教え方をしたんだ?
エリートが教えてもダメだったんだろ?」
最下位だったのに。
「ん、んー。うん。まぁ、ね」
嫌な濁し方するなぁ。
「ま、いいか」
「少し話しすぎたね。今日は授業はお休みにしようか」
「まだ二回しかやってないのに」
「いいのいいの、それに、問題続きで全然教えてあげれなかったから
明日からみっちりやろうね」
何だか嫌な予感がするのは俺だけだろうか。




