第五十二章「はじまり」
両親は嫌いじゃなかった。
どちらかと言えば優しくて、子ども想いの良い親だ。
だが、尊敬するにはあまりにも短い期間で彼らは死んでしまった。
何も無い、普通の日。
学校から帰ってきて両親に会いに行った時。
僕の目の前で、彼らは食べられた。
まだ九歳の子供にその光景は少し刺激が強いものだが
悲鳴をあげる事も、目をそらす事も、逃げる事も出来ず
その捕食者を見ていた。
目が合った瞬間だけ思考と本能が働いて恐怖が湧いたが
その時にはもう、僕は食べられようとしていた。
だが、僕は食べられる事はなく捕食者は消えた。
「親友だったのになぁ」
その気の抜けた声が聞こえた瞬間、さらなる恐怖が湧いた。
声の持ち主を確認することでその恐怖は消えたが
安心もしなかった。
「あ、え、え・・・」
喉の奥が締め付けられているかのように、声が出ない。
やっとのことで絞りだせた言葉も随分とか細かった。
「だ、だれ・・・?」
「僕かい?僕は影さ」
ニコニコと笑う人物に色は無い。
真っ黒で、まさに影だった。
その言葉の意味も、子どもには理解が出来ずただただ
目の前の男を見る。
もはや疑問も浮かばない程に混乱していた。
「ごめんね、それ君の両親でしょ?」
そう言って影はもう手と足しか残っていない両親を指差した。
「まぁ、死んじゃったもんはどうも出来ないし。
君、他に家族とかいないの?」
その問いに対しては首を横に振った。
「そっかぁ、警察にも言えないしなぁ。
そうだ!僕が養ってあげよう!」
「嫌ですけど・・・」
言って後悔した。
安易に言葉を発したら殺されるんじゃ無いだろうか。
だが、この男。
僕が思っているような人では無かった。
「そりゃそっか!でもそうしたら君両親みたいに食べられちゃうよ?
あぁ、そうか。こうすればいいのか」
影は拳銃のようなものをどこからか取り出して僕の額に当てた。
「知られたからには協力してもらうよ。
その若さで死にたく無いでしょ?」
さっきとは打って変わり急に脅迫してきた。
それはもう頷くしかない。
「よし、良い子。君名前は?」
「・・・」
「あ、僕の事はヒロトって呼んで」
「僕は、古谷嘉也・・・」
「嘉也君ね。よろしく」
それが影との出会いであった。




