第七十七章「親子の戦い」
不思議と恐怖はなかった。
いつもより落ち着いているくらいだ。
神矢は武器を構えながら目の前にいる親を見た。
敵としてではなく親として見ている。
対する親の方も息子として神矢を見ていた。
二人の間には殺意とか敵意とか、そういったものは無い。
親は親として、子は子として向き合っている。
「俺は、小さい頃からずっと貴方を見ていた。
だから分かるんです」
神矢は少し悲しい顔をする。
「貴方は何も変わっていない。貴方は操られてなんかいない!」
総監督は眉をひそめて神矢を睨んだ。
神矢の言葉は正しい。
大牙によって研究機関の人間が操られていく中、彼はそれを免れていた。
「何故、助けてくれなかったんですか?
ひろとさんの事だって知っていたんですよね?」
総監督は無言を貫いた。
神矢は諦めて武器を構え直す。
総監督も武器を創り出した。
戟の切っ先が神矢を捉える。
「俺は、勝ちます」
「そうか」
その言葉を皮切りに神矢が動き出す。
リボルバー銃を相手に向けて続けて三発。
すべて避けたところにもう一発。
相手の攻撃を避けて一発。
そこでリロードの素振りを見せる。
それを待っていたかのように総監督は大きく踏み込み
戟を神矢に向けて振りかざす。
戟は神矢の頬を擦った。
「随分と適当な戦い方だ。それも彼奴に教えてもらったのか」
彼奴とはひろとのことを指していた。
神矢は答えない。
「まあいい。所詮お前はその程度なんだ。勝てはしない」
「それはどうかな」
神矢はもう一度五発、弾を撃ち込んだ。
そしてまた、リロードの素振りを見せる。
「何も学習してないな!」
総監督は弾切れを見計らって攻撃を加えた。
だが、神矢はリロードをせず、攻撃を避けて
もう弾の入っていないはずの銃で足を撃ち抜いた。
「なっ・・・!」
総監督はその場に膝をつく。
「はは、成長したじゃないか。直接装填するとは・・・」
神矢は武器をしまい、親を見る。
足を撃ち抜いただけだが、もう負けを認めたらしい。
「俺は創るのが苦手だから、弾を直接装填することはできません。
元からこの銃の装填数が六発だっただけです。
俺の、作戦勝ちです」
神矢の言葉に総監督は乾いた笑いを零す。
「そうか・・・、こりゃやられたもんだな・・・」
どこか嬉しそうな親に神矢は先程と同じ疑問を投げかける。
「どうして、助けてくれなかったんですか?」
今度は隠さずに話しだす。
「助けなかったわけじゃない。危害が及ばないようにするのが精一杯だった。
お前が何も知らず、何も関わらずに生きていけるよう」
大牙が弘崎を捕まえた時、彼は助けるため牢屋へと連れて行った。
そして今回も、ひろとを大牙に連れていく前にわざと牢屋へと入れた。
そうすれば自分で逃げ出してくれると信じていたからだ。
彼の思惑どおり弘崎とひろとは逃げ出したが、何故か彼らは施設を離れず
機関を潰そうと動き出した。
そして、一番巻き込みたくなかった息子までもが戻ってきてしまい
彼はどうしていいかわからなくなっていたのだ。
せめて息子だけでも助けようとタイミングを見計らっていて今に至る。
「でも、隠せないもんだな・・・」
「貴方の息子ですから」
「成長してくれて嬉しいよ・・・」
神矢は親に駆け寄り手当てをする。
重症ではないが、血が出ていた。
「さっきのは、誰なんだ?」
「ひろとさんの教え子です」
「あの引きこもり君も成長したんだなあ・・・
歳を取ると追い越されてばかりだ」
しみじみと言う父の姿を見て神矢は今まであれ程までに遠く感じていた
親の存在がこんなにも近く小さい存在なのかと痛感した。
「これが終わったら、またゆっくり話しましょう。
親子として、言いたい事が山ほどあるんです」
「ああ、俺もだ。今はあの子を助けてあげなさい。
お前はもう立派な大人なんだから」
神矢は頷いて走って行った。
それから暫くして狐が総監督を見つけた。
「おや、見覚えのあるじじいがいる」
「見覚えのあるお面の子だな」
二人は研究機関にいた時、一度だけ会っていた。
「親子対決と言ったところか」
「そんなところだ」
「肩を貸そうか?」
「いいや、大丈夫だ。大した怪我じゃない」
そう言うと総監督は自力で立ち上がり狐を見た。
「付いてきてくれ、手伝って欲しい事がある」
狐は頷いて総監督の後に続いた。




