第三章「最初の授業」
夜の十一時、俺はジャージ姿で路地にいた。
人影はまったくない。
ちなみにこのジャージは先生から貰ったものだ。
動きやすい方がいいとのこと。
「さて、今日君に教えるのは信号だ」
「信号?信号機か?」
「違う違う、モールス信号とかの方。
仲間と連絡を取るとき、どうしても音を出せない状況がある。
そういった時に信号を使うのさ。見てて」
先生は人差し指を立ててゆっくりと動かした。
すると、俺の体に小さな電流が走ったかのように痺れた。
「い、今のは」
「今のが信号。これを使って慎也を探そう」
「俺にもできるのか?」
「できるっしょ」
なんとも信じられない一言だったが、大丈夫だろうか。
こんな事してないで先生がさっさと見つけてあげた方が良いんじゃなかろうか。
まぁ、いいか。多分大丈夫なんだろう。
「まず、力の根源が人差し指の先にあるように意識するんだ」
言われた通り、人差し指に意識を向ける。
「これは振り方によって意味が異なるんだ。手前に振ってみなよ」
言われた通り手前に振ってみると、先程とはちょっと違った電流が自分に流れた。
「今の振り方は失敗例ね。自分に返ってくる」
なぜやらせた。
しかし、俺にも出来るものなのだという事は分かった。
「君才能あるよ。育て甲斐があるね」
「で、どうやって探すんだ?」
「実は彼には意味を読み取る事が出来なくてね」
「え、じゃあ今のは」
「意味を読み取れないだけだから、僕が昔モールス信号をみっちり教え込んだ。
僕が教えるから、その通り信号を送ってよ。あ、長さとかは感覚でやってみて」
適当だなぁ。無事見つけ出せるといいんだけど。
「覚えてね。トンツートンツーツー、トンツー、トン、トンツートンツートン」
今の覚えろとか無理だろ。モールス信号なんてやった事ないし。
「覚えられないって」
「そういうと思い、紙に書いてきました!」
はじめから渡してくれ。紙には点と棒線で書かれていた。
その通りに信号を送ってみる。
他に送る時は自分は感じないため、ちゃんと送れているかは分からない。
信号を送ってから、暫く沈黙が流れた。
失敗だったのかと思いかけていたその時、
「ヒロト!」
物陰から男の人が飛び出してきた。
「助けに来てくれると思ったよ。
いくら信号を送っても返事を寄越さないから少し心配したけど」
こいつ、気づいていやがった!
「まぁ、話は後で。一体どんな曲者に追われているんだい」
「この間商店街を歩いてたら急にダルマみたいな変なP2に襲われて、
というか、その子は?」
「あぁ、僕の教え子」
「なるほどね」
なるほどね。で片付けられるような事なのか。
それより、ダルマみたいなP2の方が気になる。
「追われてるんですか?」
「なんで僕にはタメ口で慎也には敬語なの?」
「そんな事よりP2は?」
「そんな事・・・」
落ち込む先生を放っておいて俺は谷口さんを見た。
「で、P2は」
「まだこの辺りにいると思うよ。町の方は特殊部隊がいっぱいいるから」
なら、なんとか撃退して谷口さんの元へお父さんを返してあげたい。
「先生、落ち込んでないでなんとかして下さい」
言うと、先生は目を輝かせた。この人、ほんと大丈夫かな。
「いや、そうだよね。少しは先生らしい事しないとね」
先生はコホンと咳払いをして真剣な顔つきになった
「撃退はまだ君には早いから、よく見ててね。見るのも勉強さ」
そういうと、先生はポケットからナイフを取り出して、手に傷をつけた。
すると、どこから来たのか化け物が姿を現した。
「ご馳走が自ら出てくるとはいい度胸だ」
「友人を付け回すのはやめて欲しいんでね」
「ほほう、三人か。今日はついてる」
「いいや、今日だけに君の運勢は凶だ。またの名を命日という」
先生が言い終わる前に、化け物は先生に襲いかかった。
「全然撃退できてないじゃん!」
「いや、見てるといいよ。ヒロトは凄いから」
そう言うと、谷口さんは上を指差した。そこには、先生がいた。
「最近リボルバーは辞めたんだ。今ではこいつだね」
どこから取り出したのか、先生の手にはショットガンが握られてた。
化け物は先生の姿を認識し、そちらに向かっていった。
「君には特別な弾を打ち込んで上げよう、一発で消えれる弾をね」
「ほざけ‼」
一瞬の出来事だった。銃声が聞こえたと思えば、何もかもが消えていた。
なんとも言い表せないような気分だ。
「どう、どう?」
「流石ヒロト」
「・・・銃声で、警察が来るんじゃないのか?」
「その心配はないよ。あの音は僕らにしか聞こえない。特殊な弾だからね」
「へ、へぇ」
この人は意外と凄い人なのかもしれない。
これで最下位に居座っていたなんて
特殊部隊の人達は一体どれ程の力があるのか。
俺の知らない世界は怖いものだな。
というか、なんか違和感があるんだよな。
なんだろう。まぁ、いいか。
「そういえば、さっきのモールス信号。なんて言ってたんだ?」
「あぁ、あれ?」
二人だけの合言葉だろうか。
「あれは、〝ていへん〟って言ってたんだ」
「あぁ、なるほど」
意外と安直な人でもあった。




