第七十八章「矯正」
弘崎とひろとは大牙を探して走り回っていた。
「あまりにも人がいなさ過ぎる気が・・・」
「どうせ使えない人材は出してこないよ。面倒な事をするなあ」
残っている人物が大体想像できたひろとは嫌な予感を拭いきれないでいる。
それと同時に、三つの気配が分裂した事にも不安を感じていた。
「随分と広い施設だね。いつの間にこんなの作ってたんだか」
「そういえば、あの日誌を書いたのって・・・」
「日誌?」
弘崎が見つけた日誌の事を話すとひろとはあぁ、と感嘆の声を漏らした。
「僕の日誌だ。燃え尽きてなかったんだね」
弘崎は嬉しそうに「やっぱり!」と言った。
P2の名付け親を探す。
それが弘崎の最初の目的だった。
「じゃあP2を作ったのは貴方なんですね」
「うーん、間違いじゃないよ」
敢えてはっきりとは答えなかった。
全ての責任が自分にあるように感じるからだ。
「何の為に作ったんですか?」
弘崎の問に一瞬詰まったが、ひろとは正直に答えた。
「頼まれたんだ。影を作ってくれってね」
「頼まれたって・・・」
「ほら、そいつに」
そう言ってヒロトを指差した。
弘崎は首をかしげる。
「猫?」
「はは、さっき鍵を開けてくれたのだって彼だよ」
「え?」
疑問が増えるばかりの弘崎を見てヒロトは人型に姿を変えた。
それを見た弘崎は驚きのあまり言葉を失う。
「まあ学校じゃ教えてくれないからね」
「か、影って・・・」
学校で教わる影という存在は人を襲う古い妖怪のようなもの。
だが、今目の前に立つ影はイメージと随分かけ離れていた。
「そんなに驚く?」
ヒロトは弘崎を覗き込む。
目はない。
口はにっこりと笑っている。
「実在したんだ・・・」
「そりゃあね、まあ数は少ないけど」
ふざけたように言うヒロトを見て弘崎は安心した。
怖がるものでもない。
弘崎は手を差し出した。
「さっきはありがとうございます」
ヒロトはその手を握り返してどういたしましてと言った。
「さて、挨拶もその辺にして早く彼奴を探し出そうか」
そういって三人が歩き出そうとしたところに道を塞ぐものが現れた。
その二人を見てひろとは顔を顰める。
弘崎も嫌な顔をした。
「随分とお急ぎのようだね」
「俺たちが道案内をしてやろうか」
そういって笑う夕先と飛烏。
ひろとはいつもの笑顔に戻り、ヒロトに目配せした。
その意味を悟ったヒロトは弘崎の手を引く。
「行こう」
「え、一人残していくんですか?」
「親友水入らずで話があるみたいだからね」
弘崎を引きずりヒロトが去った後、残された三人は笑顔で向き合う。
沈黙を破ったのはひろとだった。
「久しぶりだね!随分と元気そうじゃないか」
「ひろとも元気そうだね」
「会いたかったぜ?」
その言葉に嘘はない。
だが、親友としての意味ではないだろう。
「ねえ、覚えてる?」
ひろとはジャケットを脱ぎネクタイを手に巻きつけた。
「道をそれたら、僕が矯正するって言ったよね」
三人は不敵な笑みを浮かべた。




