第四十九章「社畜」
死ぬ時は好きなものに囲まれて死にたいと思っていたが
どうやら俺の死に場は資料に囲まれたここになりそうだ。
「多くないですか」
「いつもの事だ」
神矢さんの仕事を手伝うとは言ったが、既に心が折れた。
敵前逃亡したい。
逆にどこからこんな大量の資料が出てきたのか。
中には何なのかよく分からないようなものもある。
「まるで嫌がらせですね」
「そうだな、多分これは俺を閉じ込めておく檻みたいなものだろう。
あの人は俺にあまり動き回って欲しくないみたいだしな」
冗談のつもりだったのだが、意外な答えが返ってきた。
あの人とは、神矢総監督の事だろうか。
「じゃあやらなくてもいいんじゃないですか?」
「監視されてるからな」
随分と生きづらい世の中だな。
「お前に被害が及ばないためにも大人しく仕事をしてた方がいいんだ」
「社畜ですねぇ」
このままだと本当に過労で死んでしまうんじゃないだろうか。
俺も神矢さんに迷惑を掛けないよう頑張らないとな。
翌朝、部屋に神矢さんの姿はなかった。
徹夜で仕事をしていたのだろうかと資料室も覗いてみたがいない。
どこに行ったんだろう。
闇雲に探していると、廊下で誰かと話しているのを見つけた。
見た事のない男だが、あんなやついただろうか。
遠目に見ていると、男が神矢さんを殴った。
「ちょ、お前!」
俺は走って神矢さんを庇う。
殴られているところを黙って見ているなんて出来ない。
「神矢さんに何するんだよ!」
「君は、誰かな?」
「弘崎っ!」
神矢さんに手を引かれ、神矢さんの後ろに隠された。
「申し訳ありません、彼は新人なので・・・」
「ほう?新人は全て報告しろと言っていた筈だが」
「それは・・・、こちらの手違いで・・・」
「ほう、手違い?」
男が俺を掴もうと手を伸ばしてきた。
その手を神矢さんが止める。
「何のつもりだ」
男が神矢さんを睨む。
神矢さんも男を睨む、
「それはこちらの台詞です。俺の部下に何の用ですか」
「私がお前の部下を鍛え直してやろう。手を放せ」
「それは出来ません。弘崎は、俺の部下ですから」
次の瞬間、神矢さんが倒れた。
今、何が起きた?
「馬鹿め、お前は生かされているという自覚が足りないみたいだな」
更に追撃をしようとしていた男に向けて俺は槍を振る。
割と殺意を込めて。
槍は相手を掠るだけで、虚しく空を切った。
「やはり、無能の部下は無能か。この状況が分かっていないらしい」
「神矢さんは無能じゃない!」
「神矢の奴に言われてたから大目に見ていたが、
今回は流石に罰が必要みたいだ」
男は俺に目を向けた。
「安心しろ、殺しはしない」
その瞬間、俺は悟った。
こいつには勝てない。
何とか神矢さんだけでも・・・。
俺は日誌に書いてあった記述を思い出した。
〝粒子同士のぶつかり合いを利用すれば、短距離のテレポートが可能である。
その為には、渦上に粒子を巻き上げる必要があるが
力を消耗するので使う事はないだろう〟
やった事はないが、やるしかない。
俺は神矢さんに向けて力を集中させた。
頼む、成功してくれ!
そう願って手を横に振ると、神矢さんが渦に包まれた。
そして、消えた。
「ほう、面白い事をするな」
相手が嘲笑ったのは見えたが、俺は限界を超えた疲労感に耐え切れず意識を失った。




