第六十一章「謎まみれ」
研究機関に入って二年。
今日は九月の二十日だ。
「・・・そういえば今日、誕生日だ」
ぼそっと呟くと隣にいた人物が反応した。
「え、ひろと今日誕生日なの?」
夕先が持っていた缶コーヒーを落としかけた。
とび君も一緒だが、彼は大して驚きもせず舌打ちをした。
「お前謎が多すぎるんだよ、正式に自己紹介しろっての」
「正式に自己紹介なんて言葉初めて聞いたよ」
確かに、彼らには名前も教えていない。
教えるつもりもない。
「じゃあさ、お祝いしよう」
「いや、いいよ・・・」
「たまには良いじゃねぇか。何歳になったんですかー?」
とび君が笑いながら言った。
同級生なのだから年齢は同じである。
「何か奢るよ」
「じゃあ紅茶で」
「えぇ、いつも飲んでるじゃん」
というか、現在進行形である。
「ひろとって好きなものもよく分からないし、不思議だよね。
もしかして人間じゃないのかも」
「安心して、僕は人間だから」
「あー、確かに宇宙人感あるよな」
「人間だから」
「切っても死ななそう」
「死ぬから」
「動物と会話してそう」
「それも出来ないから」
動物っぽい生物と知り合いではあるけれど。
僕のイメージって一体・・・?
「君達、何してるんだ」
その声に振り向くと、神矢さんがいた。
彼はこの研究機関の監督。
厳しいが、気さくで優しい人だ。
「おしゃべりです」
「別に仲良くする事は咎めないが、一応職場だって事を忘れるなよ」
「分かってますって。休憩ですよ」
「それと、君」
そう言って神矢さんは僕を見た。
「施設内で猫を飼わないでくれ」
「大丈夫ですよ、ちゃんとしつけしてるんで」
「そういう問題じゃない」
「大丈夫ですって、ああ見えて猫じゃないですから」
「尚更問題だ」
これは困った。
ヒロトに中に入るなとは言えない。
かと言って人の姿でいられるのも困る。
「分かりました、なんとかします」
「それは何もしない返事だな」
「えへへ、バレました?」
改善する気が一切ない僕の態度に神矢さんは溜息をついた。
「あまり部屋から出すなよ」
「勿論ですよ」
神矢さんは呆れたようにその場を去った。
「ひろとってこう、態度でかいよね」
「肝が座ってる。いや、自分の道を突っ走ってるって感じか」
「それは、褒められてないね」
「褒めてねぇからな」
見つかったのが神矢さんで良かった。
あの人は本当に良い人だ。




