第三十一章「自分らしさ」
今日は水曜日。
店内はいつも以上に明るい。
それは谷口がいるという事だけではなかった。
「どうも、また来ちゃいました」
遠藤が、今日も来た。
「お、女性の方もいたんですね」
そういって谷口の元へと行くと挨拶をしていた。
二人が会うのは初めてか。
「お前、暇なのな」
「えへへ、友達いないんで」
遠藤は昨日と同じ席に座って紅茶を頼む。
どうも気に入らない奴だ。
出会った頃から好きではない。
だが、日に日に態度がでかくなっている気がするのは気のせいだろうか。
「ここの紅茶美味しいですよね!」
遠藤はよく先生に話し掛ける。
先生は笑って応えているが、本心は多分嫌がっているのだと思う。
遠藤とは一回も目を合わせないのだ。
「知り合いのオリジナルなんだ。ここでしか飲めないよ」
「それはいいですね」
どうでもいい会話をしているようにしか見えないが
なんとなく目を離せない。
ぼーっと二人の会話を見ていると、谷口がそれに気づいた。
「時雨君?どうしたの」
「いや、なんでもない」
「本当に?無理しないほうがいいよ」
この間のこともあったし、大分心配しているようだ。
「本当に大丈夫だ」
「時雨君何も言わないから心配しちゃうんだよね。
何かあったら気軽に相談してくれていいんだからね」
「あぁ、ありがとう」
谷口は名残惜しそうに去っていった。
谷口はいい奴だ。
俺の悩みには巻き込めない。
まぁ、本当に悩んでいないんだがな。
午後二時くらいになった頃、最後の客が店を出た。
店内に落ち着きが戻る。
「疲れたぁ」
谷口がカウンターに腰掛けると、先生が紅茶を出す。
「あ、ありがとうございます!」
「時雨君も座りなよ」
先生が俺の分も紅茶を出した。
遠慮なく座る。
「夏休みもあと半分かぁ」
「半分もあるのか」
「課題、やってないなぁ」
谷口が暗い顔をして言った。
そんなことだろうとは思ったが、いつやるつもりなのだろう。
俺は既に終わっているので心配はない。
「谷口さんは夏休み中何かしたかい?」
「今年は暑いですからね、家に篭りきりですよ。
でも絶対時雨君とカラオケ行くんです!」
冗談じゃなかったのか。
「それはいいね、初デートってやつかな」
先生が茶化すように言うと、谷口は必死に手を振って否定した。
「ち、違います!もう、からかわないでくださいよ!」
「あはは、いい反応だねぇ」
「そういうマスターさんは好きな人とかいるんですか?」
振られると思ってなかったのか、ちょっと返事が遅れていた。
「僕かい?そうだなぁ、どうだと思う?」
「でもマスターさんかっこいいですし、モテそうですよね」
照れちゃうなぁと言いながら先生は笑った。
「先生の場合性格に難ありだろ」
「辛辣だなぁ、時雨君は」
「俺のアイデンティティーだ」
「あぁ、確かに時雨君が明るくなったら時雨君じゃないかも!」
谷口が真剣そうな顔で言った。
俺は今馬鹿にされたのだろうか。
先生が笑いながらそうだねと言っている。
やはり、馬鹿にされたのか。
谷口に悪気はないのだろうけど。
「冗談だ、やめてくれ」
「時雨君も冗談言うんだ!」
「流石に傷つくぞ」
谷口はさっと口を押さえてごめんと言った。
「でも時雨君あった時より大分明るくなったよね」
それは間違っていないかもしれない。
昔より口数も増えた。
「谷口の性格が移ったのかもな」
「じゃあいつか私みたいになるのかな」
「谷口さんみたいな時雨君かぁ」
先生は思い浮かべたのか笑っていた。
「流石にそこまではな・・・」
「それじゃあまるで私の性格が悪いみたいじゃない」
「まぁほどほどにだよね」
酷い、と谷口は笑った。
こんな日なら、いつまでも続いて欲しい。
そう願うのは初めてかもしれない。




