表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺と先生のフリースクール  作者: 影峰 柚李
過去編
66/87

第六十五章「雨は嫌い」

一人で住宅街の方を歩いていた。

街と住宅街がなぜ別になっているのか、その理由は知らない。

僕が生まれるずっと前からここはこの状態だった。

今度ヒロトにでも聞いてみようかな。

「静かだ・・・」

街はあんなにも騒々しいというのに、住宅街は子供の遊ぶ声も聞こえない。

買い物帰りの主婦や学校帰りの学生とすれ違う事はあるが

街に比べたらあまりにも静かすぎる。

雲行きが怪しい。

今日は雨だろうか。

「帰ろうかな」

雨具を持ってきていないから、今降られては困る。

踵を返して街へと向かう。

マフラーに顔を埋めて早足で歩いていると、子供の歌う声が聞こえてきた。

「むーすんーでひーらいーててをうって、うたいましょー」

声のする方向を見ると、空き地の隅で女の子が手遊びをしていた。

一人でいるのが気になって声をかけた。

「何をしてるの?」

「お友達が帰っちゃったから、一人で遊んでるの」

「雨が降るよ、早く帰ったほうが良い」

「でも、お家に帰っても誰もいないから、まだ帰んない」

共働きか、あるいはどちらかは死んでしまっているか。

色々と事情がある家庭ではあるようだ。

「一人で寂しくないの?」

「慣れっこだもん」

僕も小さい頃に両親を亡くしたが、ヒロトのお陰で寂しくはなかった。

でもこの子は、本当に一人なんだ。

もう少し時間が経てば、親が帰ってきて彼女を迎えてくれる。

僕にできる事は、この一人の時間を共に過ごしてあげる事くらいだろうか。

「お兄さんが一緒に遊んであげるよ」

「本当に?」

「うん、君、名前は?」

「私ね、千紘ちひろっていうの!」

千紘ちゃんは笑顔で言った。

可愛い子じゃないか。

「千紘ちゃんは何で遊ぶのが好きなのかな」

「ボールで遊ぶのが好きだけど、今ボールないの」

見た限り、遊び道具は何もないようだ。

僕はボールを作り出して千紘ちゃんに渡した。

「はい、これを使って」

「あれ?お兄さんどこからボール出したの?」

「あはは、どこからだろうね」

千紘ちゃんは不思議そうにボールを受け取った。

「私ね、手毬唄得意なの」

「へぇ、見たいなぁ」

「見てて!」

千紘ちゃんはボールをつきながら歌う。

時々ボールを足の下に通しているけれど、手毬唄ってそういう遊びだっけ。

手毬唄というものをよく知らないのであまり言えない。

「それを木の葉でちょいと被せ!」

そこで終わりだったらしい。

「上手だね」

「えへへ、凄い練習したんだよ」

「うん、偉いね」

頭を撫でてあげる。

その時、ぽつり、ぽつりと雨が降り出した。

「ああ、降ってきちゃったね。送ってあげるよ」

「もう帰らなきゃ行けないの?」

「濡れたら風邪を引いちゃうからね」

「私の家ね、こっち!」

千紘ちゃんが走り出したので後を追う。

「あまり走ると危ないよ」

「きゃっ」

と言ったそばから千紘ちゃんは転んでしまった。

急いで駆け寄ろうとしたが、様子がおかしいことに気付いた。

「だいじょう・・・ぶ・・・?」

「お兄さん!助けて!!」

千紘ちゃんは勢いよく引き摺られて宙へ体を投げ出された。

「千紘ちゃん!!」

彼女の足を掴んでいるものは、大きな口を開けた。

影だ。

彼女を食べるつもりなのだ。

「させるか!」

僕は相手に近づいて蹴りを入れる。

そして相手が怯んだ瞬間に彼女を奪い取る。

「千紘ちゃん!」

「私・・・、今何かに・・・」

混乱している彼女を抱きしめて影を見る。

彼女にあれは見えていない。

どうにかしてこの子を逃せないだろうか。

「お兄さん・・・?」

「千紘ちゃん、下がって、そのまま動かないで」

千紘ちゃんを後ろに下げて、僕は影に向かった。

雨が強くなってきて、視界が少し悪いが多分やれるだろう。

銃を作り出して影に向けた。

影は銃弾を避け、手の先端を尖らせると僕に向けて殴りかかってくる。

「いっ・・・!」

軽く頬を掠り、血が滲む。

足場が悪い。

「うっ」

急に胸が苦しくなり咳き込むと、血が吹き出した。

「やばっ・・・、薬飲み忘れてたかも・・・」

あまり時間は無いようだ。

影の追撃を避けながら反撃をする。

視界が霞んでよく見えない。

影の攻撃を避けた時、足を滑らせて転んでしまった。

もはや満身創痍だ。

「お兄さん、大丈夫?」

千紘ちゃんが心配して駆け寄って来てしまった。

「千紘ちゃん逃げっ!!」

その時、僕の思考は止まった。

自分のものではない血が顔に付き目の前にいたはずの女の子が消えている。

「え・・・?」

咀嚼の音が聴こえる。

全てが終わった後で、思考が動き出した。

「あ・・・あああぁぁああぁ!」

悲しみより先に怒りが来た。

体の痛みなんて忘れて影に近づいて、蹴った。

そこに銃弾を撃ち込み、また蹴る。

それを繰り返していたら、いつの間にか影は消えていた。

雨の中、呆然と立ち尽くす。

「ゲホッ、ガハッ」

口から血が出る。

なんだかもう、全てがどうでもいい。

その場に倒れ込み、意識を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ