第六十二章「一心同体」
小さい頃から本ばかり読んできたため、随分と博識になった。
夕先やとび君には歩く百科事典と言われたくらいだ。
そんな僕でも知らないような事を知っているのがヒロト。
彼が知らない事はないのではないだろうかと思う程なんでも知っている。
「まあ、長く生きてれば嫌でも知識がつくよ」
「何歳なの?」
「さぁ?少なくとも百年は生きてるよ。影は寿命が長いんだ」
意外とお年寄りだったらしい。
「そういえば、言い忘れてたことがあったんだった」
またこのパターンだ。
ヒロトは言うべき事を一回で言わない。
思い出すときはいつも一つずつなのだ。
「影にも血の繋がりみたいなものがあるんだよ。
リーダーである影は信頼した仲間に自分の一部を分けるんだ。
そして、仲間に何か問題が起きた時自分に取り込んで浄化する」
「ヒロトもリーダーなんでしょ?」
「僕は信頼なんてしてなかったし操る気も無かったから、誰にも分けてないよ」
「操る?」
「あぁ、そうだった。そう、リーダーはね、その仲間を操る事ができるんだ。
一時的に記憶を消したり、いわゆる洗脳って奴かな。
まぁ、そんなのは罪を犯した奴限定だったけどね」
影にも色々あるんだなあ。
きっとまだヒロトは僕に言わなければならない事があるのだろうけれど
当分は思い出してくれなさそうだ。
と思ったが、今日は調子が良いらしい。
「あ、あと、そのリーダーが死ぬと仲間も死ぬんだ。
その細胞を取り除いてしまえば別だけど、まさに一心同体って奴かな」
「へえ、良いのか悪いのか分からないシステムだね」
「その原理を使えば人を操れる薬とかも作れるんじゃない?」
「使い道なんてないと思うけど、考えておくよ」
どうせ暇だしね。
暇といえば、柊はどうしているだろう。
薬を貰いに会いに行ってはいるけれど彼はあそこから出ないし
いまいち生態が掴めないんだよなあ。
「ねぇ、嘉也君」
「君が僕の名前を呼ぶ時は大体嫌な事を言う時だ」
「まあ、間違ってはいないけど、君は今薬のおかげで生きていられる。
多分これから君がどんな怪我をしたとしても同じ方法で乗り越えられると思う。
だけど、それはただの延命に過ぎないって事を忘れないで欲しい」
要するに、とヒロトは続けた。
「無茶はしちゃダメだよって事ね」
「分かってるよ」
僕の体は既に死んでいると言っても良い。
無理をしようとは毛ほども思っていないけれど、それはあくまで願望だ。
人にはやらなくてはいけない時がある。
それにしても、影の一部ってなんなんだろう。
内臓的なものがあるのだろうか。
「君に死なれたら困るからね」
「はいはい、死ぬまで研究しますよ」
「うーん、それだけでもないんだけどね」
「どういう事?」
「まあいいよ。長生きしようね」
どう頑張っても僕は早死にする気がするけれど
後悔のある死に方だけはしたくないなあ。




