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俺と先生のフリースクール  作者: 影峰 柚李
過去編
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第六十四章「生きる理由」

猫に薬を打つと、猫の色は黒く染まっていき

猫の姿になっている時のヒロトのようになった。

だが、形を保っていたものは溶けて液体になってしまい

後にはドロッとした液体のような物だけが残った。

「失敗、かな」

「いや、よく見てご覧」

ヒロトの指差す方を見ると、液体がうごめいていていた。

「まだ生まれたばかりだから歩き方を知らないんだ。

次作る時は君の血液も入れてみたら良いんじゃない?

きっと人間らしいものができるよ」

人間らしいとは何だろう。

話して、歩いて、自我を持っている。

じゃあ、その自我を持ったものはなんと思うのだろう。

影として生まれて、何を思うのだろう。

「ヒロトは、影に生まれて今まで影として何を思って生きてきたの?」

「なにそれ?」

ヒロトは笑って、愚問だね。と言った。

「それなら君は今まで人間としてなにを思って生きてきたんだい?」

少し悩んだが、答えは出そうになかった。

「何もない、ただ生きてきた」

「そう、生きるものには本能というもがあって人も、影も、動物も全部。

生まれた瞬間から、それだと認識した瞬間からそれはそれであるという

自覚を持って生きる。与えられた生を拒むものなんてないさ」

確かに、その通りかもしれない。

後悔や、苦しみはあっても人に生まれてこなければとはあまり思わない。

「まぁ、自分は誰かの役に立っている。生きている意味があるって思えれば

たいていの生物は生きていけるよ」

「じゃあ、もし生きる理由をなくして生まれたら?」

「さぁね、生きる理由なんて生きてるうちに見つけるものだよ」

僕が生きている理由。

それは何だろう。

今まで考えたこともなかった。

でも、今の生き方も嫌いじゃない。

「人生なんてノリで何とかなっちゃう時だってあるんだ。

深く考えるほどのものでもないよ」

「うん、そうする」

きっと、それが一番いいと思う。


「用事があるから暫くは戻ってこないけどちゃんと生きててね?」

「そんなに死にそうに見える?」

「君は、君が思っているより死神だよ」

「いや、思ったことないけど」

「冗談だよ」

それだけ言うと、ヒロトは行ってしまった。

どこに行くのだろう。

気にしても仕方がないので本を手に取り読む。

本を読み始めて随分と時間が経った頃、ノックが聞こえた。

「ひろと、いる?」

夕先の声だ。

「いるよ」

扉を開けて中に招き入れる。

「相変わらず汚いねー」

「物が多くてね、なにしに来たの?」

「そうそう、最近新しく研究施設作ってるって知ってた?」

「いや、初耳だけど」

言うと、やっぱり。と夕先は笑った。

「ほら、大牙っていたでしょ?彼奴が指揮してるらしいよ」

「大牙?誰だっけ」

「またまたぁ」

正直面倒なので彼絡みのことは関わりたくない。

「で、どこに作るの?」

「それが分からないんだよね、どこに作ってるんだろう」

意外と持っている情報は少なかったらしい。

それだけを言うためにわざわざ来たのだろうか。

「ひろとさ、あまり無理しちゃダメだよ。

僕もとび君もひろとの友達なんだから、いつでも頼っていいんだからね」

「ありがとう」

「そう言えばね、僕今度出世するんだあ」

「出世?そんな制度あったっけ」

「えへへ、教育係やるんだよ」

今で言う神矢さんポジションか。

出世というかは分からないけれど、凄いな。

「凄いじゃないか」

「ねえ、僕って怖いの?」

急に、トーンが落ちた。

怖いというのは外見の印象だろうか。

「見た目はいいけど、裏があるよね」

「やっぱり?なんか怖がられるんだよね」

「あはは、鬼教官って呼ばれるかもね」

「笑えないんだけど」

そう言いつつ顔は笑っている。

夕先は基本的には優しいから、嫌われる事はないと思うけどな。

本人は地味に気にしているらしい。

「応援してるよ」

「ありがと、ひろとも頑張ってね」

「うん」

大して重要な話があるわけでもなく、本当にただ雑談をしに来ただけのようだ。

「じゃあ、またね」

そう言って夕先は部屋を出て行った。

再び部屋に静寂が訪れる。

なんだか最近静かな時間が怖い。

「音楽をかけよう・・・」

静寂は孤独を引き立てる。

孤独は死を感じさせる。

どうすれば、この不安を拭えるのだろう。


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