第三十三章「カメラマン」
今回は時雨君視点ではありません。
最近の怪奇事件。
俺はその真相の手がかりをやっとの思いで掴んだ。
その鍵となるのがあの男。
昼間は喫茶店を営む普通の男だが実は違う。
夜な夜な外を歩き回っては怪異と戦っているという、噂だ。
たかが噂、されど噂。
俺は一週間あいつの張り込みをする事にした。
そして今日は張り込み一日目。
なんてことはない、ただの喫茶店の店主だ。
バイトもいるみたいで怪しいところはない。
俺はフリーのカメラマンで、こんな事をする必要などないのだが
今回は特殊な理由があった。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
取り敢えず、外から見ているだけでは分からない。
一般人を装って中に入るか。
俺は怪しくない服装で店内へと入った。
「いらっしゃいませー」
やる気のない声で迎えられた。
バイトの男だ。
接客業だというのに笑顔を作ろうともしない。
「ご自由な席に座って下さい」
俺は会釈をしてカウンターへと座った。
すると、男に話しかけられた。
「いらっしゃい、オススメは紅茶ですよ」
「あぁ、ならそれで」
「かしこまりました」
男は上機嫌そうに紅茶を入れる。
本当にこいつが噂の人物なのか?
いや、世の中見た目だけではない。
「はい、どうぞ」
いい匂いと共に紅茶の入ったカップを目の前に置いた。
そしてまた話しかける。
「カメラマンなんですか?」
「あ、あぁ」
「いいですねぇ、どんな写真を撮られているんですか?」
「鳥とか、人とか、色々だな」
本当は違う。
が、本当の事を言うわけにはいかない。
「やっぱり心霊写真とか撮れちゃったりするんですか」
男は嬉しそうに聞いてきた。
まるで子供のようだ。
そんな調子につられてか俺も少し楽しくなってくる。
「そりゃな、幽霊ってのは本当にいるもんだぜ?」
「おぉ、プロが言うと真実味ありますねぇ」
「ま、嘘だがな」
「嘘なんですか」
男は少し残念そうに言った。
「そう残念がるなよ、いないと断言したわけじゃないんだ」
「でも一度も会わないって事は存在しないも同じですよねぇ」
「そんなに見たいのか」
「いえ、別に」
興味本位です。と言って男は笑った。
今更だが、こいつ俺と話していて大丈夫なのか。
仕事中だろうに。
ちらっと辺りを見ると、他に客がいなくなっていた。
カウンターの隅で先程のバイトが座って猫と遊んでいる。
「静かな店だな」
「やっぱり音楽とか流したほうがいいですかね」
客が少ないなと皮肉っぽく言ったのだが、普通に返された。
男は棚を漁って何かを取り出す。
「あったあった、蓄音機」
そう言って蓄音機の埃を払う。
「それ、使えるのか」
バイトの男が俺の隣まで来た。
緩すぎないか、この店。
「どうだろう。何か流してみようか」
男が蓄音機にレコードを入れて針を置く。
すると、古めかしい音が流れ始めた。
「なかなか渋い選曲だな」
「頂き物なんで」
「そうか」
「レコード、新しく買おうかな」
そうだな、と応えようとしてやめた。
なにを親しくなっているんだ俺は。
「あ、お会計お願いするよ」
「あぁ、いいですよ。お話代ということで」
「いや、そういうわけには」
俺は取り敢えず五百円玉を置いて店を出た。
きっとあれは昼間の顔だ。
夜まで待とう。
夜になると、噂通り男は店を出た。
俺はその後ろをついて行く。
男は住宅街の道で足を止め伸びをする。
怪異と戦うのか?
俺はじっと見つめる。
「やっぱり夜は涼しくていなぁ」
呑気に空を見上げているが、本当に倒すのか。
男は一向に動こうとしない。
「おい、何してるんだ」
後ろから、肩を掴まれた。
「ん?あんた昼間の」
振り向くとバイトの男が立っていた。
「時雨君、放してあげなよ」
「知り合いなのか?」
男が此方へと歩いてくる。
驚いた様子はない。
「いや、でも悪い人じゃないと思うよ。
ね、お兄さん」
俺は唖然とした。
この男、ずっと気づいていたのだ。
「あ、あんたらが、怪異と戦っているという情報が入ったんだ」
「怪異ってのはP2の事か?」
「多分そうだね」
男は俺に手を差し伸べる。
「驚かせてすいません。なんで僕に付きまとってるのか
気になったものですから、観察させてもらいました」
「気付いてたのか」
「時雨君に邪魔されたけどね」
「そりゃ悪かったな」
俺は、観察されていたのか。
なら、隠さずに言ったほうがいいだろう。
「俺は、怪異に妻を殺された。あの化け物は俺にしか見えてなくて
何も出来ずに殺されたんだ!その後、化け物について必死に調べた。
そしたらあんたらの存在を知ったんだ」
男は笑顔で俺の肩に手を置いた。
「それは大変でしたね。確かに僕らはその化け物に対抗する力を
持っています。でもこの町の人全員を助けることはできない。
奥さんの事、お悔やみ申し上げます」
俺は、手を振り払い土下座した。
男はいきなりの事に驚いている。
「頼む、この町を救ってくれ!
俺みたいな思いをする奴を少しでも減らして欲しいんだ!」
「それは・・・」
なぜか男は言葉に詰まる。
「約束は、できない」
でも、と男は続ける。
「最善は尽くします。その為に、協力して頂けませんか」
俺が顔を上げると、男は微笑んだ。
ああ、この人なら信用出来る。
そう思った。




