第四十七章「すれ違い」
「神矢さん!出掛けますよ!」
いつもより遅めに起こしに来たが、それでもまだ神矢さんは寝ていた。
いつものように起こすのは可哀想なので今日は起きるまで待つことにする。
「・・・」
「・・・」
神矢さん、起こさなかったらこのまま永眠するんじゃないだろうか。
「神矢さんまだ寝てるんですか?」
「・・・」
ピクリとも動かないけど、生きてるよね。
「神矢さん、生きてます?神矢さーん?」
「・・・」
「神矢さん!今死んだら後悔しますよ!」
「生きてるから、うるせぇよお前」
やっと起きてくれた。
昨日よりは元気そうだ。
神矢さんはいつものように珈琲の準備をする。
「それで?出掛けるって言われても、俺資料を片付けないと」
「起きてたんじゃないですか。大丈夫ですよ、俺が手伝いますから」
「大体、どこに行くんだ。行きたいところでもあるのか」
「住宅街の方に良い場所があるんですよ」
そこはきっと誰もいない。
知る人ぞ知る特別な場所。
そこならきっと神矢さんもリフレッシュ出来るはずだ。
「そうか、分かった。行こう」
「ふふん、楽しみにしてて下さいよ」
街は沢山の人がせわしなく動き回っている。
正直俺は人ごみが苦手だからこの風景は好きではない。
「暑い・・・」
「夏ですからね!」
神矢さんは施設にこもりっぱなしだから暑さに弱いんだろうな。
俺も相当引きこもりだとは思っているが
神矢さんは俺が誘わない限り外に出ない。
「見てくださいよ、雲もない晴天ですよ」
「前を見て歩け、ぶつかるぞ」
「きゃっ」
「うわっ」
言われてすぐに誰かにぶつかった。
見ると、女の子が尻餅をついていた。
俺は手を差し出す。
「大丈夫?」
「す、すいません!」
「いや、俺こそごめんね」
女の子は自分で立ち上がり砂を払って笑った。
「え、えと、男の子見ませんでしたか?
黒髪で、目つきが少し悪くて、白いパーカーを着てるんですけど」
「いや、見なかったけど?」
迷子だろうか。
弟と一緒に来たとかかな。
「どこ行っちゃったんだろう・・・」
「おい!谷口!」
女の子がキョロキョロとしていると一人の男が走ってきた。
なんだ、弟じゃなくて彼氏か。
「あ、時雨君!良かったぁ。急にいなくなるから心配したよ!」
「それはこっちの台詞だ。探したんだぞ」
そこで俺たちに気付いたのか怪訝な顔をされた。
怖いなぁ、何もしてないって。
「あんたら・・・、ん?」
男は神矢さんを見て首を傾げた。
「どっかで見たことある顔だな」
神矢さんも首を傾げる。
そして思い出したのか男を指差した。
「あ!お前ヒロトさんの所にいた・・・」
「あぁ、あの時の」
「神矢さん、知り合いですか?」
忘れてたって事は友達ではないだろう。
「知り合いの知り合いみたいなやつだ」
「へぇ、そうなんですか」
随分と不機嫌そうな顔をしてる奴だなぁ。
彼女とデートなんだからもっと笑ってれば良いのに。
「谷口、行こう」
男は女の子の手を引いて去ろうとした。
それを神矢さんが引き留める。
「ちょっと待ってくれ。その、ヒロトさんは、俺の事・・・」
「あんた、特殊部隊の人なんだってな」
男は神矢さんの言葉を遮って話し始めた。
「安心しろよ、先生はあんたの事を嫌ってるわけじゃない。
ただ、あんたが来ると居場所がバレるからあまり会いたくないんだと。
その証拠によく珈琲を送ってるだろ?」
「そうか、それは良かった・・・」
「俺もあまり関わるなって言われてるんだ」
「引き止めて悪かった、ありがとう」
男は頷くと、女の子の手を引いて去ってしまった。
「なんか愛想悪いなぁ」
「あれでいいんだ。彼らに迷惑をかけるわけにはいかない」
意外にも神矢さんはスッキリしたような顔をしていたので
それ以上は聞かなかった。
「さぁ、行きましょう!」
「あぁ」
住宅街のその先にある森、その更に奥に行くと植木で囲まれた場所がある。
その植木は神矢さんより高く生えていて通り抜ける事は出来ないように見えるが
俺は抜け道を知っている。
「こっちですよ」
「秘密基地みたいな場所だな」
「みたいじゃなくて秘密基地なんですよ」
植木を超えた先には黄色い花畑が広がっている。
そこは人の気配がなく神聖な感じがした。
「へぇ、凄いな」
「気に入ってくれましたか?」
「あぁ」
ここを知ってるのは俺ともう一人。
彼奴と出会ったのは確か俺がまだ七歳の時だ。




