第五十八章「心臓の穴」
影の認識が減ったせいか、一般人には影の存在が認識出来なくなっていた。
要するに僕たち能力者にしか彼奴らは見えないのだ。
ちなみにヒロトは一般の人にも見える。
やはり首領だっただけはあるのだなと思う。
一般人は常に見えない恐怖に晒されているという事だが、
それにすら気付いていない。
影はもうおとぎ話の存在になってしまっているのだ。
まぁ、影が活動するのは夜だからそんなには襲われないのだろうけれど。
だからそんなに心配はしていなかった。
油断とも言えるかもしれない。
「今は人型でも大丈夫なの?」
隣いるヒロトに聞く。
「うん、夕方だからあまり痛くない」
「へえ、そういうものなのかぁ」
痛かったんだ。
昼間でも猫の姿で隣を歩いているからあまり弱点だとは捉えていなかった。
「でもなんかひりひりするけどね、日焼けみたいな」
「じゃあ猫でいればいいのに」
「猫になりたいわけじゃないんだよ」
彼なりに思うところがあるらしい。
そんなくだらない話をしていると悲鳴が聞こえた。
「なんだ!?」
「彼処だ!」
ヒロトの指差す方を見ると女性が
隣で血まみれになっている人を見て固まっていた。
彼女には見えていないのだ、隣にいる影の存在が。
「ヒロト!助けないと!」
「うん」
ヒロトと僕は同時に走り出す。
まだ銃の形を覚えていなかったので持っていたリボルバー銃を取り出す。
ヒロトが女性を保護し、僕が影を倒す。
三発くらいだろうか、影に打ち込むと影は消えていった。
ヒロトは女性を保護してすぐに猫の姿になったらしく
女性は何が起きたのか分からないという顔をしている。
倒れていた人は既に死んでいた。
僕には何もできないので放置する。
「大丈夫ですか?」
女性に近づくと、女性は非常に怯えてしまった。
「な、なに、なんなの・・・!?」
「安心してください、僕は危険なものではありません。
貴方は今悪い夢を見たのです。忘れましょう」
「ゆ、ゆめ・・・?」
女性は何も分からないという顔のままその場を去った。
なんにしても、一人助けられたからいいかなと安心した。
その時、僕は背後から何かに貫かれた。
心臓のあたりを黒い何かが貫いている。
何も言えず、何も感じず、僕の意識は消えた。
暗かった視界が薄っすらと白くなってきた。
目を開けると見た事のある光景が目に入った。
体を起こそうとしたがだるさと痛みで立てない。
見渡しても人影はないが、一体どういう状況なんだろう。
ここは多分柊の家だ。
「ひいらぎ・・・!いないのか・・・!?」
かすれる声を絞り出して呼んでみると、物音と共に柊が現れた。
「お、本当に生きてやがった」
「なにが、おきた・・・」
「お前、一回死んだんだぞ」
頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
生き返るなんてそんな事できるわけない。
「起きたんだ!」
ヒロトがひょっこり顔を出す。
なんだか嬉しそうだ。
「聞いて!君の心臓が破れちゃったから僕の細胞でなんとかならないかな
って思って君に憑依してみたんだ。
そしたら不思議な事に君の細胞と一体化してさ」
「つまり・・・?」
「君の一部は影になったって事さ。でも定期的に影の成分を取らないと
蓋になっている細胞が取れて君大変な事になるからね」
随分と面倒な体になっちゃったなあ。
「俺が薬を作ってやろうか」
柊が笑顔で言った。
なんで嬉しそうなんだろう。
「いいね!便利」
「よし!任せろ。実は暇してたんだ」
暇だったんだ。
「無理はしちゃダメだよ。君は心臓破けてるんだから」
当分は寝たきり生活かな。
この不便さに気付くのは暫くしてからだった。




